記事・レポート

常識を再構築するカタリストたちの頭の中

更新日 : 2022年03月10日 (木)

経済のリデザイン テクノロジーで人とものとの関係を新たにつなぎ直す
~荒谷大輔(江戸川大学 基礎・教養教育センター教授、センター長)



2021年にスタートしたアカデミーヒルズの新企画、カタリスト・トーク。議論を促進する触媒となるカタリストたちの問題意識をベースに、常識を再構築し、社会における新しいつながりを模索しています。 カタリストのお一人、哲学者の荒谷大輔さんの企画では「新しい経済のリデザイン:新しいも人とものとの関係をつなぐ」をテーマに掲げ、人やものの「つながり」を規定する新しい「経済」の形を模索しています。

資本家による支配、格差拡大、環境破壊など、現代の資本主義経済の問題点が指摘される中で、あらゆるものの民主化が進むと想定されたインターネットの世界でもGAFAに代表されるプラットフォーマーがデータを独占し、支配を強める仕組みが明らかになっています。テクノロジーの進展がもたらす可能性を取り込みながら、私たちが理想とする経済を実現するにはどうしたら良いのでしょうか?

荒谷さんが構想するのは、ブロックチェーン技術を使った小規模コミュニティの中で形成する新たな経済圏です。

あらゆる分野のゲストをお迎えして、新しい経済の形を考えるトークシリーズを企画する一方で、荒谷さんとアカデミーヒルズは新しい試みを始めています。

それが、アカデミーヒルズ会員制ライブラリーのメンバーとブロックチェーンやNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)について、手を動かしながら学ぶ勉強会です。この場を通して小規模コミュニティの中での経済圏を実際に体感することも考えています。

このページでは、個人をエンパワーする新しい経済のあり方を模索する荒谷さんの問題意識について、彼のアカデミーヒルズでの活動をもとに皆さんにご紹介します。
ライブラリー会員限定募集!ブロックチェーン、NFT活用法を考える勉強会
「新しい経済=新しい人ともののつながり」を考える上で、荒谷さんが可能性を見出しているのがブロックチェーン技術です。
ブロックチェーン技術はスマートコントラクト(ブロックチェーン上であらかじめ設定されたルールに従って契約を自動的に実行する仕組み)で人間が介在せずに取引が行われます。取引履歴が全て公開されることで透明性が担保され、データ改ざんが困難という特性がもたらす信頼性も担保されていることから、荒谷さんは「資本の民主化」が起きる可能性があると感じています。

もう一点、荒谷さんが「新しい経済」を考える上で重視しているのが、個人の意思が尊重されることです。直接自分の意見が組織に反映されやすい小規模コミュニティであれば、自分のやりたいことが尊重され、自発的なコミットメントに基づいて労働と対価の交換がしやすくなります。そういった小規模コミュニティ内で既存の貨幣(お金)ではなく、コミュニティ内独自の価値基準に基づいた地域通貨のようなトークンをNFTやブロックチェーンを活用して流通させることで、個人の意思が尊重された活動でコミュニティ内での信頼をベースにした新たな経済圏を目指すことができるのではないか?その先に、複数の小規模コミュニティをつないでいけば、規模がものを言う既存の資本主義にも対抗できるようになるのではないか?と荒谷さんは考えています。

そこで、ブロックチェーン技術の動きに詳しい荒谷さんとともに、ライブラリー会員を対象に勉強会をスタートしています。実際に手を動かしてブロックチェーンやNFTを自分で使ってみて、体験しながら学ぶことで、例えばライブラリーの中でどのように活用できるかを各メンバーの意見を取り入れながら、運用していきたいと考えています。

ブロックチェーンやトークン、NFTは最近メディアでよく目にする言葉ですが、多くの人にとって、気になってはいるけどよく分からない、というのが実情ではないでしょうか。社会の仕組みを一変させる可能性があると言われるブロックチェーンやトークンについて、会員の皆さんと一緒に勉強しながら、小規模コミュニティの中で各個人が貢献した場合に獲得できるトークンをコミュニティ運営にどう活用していくかなども将来的には検討できたらと思います。

ライブラリー会員の方で、この勉強会への参加に興味がある方はお問合せフォームよりライブラリー事務局までご連絡ください。会員であれば、どなたでもご参加いただけます。
荒谷大輔さんインタビュー(Library Podcast)


2021年9月に開催した荒谷さんのカタリスト・トーク第2回「アートにおける市場原理主義」(イベントリンク挿入)では、社会学者でカルチュラル・スタディーズ専門家の毛利嘉孝さんと資本主義経済とアーティストの活動の関係について議論しました。

芸術と資本主義の関係を考えることは、人間が何を価値とするのかを考える上で重要な示唆を与えてくれます。本来、市場原理の需給関係とは遠く、「売れる」ことを目的にしていない芸術活動が、最終的には金額に還元されなければ価値評価ができないがために「商品」として消費されていく矛盾に苦しむアーティストも多くいます。

「お金を稼がないと生きていけない」という前提の社会で、アーティストの活動は労働なのか?を考えることは、「そもそも労働とは何か?」という労働観にもつながります。

荒谷さんが模索する新たな経済のあり方を考える上で、毛利さんとの対談の中で出てきた次の3つのキーワードが参考になります。
①「個人の意思と一般意志(組織の論理)の乖離が生む搾取」
②「個人主義の加速がもたらす心の問題」
③「若い世代が作る新しい文化への期待」

毛利さんをお迎えしたイベント開催後に実施した荒谷さんへのインタビューで、これら3つのキーワードを分かりやすく解説していただきましたのでポッドキャストでご紹介します。それぞれ5分程度ですので、ぜひ気軽にお聴きください!

インタビュアー : アカデミーヒルズ 福岡大輔


1/「一般意志と個人の意思の乖離=搾取」 荒谷さんがここで言う「搾取」とは、「資本家(雇用者)が労働者から搾取する」ということではなく、個人が価値だと思うことと組織(会社)の方針の不一致から生じる個人のコミットメント喪失を意味します。荒谷さんが可能性を見出すのは、搾取が生まれにくいとされる小規模コミュニティでの活動。毛利さんとのトークでもコミュニティの中で活動するアーティストの話が出てきました。小規模コミュニティの中で地域通貨(トークン)を使う経済圏をイメージする荒谷さんが、なぜ「小規模コミュニティ」に可能性を感じているのかが、このインタビューで聴くことができます。

2/個人主義の加速がもたらす心の問題 毛利さんとのトークでは、必ずしもお金を得ることを目的としない芸術活動が、最終的には金銭価値だけで測られ、商品化されることに苦しむアーティストの心の葛藤(うつ病)が資本主義の弊害として指摘されていました。資本主義を突き詰めると、なぜ心が不安定になるのでしょうか?成果主義、個人主義によって個人が「自分」ではなく、自分のアウトプットだけで評価される現代の問題が浮かび上がります。個人をつなぎ直す必要性について考えさせられるインタビューです。

3/Z世代の文化の作り方に希望が見える 毛利さんが最近気になっているのは、絵画や彫刻など、従来のような目に見える物質的な「作品」の創作するのではなく、地方に移住し、古民家を改装してコミュニティに入って活動するZ世代の若手アーティストたちが増えてきていることだといいます。過疎地域のシェアハウスでコミュニティを作って共に住み、農家の人たちと一緒に新しいことを試みるなど、そのコミュニティの中で新しいプロジェクトをデザインする若手アーティストの存在に、荒谷さんも注目しており、自分たちの価値基準で定めた独自の地域通貨で回る経済圏への期待を膨らませています。ここでは主にZ世代の観光という視点から話しています。