記事・レポート

『暮しの手帖』の暮らしと仕事

編集長・松浦弥太郎が「文章術」を初公開!

更新日 : 2013年05月20日 (月)

第1章 『暮しの手帖』のコンセプト、それが言えたら僕はおしまい

1948年創刊の家庭向け総合生活雑誌『暮しの手帖』の編集長として知られる、松浦弥太郎さん。カリスマ的な支持を集める雑誌の編集長は、実は人前で話すのが苦手といいます。これは<六本木アートカレッジ>に出演した際の貴重な記録です。誌面にも表れている、人や時間に対する考え方から、いまままで公開したことのない「文章術」まで大いに語っていただきます。

ゲストスピーカー:松浦弥太郎(『暮しの手帖』編集長/文筆家/書店店主)

松浦弥太郎(『暮しの手帖』編集長/文筆家/書店店主)
松浦弥太郎(『暮しの手帖』編集長/文筆家/書店店主)

 
無我夢中になってつくる

松浦弥太郎: 突然ですが、皆さんからご質問はありませんか? セミナーの場で質疑応答というものは、普通は最後にしますよね。最後にはもう疲れてしまっているでしょうし、なかなか手が挙がらないものです。本題の前に質問しておくのは、場の雰囲気を少し自由にしてくれたり、みんなの心をひとつにしてくれたりします。何かありませんか?

質問者: 『暮しの手帖』をつくるに当たって、ポイントにしていることは何でしょうか?

松浦弥太郎: 『暮しの手帖』の仕事を始めた頃、こうしてみなさんの前でお話しする機会がよくありました。そこでは、いわゆるコンセプトや理念のようなもの、こうしたいと思っていることなどをお話ししていました。私が編集長に就いてから7年目に入ったいま、みなさんに謝らなければならないと思っています。

周りから見たらとても格好悪いかもしれませんが、毎日無我夢中になってつくっています。余裕なんてまったくない。何を大切にして、何を考えて、何を守ってというところまで、頭の整理ができていない状態です。今日考えていることも、明日になったらまったく違った考えになることは日常茶飯事です。それくらい一生懸命、文章や写真、編集、それから読者のことを考えて忙しく仕事をしています。

ただ「こうなればいいな」と思っていることは、ひとつだけあります。どこのページを開いても、作っている人の体温が感じられ、作っている笑顔が表現されていたらいいなと思っています。目的ではなくて、姿勢のようなものですね。

読者はデリケートな「生身の人」

松浦弥太郎: それから、本当にたくさんの人が『暮しの手帖』を読んでくれていて、この仕事に触れてくれているのだ、ということは、いつも頭にあります。大切なのは、つねに相手が「生身の人」であるということ。人間はみな弱いものです。強い人なんてひとりもいません。デリケートでリアルな「生身の人」に届けているのです。こうしたことから「どうすれば、その人に喜んでもらえるだろうか」「どうすれば、その人の役に立てるだろうか」と、1分1秒欠けることなく一生懸命考えています。

そういう気持ちで仕事をしていると、みなさんの前でさらっと「こんなコンセプトでつくっています」なんて、とても言えない。そんな余裕はありません。そう言えるようになってしまったら、僕はもうおしまいかなと思います。それくらいの真剣な姿勢で仕事に取り組んでいないと、物づくりなんてできませんよね。毎日トライ&エラーです。


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