記事・レポート

書物の‘エスプリ’

本とは何か?~その答えを求めて

更新日 : 2020年03月17日 (火)

第3章 書店を巡る人生の旅


人と本、街と本のかかわり

澁川雅俊:スペイン人作家による『世界の書店を旅する』〔J・カリオン著/白水社〕は、書物‘エスプリ’の宿屋と言える「書店」を主人公とした紀行エッセイです。世界各国、およそ300店を訪れた作家は、店主やそこに集う人びとのエピソード、街の文化に光を当てながら書店の歴史をひもとき、「私たちにとって書店とは何か?」と問いかけています。それぞれの建物や佇まいの美しさとともに、書店という場や存在のみが果たしうる役割にも注目し、書店の未来に言及しています。


本屋巡りをライフワークとし、書店に関する著作も多いイラストレーターによる『世界の本好きたちが教えてくれた 人生を変えた本と本屋さん』〔J・マウント著/エクスナレッジ〕も、本への愛情が感じられる一冊です。街の本屋、図書館、個人の本棚などを描いたカラフルなイラストとともに、世界中の読書家が愛した1,000冊余を紹介しています。


本屋が肩を寄せるように集まると、そこは‘本の街’と呼ばれるようになります。日本では東京・神保町の古書店街が有名ですが、『世界のかわいい本の街』〔A・ジョンソン著/エクスナレッジ〕はウェールズのヘイ・オン・ワイなど、世界各地にある40余の‘本の街’を取り上げ、美しい写真とともに街の成り立ちを解説しています。

世界を旅する本屋さん


澁川雅俊:書店が書物‘エスプリ’の宿屋であれば、「小さな村の旅する本屋の物語」と副題の付いた『モンテレッジォ』〔内田洋子著/方丈社〕は、その運び屋でしょうか。著者はふと立ち寄ったヴェネツィアの古書店で、かつてトスカーナの山深い村にいた「担ぎ本屋」(本の行商人)の子孫と出会い、イタリアはもとよりヨーロッパ一帯、遠くはアルゼンチンまで行商した人びとのことを知り、彼らの足跡を追い求めます。

モンテレッジォは特産物もない山村でしたが、古くから都市を結ぶ交通の要所で、村人たちは数百年前から近くの村で仕入れた大理石を担ぎ、さまざまな街に出向きました。そのうち、大理石が売れたら本を仕入れるようになり、本を行商する仕事を代々の業として続けてきたといいます。現代に至り、行商人の中から街に定着して本屋を開業する者が現れるようになり、著者が出会った古書店の店主はそうした者のひとりだったのです。

他方、『古くてあたらしい仕事』〔島田潤一郎著/新潮社〕は書店ではなく、未経験から立ち上げて開業10年を迎えた‘ひとり出版社’の自叙伝的エッセイです。「ぼくは具体的なだれかを思って、何度も読み返される本をつくる」という想いを胸に、ひとり悩み、迷いながら真摯に本と向き合ってきた著者が、自身の歩みと本の未来を語っています。デジタル本の現実が予感される今、著者は紙の本から呼び起こされる読者の書物‘エスプリ’に期待しています。


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