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楽天イーグルス島田亨社長が語る「経営の本質」

BIZセミナー経営戦略
更新日 : 2008年06月02日 (月)

第3章 評価制度で成績を上げる

島田亨

島田亨: 例えば、盗塁がうまそうな選手がいて、データを見たら盗塁成功率が7割。盗塁を企画した数は去年10個のうち7個成功していることですね。その選手を呼んできて、「今年はシーズン通して5割を超えていればいい。5割超えたら成功した盗塁も、失敗した盗塁も全部成功でカウントして、インセンティブをやるよ」と。そういう評価をしてあげたとしたら「半分でいいんだったらお得だな」と思う。

それで企画する数を30ぐらいにすると、やっぱりプロですから、成功率というのは7割がせいぜい6割5分ぐらいに落ちるだけ。そうすると30掛ける6割5分ということは、去年7つしか盗塁しなかった選手が20成功する。ヒットに換算すると13本ぐらい多く打ったということと一緒で、しかも相手のピッチャーにしてみるとヒットを打たれるよりも精神的にダメージを受けるんです。

このように評価制度みたいなもので盗塁やフォアボールを増やすということをやっていく。選手には基本年俸というのがあって、その上に出来高というのがあります。普通の会社でいえば固定給プラス歩合ですよね。ところが野球界における歩合というのは、歩合の意味を成してないんです。

例えば、2億円はギャランティーするけれど1億円は出来高という場合怪我なくシーズンを普通にやってくれれば3億円ちゃんと払うよ——というのは、歩合の意味を成してないんですね。3億円をギャランティーしている選手と比べたら、おかしな話です。

でも、一球団だけが違う形で明確な歩合にしようといっても無理なので、うちの会社で第2インセンティブというのをつくりました。例えばさっきの盗塁 の件では、その選手の年俸の10%ぐらいに設定する約束をしてあげる。こういうインセンティブは、バランスがすごく難しいのですが、設定のさじ加減次第 で、それなりに意識できたうえ、チームワークを勘案してその成績を出そうとしてくれるので、まさに企業の評価制度と一緒です。

だから評価制度を戦略的にやるかやらないかというのは会社の業績にも影響しますし、野球でいえばチームの成績にも影響してきます。

結果、決して派手な試合はやってないのに1点差のしのぎ合いのゲームに強い球団になったということは、知恵と工夫よって成果が出てきているということですね。ありがたいことに去年(2007年)の観客動員数は、パ・リーグの中では対前年比で伸び率ナンバーワンでした。

球団経営をはじめた当初は、スポンサーを取ってくるセールスだとか、チケットを売る興行に集中していたんですけども、メーカーもいくらマーケティングがよくても品質が悪かったらお客さまは買わなくなるわけです。まさに製造部門のチームのつくり方というのはメーカーがいかにローコストでクオリティの高 いものを出すかということと全く同じです。ですから、営業興行と製造部門を両方見られないと球団社長はつとまらないと思います。

今はチームをどう強くするかというのを野球ファンという視点じゃなくて、まさにメーカーの社長という視点で取り組むことが一番おもしろいなと思いま す。結局、会社経営と一緒なんですけど、常勝チームというのは、つくろうとするとゆがむと思うんです。我々は一球団だけが勝っていればいいわけじゃなくて、おもしろいゲームを見せられることによって野球の全体の人気が上がる。もちろん野球をやっているからには、いつか優勝したいということは思いながらも、別に毎年優勝しなくてもいいと思っています。

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