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いにしえの物語~この国は、いかに成り立しか

「古代史小説」を読む

更新日 : 2020年01月14日 (火)

第1章 「古代史小説」は戦後に誕生した



日本における「古代」は、一般に古墳時代から飛鳥・奈良・平安時代など、わが国が形成された時期を指します。そこにはいまだ多くの謎が残されており、時には通説が覆されることもあります。しかし、人間の本質は不変であり、古代史小説をひもとけば、当時の人びとの心が史実に大きな影響をもたらしたことなど、現代にも通じる歴史のつながりが見えてきます。今回は古代史小説から、いにしえの日本に想いを馳せてみましょう。

<講師> 澁川雅俊(ライブラリー・フェロー) ※本文は、六本木ライブラリーのメンバーイベント『アペリティフ・ブックトーク 第48回『いにしえの物語~この国は、いかに成り立しか』(2019年7月26日開催)のスピーチ原稿をもとに再構成しています。

古代史小説の特徴とは?
澁川雅俊:古代史小説は、およそ75年前から盛んに書かれるようになりました。古代史小説には天皇がしばしば登場しますが、かつて天皇が神格化されていた時代には「天皇を描くとは畏れ多い」と考えられていました。それが戦後、大きく変化したのです。

古代史小説は歴史小説と呼ばれるジャンルに当たり、史上実在、あるいは実在したと推測される人物を中心に書かれた創作作品です。対して時代小説は、実在の人物が主人公でも史実とは関係ない、もしくは史実とはかけ離れた物語として書かれた作品群です。司馬遼太郎の『竜馬がゆく』は歴史小説、池波正太郎の『鬼平犯科帳』は時代小説という具合で、いずれも人間や社会の真実を描いている点は共通しますが、その境界は曖昧です。

今回は30点ほどの作品を紹介しますが、扱われる題材を調べるといくつかの特徴が見えてきます。例えば、かつて国の治世は天皇が中心だったため、各時代の天皇を題材とした小説が少なからずあり、とりわけ女帝は格好のテーマとなっていること。

あるいは、多くの「事変」が描かれていること。天皇の権力は絶大だったため、皇位継承は天皇家のみならず、権勢を得ようとする側近やその一族にとって最大の関心事となり、その総数が多いほど軋れきが生じ、俗にいう「乱」や「変」が起きたのです。さらに、地政学的な他国との関係、とりわけ中国や朝鮮半島との関係がしばしば題材となっていること。一つの国家も独立独歩での発展はあり得ず、必ず周辺諸国から政治や文化などの面で多大な影響を受けるものです。

古代史小説はこうした特徴が複雑に絡み合い、物語が紡がれています。例えば、『月人壮士(つきひとおとこ)』〔澤田瞳子/中央公論新社〕は、崩御した聖武天皇が密かに皇位継承者に関する遺詔を記したという疑惑を、皇后はじめ有力皇族・貴族の証言から解明しようとする物語です。聖武天皇の生涯を軸としつつ、大化の改新後に起こった乱や変、東大寺大仏建立、平城京の造営、都での疫病流行など、奈良時代の全容が読み取れる一冊となっています。

卑弥呼と邪馬台国の物語
澁川雅俊:邪馬台国の女王・卑弥呼は『古事記』の神々よりも圧倒的に人気があり、それゆえに“卑弥呼本”は非常に多く、研究書や解説書なども含めると1,000点を超えています。しかし、卑弥呼の周辺を描いた物語は多々あるものの、その生涯を描き切った歴史小説は皆目見当たりません。

卑弥呼については、紀元3世紀末に編まれた中国の史書『三国志・魏書』(魏志倭人伝)に「邪馬台国にあり、鬼道(占いや呪詛)を用い、民衆を掌握していた」と記されています。とはいえ、それ以上のことは謎に包まれたままで、邪馬台国の所在地も九州説と畿内説で論争が続いています。こうした不確かさが作家の創作意欲を刺激するのか、いくつかの作品が書かれています。

卑弥呼は3世紀半ばに逝去したと考えられています。当時、日本には複数の王国があり、中国や周辺諸国はそれらを「倭国」と総称していました。『日御子』〔帚木蓬生/講談社〕は、卑弥呼が邪馬台国を治める以前、「倭奴国」の金印で有名な奴国を舞台に物語が始まります。倭諸国のある王が中国の後漢皇帝に生口(せいこう/奴隷)を捧げる朝貢使節を派遣したことは史実ですが、本書はその使節団に随行した使譯(通訳)の一族が主人公です。

彼らは言葉を操る役割を通じて、国内には存在しない文物や思想、制度を学び、持ち帰ります。物語の後半には卑弥呼を連想させる王女が登場し、幼くも聡明な王女はやがて通訳がもたらした先進技術や文化を学び、新機軸の治者として成長していきます。

『日輪(ひ)の神女(かむめ)』〔篠崎紘一/郁朋社〕とその続編『日輪(ひ)の神女(かむめ)~紅蓮の剣』〔新人物往来社〕は、卑弥呼の血を継ぐと伝えられる台与(トヨ、またはイヨ)の物語です。卑弥呼の死後に起きた乱世を終わらせるべく、幼い台与は凄絶な荒行に挑み、遂に母王に匹敵する力を獲得し、再び国を治めます。

この物語は筑紫邪馬台国から分離した大和が舞台となっていますが、続編では筑紫と大和が激突。台与は死力を尽くし、筑紫の異能力者と闘います。物語は邪馬台国に関する学術研究の成果を踏まえて描かれており、弥生時代の人びとの考え方や風俗、自然や気象、普及しつつあった稲作などについて詳しく記されています。

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