記事・レポート

常識を再構築するカタリストたちの頭の中

更新日 : 2022年01月18日 (火)

未来を予見する4つの法則 ~藤沢久美(シンクタンク・ソフィアバンク 代表)



2021年にスタートしたアカデミーヒルズの新企画、カタリスト・トーク。議論を促進する触媒となるカタリストたちの問題意識をベースに、常識を再構築し、社会における新しいつながりを模索しています。
カタリストのお一人、シンクタンク・ソフィアバンク代表の藤沢久美さんの企画は、「人はなぜ都市をつくるのか?」をテーマに掲げ、歴史を振り返り、都市の暮らしの原点を思想哲学的に見つめ直すことで、未来のライフスタイルを妄想するシリーズです。
「一人ひとりの意識改革と社会参画によって、社会が変わる!」という想いを胸に、未来を創造するために活動する藤沢さんによる「未来を予見するための手法」をお届けします。


文 : 藤沢久美(シンクタンク・ソフィアバンク 代表)
未来を予見し、試行を始める時
21世紀に入り、第四次産業革命やデジタルトランスフォーメーションなどのタイトルがついた本が書店に並び、世界は、デジタル技術の急速な発展による社会の変容への模索を始めていましたが、新型コロナウィルス感染症は、この状況を一気に新たなフェーズへと加速させたと言われています。しかし、コロナ禍では、国境を越えての移動は以前に比べ難しくなり、海外の国々がどのように変容しているのかを肌感覚を持って知ることができません。近い将来、自由に海外へ行き来できるようになった時、各国各様の変化を見るのが楽しみでもあり、不安でもあります。

日本は、デジタル庁が設立され、ようやくデジタルサービスインフラへの着手が始まり、行政も企業も生活者も本格的な変化の渦の中に突入することになります。これをチャンスにするには、先回りをして、さまざまな仮説を立て、準備をし、新たな取り組みを小出しにしながら試行していくことが必要です。

世の中の変化には、3つのステップがあります。第一ステップがインフラの変化です。次に、第二ステップとして、ビジネスが変化を始め、最後に第三ステップとして、ライフスタイルが変わります。この3つのステップが一通り行き渡った時、新たな社会の姿が常態となります。今回は、新たなビジネスを考える上で活かすことができる、第一ステップと第二ステップにおける変化を予見する4つの法則をご紹介します。

インフラ変化を見極めるには
まずは、インフラの変化。過去の有名なインフラの変化といえば、馬車から自動車へという移動インフラの変化がありました。今では、儀式以外で馬車で移動することは皆無ですが、当時は、自動車への移行に懐疑的だった人は多くいたようです。現在に置き換えると、電気自動車への移行や自動運転への移行についても、少し前までは懐疑的だった人が多数いました。その他には、エネルギーの革命も同様です。
さて、こうしたインフラの革命とも呼ばれるような変化の兆しが複数見え隠れするときに、本当に主流となるものとならないものを見出すための一つのポイントがあります。それは、その変化が、人間がラクになれるか、より儲けやすくなるかという視点で見ることです。例えば、馬車から自動車へと移行した際を振り返ってみると、毎朝晩、馬に餌をやったり、干草の掃除をしたりする手間から人は解放され、時間に余裕が生まれます。また、自動車を使えば、馬車よりもより遠く、より多くのものを運ぶことができるようになり、商圏や商品の販売量を拡大することができるようになります。インフラの変化を占う際の法則は、「人は易きに流れる」ということになります。

ビジネスの変化対応は、染み出し方式で
続いて、インフラの変化が起こると、ビジネスモデルが変わっていきます。どのようにビジネスはインフラ変化に対して変わっていくのかを予見する方法として、3つの法則をご紹介します。
一つ目は、変化対応です。かつての馬車から自動車へと移動インフラの変化に対応した有名企業の一つに、エルメスがあります。エルメスはかつて馬具を作る会社で、馬や馬車で物を運ぶ際のバッグ(袋)も作っていました。移動が自動車に変わったとき、馬車時代に使っていたバッグを使ったところ不具合がありました。それは、自動車の振動が激しくて、バッグから荷物が飛び出してしまうのです。そこで、エルメスは、カナダで見つけたファスナーを、世界で初めてバッグにつけたのです。これにより移動中も荷物が飛び出さない便利なバッグが生まれたのです。移動時の道具を提供していたエルメスは、移動手段の変化に対応して、道具を進化させたのです。したがって、変化対応のための法則2は、「染み出し」です。飛び地を探すのではなく、自社製品サービスから染み出すように新たなものを生み出すことです。
産業の変化は、螺旋階段で見通す
ビジネスを予見するための二つ目のポイントは、産業の変化です。新たなインフラを活用し、産業がどのように変化するかを予見するための法則3は、「螺旋階段」です。螺旋階段は、横から見ると上に登る(下に降りる)階段ですが、真上から見ると、円に見えます。螺旋階段を1階分上がると、360度一周して元に戻ってくるように見えます。つまり、物事が発展発達する際には、発展すると同時に昔の姿を彷彿させるものが復活してくるという意味です。

例えば、昔のコミュニティには、徒歩圏内に、なんでも売っている万屋(よろず)さんがあり、文房具、お菓子、乾物や調味料、下着など生活に最低限必要になりそうなものを買うことができました。しかし、流通や物流のインフラが進化し、郊外に大型スーパーが誕生します。この段階で、螺旋階段は180度昇ることになり、スーパーと万屋さんは、一見、正反対の存在に見えてきます。ところが、さらにPOSによる在庫管理技術やチルドインフラなどが整うと、家の近くにコンビニエンスストアという形で、万屋さんが進化して復活しました。コンビニエンスストアは、よく見ると、万屋さんの特徴とスーパーの特徴の両方を持ち合わせていることにも注目が必要です。
このように、現在を螺旋階段の180度昇った場所として位置付けて、過去には存在したが、今は消えているものは何かを探し出してみると、次に復活してくる構造変化が見えてきます。(*この螺旋階段の法則は、田坂広志著「使える弁証法」を参考にしています)
事業進化は、スタートアップで予見する
次は事業進化です。新たなインフラのもとで、次にどんな新ビジネスに着手するべきかを予見するための法則4は、「スタートアップの観察」です。既存事業と似た事業を行うスタートアップを見つけ、どのようなビジョンとビジネスモデルを展開しているかを確認し、自社の新ビジネスに活かす考え方です。例えば、アニコムというペット保険の会社では、保険に入ったペットが病気や怪我をしにくくなるような情報サービスを提供し、保険に加入することでペットの怪我や病気への遭遇率を下げることをめざして、事業を立ち上げました。アニコムは設立されて20年になりますが、今ようやく自動車会社が、「データで事故のない社会をつくる」というビジョンを掲げた自動車保険づくりに着手しています。ペット保険に入る人の真に望んでいることは、ペットがずっと元気でいることであり、自動車に乗る人の真の望みは安全に車に乗ることです。スタートアップは、既存企業が無理だと思っていた顧客の真の望みの実現に先んじてチャレンジしていたのです。

未来を予見するだけでなく、未来を創る活動にも着手しています
左からCreative Project Base 代表の倉成英俊さん、藤沢久美さん、FORBES JAPAN編集長の藤吉雅春さん(人生を「投資思考」で変える104consortiumにて)

また、米国では、完全にスマホで完結する金融サービス「マーカスバンク」が人気を博しています。大手の金融機関ではまだ完全にスマホ完結のサービスは手がけていませんが、おそらく大手金融機関も時間差でこの形を踏襲してくると思います。テスラも大手自動車メーカーよりも先に自動運転機能を搭載したことは記憶に新しいと思います。スタートアップのチャレンジを時期尚早だと冷ややかにみるのではなく、法則1の人をラクにするのかということに加えて、人が本当に望んでいるものを新たなテクノロジーを使って実現しているかという視点で見つめてみると、自社の未来の姿も透けて見えてくるのではないでしょうか。

今回は世の中の変化が起こる3つのステップのうち第一ステップと第二ステップにおける、未来を予見する4つの法則をご紹介しました。第一ステップであるインフラが変わり、第二ステップのビジネスが変わると、第三ステップとして働く人や消費者など、ビジネスと密接に関わる人たちのライフスタイルも変わっていきます。まずは、4つの法則を活用しながら、ご自身のビジネスがどのように変わっていくか、そしてそれを通じて、働き方や生活者はどんなふうに変わっていくかを妄想してください。紡ぎ出されてきた予見を今後のカタリスト・トークを通じて、みなさんと語り合えるのを楽しみにしています。