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いにしえの物語~この国は、いかに成り立しか

「古代史小説」を読む

更新日 : 2020年01月14日 (火)

第3章 地政学的に読み解く古代史

古代の外交史(朝鮮半島、遣隋使、遣唐使)
澁川雅俊:日本と中国、朝鮮半島は古来より地政学上、密接にかかわっています。よく知られているのが遣隋使、遣唐使でしょう。『姫神』〔安部龍太郎/文藝春秋〕は、推古天皇の治世初期、朝鮮半島(百済、高句麗、新羅)と日本との争いを憂慮した厩戸皇子が、東アジアの安定を図るべく遣隋使の派遣を実現するまでの物語ですが、宗像大社(北九州市、世界文化遺産)の若き巫女の目を通して語られていきます。

遣隋使の実現はまさに艱難辛苦の道程でした。蘇我氏一派と百済の貴族がこれに反対していたからです。新羅人の血を引く宗像氏の娘である巫女は、新羅と百済の騒乱で両親を失ったことから、一途に平和を願う厩戸皇子に共感し、宗像氏一族を動かして遣隋使派遣に協力します。やがて反対派の執拗な妨害を乗り越え、小野妹子の派遣によって倭・百済・新羅と隋の外交関係が成立します。

『遥かなる大和〈上・下〉』〔八木荘司/KADOKAWA〕は、小野妹子に従い隋を訪れた留学生・高向玄理(たかむくのくろまろ)と、南淵請安(みなぶちのしょうあん)の物語です。帰国直前、蘇我馬子の推挙を受けて随行していた通訳・鞍作福利(くらつくりのふくり)が隋帝の国書を持って失踪。2人は行方を追ううちに、隋から唐へ移り変わる直前の帝国を覆った混乱に巻き込まれてしまいます。一方、日本では朝鮮半島を巻き込んだ厩戸皇子と蘇我馬子の攻防が起こるなど、東アジアをめぐる権謀術数を壮大なスケールで描き出しています。

白村江(はくそんこう、はくすきのえ)は、日朝の間で最も苛烈な戦いが行われた地で、その敗戦(663年)により日本は半島での権益を完全に失います。『白村江』〔荒山徹/PHP研究所〕は、その戦いの20年前から始まり、前半は百済から倭国に逃れた皇子・豊璋と、皇子を助けた蘇我入鹿の視点から、高句麗・新羅・百済の情勢と大化の改新前の国内の権力闘争が語られます。後半は、中大兄皇子(後の天智天皇)と敵方・新羅王との密約を軸としたミステリーを挟み、唐・新羅軍によって滅んだ百済の再建を目指して帰国する豊璋と、ある海将の奮戦を通して「白村江の戦い」の顛末が描かれています。

『白村江の戦い~天智天皇の野望』〔三田誠広/河出書房新社〕は、前述の『聖徳太子~世間は虚仮にして』の続編です。海戦に不慣れな日本は大敗を喫しますが、本書は古代史の謎とされる戦いの目的・背景に迫った作品です。朝鮮半島や唐の情勢など古代の日朝関係を詳しく描く一方、主たるテーマは天智天皇の事績、入鹿暗殺の乙巳の変、大化の改新から白村江敗戦、壬申の乱であり、飛鳥時代の全容が読み取れる一冊となっています。

『大和燃ゆ〈上・下〉』〔八木荘司/角川書店〕も白村江の戦いに絡む物語です。朝鮮半島への侵攻を狙う大国・唐がいよいよ百済に矛先を向けるに至り、迫りくる対唐決戦に向けて、中大兄皇子の命を受けて大海人皇子(後の天武天皇)がその総大将に、海将・安倍比羅夫(あべのひらふ)が指揮官に選ばれ、国の総力をあげて準備が進められます。

ところが直前になり、大海人皇子が総大将から下ろされてしまいます。その裏には、天智・天武の間に万葉歌人の額田姫王(後に天武帝妃)が絡む確執、それに起因する政権内部の陰謀がありました。一方、苛烈を極める百済戦線では火攻めを目論む唐の巨大水軍に日本将兵が挑むが……。

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