記事・レポート

書物の‘エスプリ’

本とは何か?~その答えを求めて

更新日 : 2020年03月17日 (火)

第2章 書物は、世界を変える


人類史に影響を与えた書物

澁川雅俊『世界を変えた本』〔M・コリンズほか著/エクスナレッジ〕は、標題自体が書物‘エスプリ’を表しているようです。書物がこの世に現れたのは5000年前、つまりそれは、人類が文字を使い始めてからのこと。以来、人は森羅万象にかかわる事実(認知認識の結果)、空想の物語、心のありようを記し、周囲に影響を与えてきました。本書は紀元前3000年から現代に至るまで、世界に多大な影響を与えてきた約100点の古典・名著を取り上げ、その理由を図版入りで詳しく解説しています。一例を挙げると次のようなものがあります。
・紀元前:『死者の書』『マハーバーラタ』『死海文書』
・10世紀以前:『ディオスコリデスの薬物誌』『ケルズの書』『コーラン』『金剛般若経』
・15世紀以前:『源氏物語』、『医学典範』『神学大全』
・17世紀以前:『グーテンベルク聖書』『神曲』『レスター手稿』『君主論』『人体構造論』『ドン・キホーテ』『シェークスピアの喜・史・悲劇』
・19世紀以前:『国富論』『種の起源』『資本論』『ジョンソン英語辞典』『人間の権利』『不思議の国のアリス』
・20世紀以降:『一般相対性原理』『星の王子さま』『アンネの日記』『わが闘争』
『第二の性』『沈黙の春』『毛沢東語録』などなど。


『世界を変える美しい本』〔ブルーシープほか編〕は前書と似た標題ですが、こちらは副題に「インド・タラブックスの挑戦」とあります。南インドにあるこの小さな出版社は、手漉きの紙にシルクスクリーンで印刷し、手製本で仕上げたハンドメイド絵本が特徴で、世界中の愛書家の注目を集めています。本書は、同社の成り立ちから本作りの哲学、多様な文化を内包する本の制作工程を解説しています。偶然にも六本木ヒルズライブラリーは、同社の邦訳絵本『夜の木』〔シャームほか作・絵/タムラ堂〕を架蔵していますが、手にするだけで不思議な‘温もり’が感じられる一冊です。

失われた人類の‘記憶’を想う

澁川雅俊『書物の破壊の世界史』〔F・バエス著/紀伊國屋書店〕は、「シュメールの粘土板からデジタル時代まで」と副題が付けられており、本を愛でる気持ちを逆撫でするように、本にまつわる破壊の歴史を追究し、その行為に及ぶ人びとの心理にも迫っています。本はその長い歴史の中で、世の中を一変させてしまうほどの力を発揮してきた一方、さまざまな理由で消滅することもありました。原因は、火災・水害などの天災、書写(印刷も含む)材の劣化、本物の‘本の虫’による被害、人間の本に対する無関心さなど……。中でも悲惨な原因は、為政者による検閲、戦争・紛争であり、その例は少なくありません。

紀元前、粘土板書物が発達したメソポタミアでは多くの民族紛争により、敵方の文書や伝承記録の破壊が繰り返されました。アレクサンダー大王配下の武将が創立した古代アレクサンドリア図書館も、シーザー率いるローマ帝国軍の攻撃を受けて蔵書の大部分が焼失したと伝えられています。秦の始皇帝が、意に沿わぬ内容の本を国中から徴収して燃やした「焚書坑儒」事件もありました。さらに、20世紀に勃発した二つの世界大戦、その後多発した地域紛争でも多くの書物が破壊されています。


ほかにも、1986年にロサンゼルスで起きた図書館火災の顛末を描いた『炎の中の図書館~110万冊を焼いた大火』〔S・オーリアン著/早川書房〕、『ナチ、本の略奪』〔A・リデル著/国書刊行会〕などがありますが、失われてしまった人類の‘記憶’、文化の消失をもたらす愚挙の歴史を知ることもまた、書物の‘エスプリ’を考えることにつながります。


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