記事・レポート
時の彼方の空遠く~縄文人、私たちの祖先
私たちのアイデンティティに迫る本
更新日 : 2019年05月14日
(火)
第1回 「縄文」にロマンを感じる人が急増中
「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」。これは、ポール・ゴーギャンの有名な絵画の題名です。この問いを私たちに当てはめると、その源流は1万5,000~3,000年前、日本列島で栄えた「縄文人」にさかのぼることができます。どういうわけか、近年は「縄文」に関連する書籍の出版が相次いでいます。そこで今回のブックトークでは、最近出版された「縄文本」からその理由を探ってみたいと思います。
<講師> 澁川雅俊(ライブラリー・フェロー) ※本文は、六本木ライブラリーのメンバーイベント『アペリティフ・ブックトーク 第46回『時の彼方の空遠く~縄文人、私たちの祖先』(2018年12月7日開催)のスピーチ原稿をもとに再構成しています。
1万年にわたって栄えた縄文人
澁川雅俊:人には「よくわからないことを、よりよく知ろう」とする心持ちがあります。一般的には好奇心、学問的には探究心と表されますが、最近は「縄文」に対してロマンを感じる人が増えているようで、本や雑誌、映画、TV番組など様々な場所で「縄文」の文字を見かけます。例えばいま、『縄文ZINE』というフリーペーパーが若者を中心に人気を集めています。副題に「都会の縄文人のためのマガジン」とあるこの冊子は、映画、漫画、アイドルと縄文文化を類比するなど、現代人のセンスで縄文のあれこれを捉えています。『縄文ZINE(土)』〔縄文ZINE編集部ほか/ニルソンデザイン事務所〕は、その1号~4号までの合本です。編集代表を務める人物は『縄文人に相談だ』〔望月昭秀/国書刊行会〕といった同種の本も出しています。

日本の考古学の芽生え
澁川雅俊:縄文時代が初めて関心を集めたのは明治時代のこと。1877(明治10)年、アメリカの動物学者エドワード・S・モースによる大森貝塚の発見が、日本における考古学研究の契機だったと言われています。ちなみに「縄文」ということばは、モースがその調査報告書の中で、貝塚で発見した縄目文様を持つ土器を「cord marked pottery」と表し、後にその和訳として「縄紋(縄文)土器」が定着したことから、この土器が使われていた時代を「縄文」と呼ぶようになったそうです。その後しばらく、考古学は歴史学のサブカテゴリーに甘んじていましたが、田中角栄による「日本列島改造論」(1972年)によって転機を迎えます。この国土開発計画により、全国で交通網整備に向けた大規模工事が始まると、縄文時代の遺跡・遺物が次々と見つかり、テレビや新聞で大々的に報じられました。この騒動を通じて、多くの一般市民が「弥生時代の前に別の文化が栄えていた」ことを知り、考古学にも注目が集まったのです。
このように、ふとしたきっかけで「縄文」に興味を覚えた人におすすめしたいのが、『縄文の世界はおもしろい』〔土谷精作/エコハ出版・三恵社〕です。著者はジャーナリスト出身で、現在は歴史関連の随筆や評伝も書いているようです。本書は、数年前に三内丸山遺跡(青森)を訪れた著者が縄文人の知恵に感動したことをきっかけに、自らの疑問をストレートに専門家に問いかけ、そこで知り得た縄文時代の基本知識について解説しています。

時の彼方の空遠く~縄文人、私たちの祖先 インデックス
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第1回 「縄文」にロマンを感じる人が急増中
2019年05月14日 (火)
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第2回 日本人はどこから来たのか?
2019年05月14日 (火)
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第3回 縄文時代はいつ始まり、どのように発展したのか?
2019年05月14日 (火)
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第4回 縄文人はどのような人たちだったのか?
2019年05月14日 (火)
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第5回 現代人を魅了する「土器・土偶」
2019年05月14日 (火)
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