オピニオン・記事

危機を克服して進化する吉野家流経営

~「吉野家ウェイ」に見る現場を活かす価値追求マネジメント~

更新日 : 2008年04月09日 (水)

第1章 値下げしても、味と品質を保ち、利益も守った「吉野家ウェイ」

安部修仁

安部修仁: 今回のテーマは「危機を克服して進化する吉野家流経営」ということですが、進化したかどうか結果の成否が出るのは短いレンジでも3年後、普通は10年後です。従って私たちが今やっていることが有効かどうかは、これから分かることです。しかし、私たちは「有効だ」というつもりで、現在様々なことに取り組んでいます。

今日は2つのことをお話します。1つは「吉野家ウェイ」の解説、定義、想いについて。もう1つは「現場を活かす価値追求マネジメント」に対するスタンスについてです。また、この2つを歴史的に実践してきた事実もダイジェストでお伝えします。

まず、「吉野家ウェイ」について。これはアカデミーヒルズの事務局の方が、私たちの行動指針に対してつけた言葉です。私たちが普段使っている言葉ではありません。私は社内の人間には、こんなメッセージにして伝えています——創業以来、試行錯誤を重ねて牛丼を作り続けてきたことで獲得したナレッジがあるはずだ。それは吉野家固有のナレッジで、吉野家の様々な分野に活かすべきだ——と。

私がもし吉野家の人間ではなくお客さまの立場であったなら自社の活動を自分で「吉野家ウェイ」と呼ぶ会社には、傲慢さを感じてしまいそうです。ですが今日は、事務局がせっかくつけてくれたということで、「吉野家ウェイ」という言葉を使ってお話したいと思います。

「吉野家ウェイ」は、次の2つのシーンで活用しています。

アカデミーヒルズで開催した安部修仁氏のBIZセミナーの様子
1つは、マーチャンダイジング・マネジメントにおいて。外食産業では、ローマテリアル(素材)を商品としてお客さまに提供するまでの間に、様々な工程があります。素材の入手や加工や保存などです。その一つひとつの工程において、クオリティの面でもコストの面でも他社にない強みを発揮し、お客さまにとっての価値を生み出さなければなりません。これを実現するために、吉野家では、全工程を自らの意志で設計しています。コストは何に掛かっているのか把握し、余計なものは徹底的に取り除きます。しかし、味を構成する要素は何よりも優先順位を高くしているので、他は削っても、これを削ることはありません。

「全工程を自らの意志で設計する」というのは、メーカーからすると当たり前のことですが、外食産業においては非常に珍しいケースだと思います。外食産業では多くの場合、調達のところがブラックボックスになっています。スペックだけ伝えて、あとは商社や専門業者に委ねてしまうのです。そのため、全てについて中身を認識してオーダーしている企業というのは少ないのです。吉野家のように、ローマテリアルまで完全にコントロールしている企業はほとんどありません。

「吉野家ウェイ」のもう1つの活用シーンは、ストアーオペレーション・マネジメントにおいてです。これは、店舗のチェーンオペレーションをマネジメントするということで、言葉にすると無機質ですが、ヒューマンな感情や熱い想いで醸成されているものです。しかし、ムダなコストを発生させないためには、個人の善意や能力、あるいは努力といったものに依存しないシステムが必要になります。

2001年に牛丼並盛の価格を400円から280円に改定しましたが、値下げにあたってのルールは、「味や品質を劣化させないこと」且つ「利益を落とさないこと」でした。値下げはするけど、味と品質を保ち、利益も守る……二律背反とも言えるこの命題をクリアするために、厨房の機器や配置、従業員のフォーメーションはもちろん、社内の習慣や概念といったものまで、全てをリセットして組み立て直しました。

このような変質的ともいえる追求の仕方は、吉野家がナレッジとして持っているものだと自負しています。


該当講座

危機を克服して進化する吉野家流経営
「吉野家ウェイ」に見る現場を活かす価値追求マネジメント
安部修仁 (株式会社吉野家ホールディングス 代表取締役社長)
米倉誠一郎 (日本元気塾塾長/法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授/ 一橋大学イノベーション研究センター名誉教授)

創業108年、「うまい・やすい・はやい」のキャッチフレーズで、牛丼を提供し続ける吉野家。1980年の倒産、そして2003年のBSEによる2年7ヶ月に及ぶ牛丼販売中止という2度の危機に見舞われながらも見事に復活を果たし、現在はグループ全体で1355億円を売り上げています。 BSE問題の最中も日々の改善....


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