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井上慎一CEOが語る日本初・本格的LCC「ピーチ」の戦略

アジアの空を、もっと近く、面白く

日本元気塾経営戦略キャリア・人
更新日 : 2013年11月07日 (木)

第9章 「ピーチ」ならではのユニークなサービス

米倉誠一郎 (日本元気塾塾長/一橋大学イノベーション研究センター教授)
米倉誠一郎 (日本元気塾塾長/一橋大学イノベーション研究センター教授)

 
創意工夫の先に潜在顧客がいる

米倉誠一郎: Love&Peaceならぬ、Love&Peach。愛こそすべて。ピーチの経営理念には感動しました。この言葉にたどり着くまでには並々ならぬ努力と、幾重ものイノベーションがあったかと思います。その結果として、顧客に喜びを提供し、世の中を面白くしている。

井上慎一: 実は、私がアジア戦略室長に就任したとき、社員の大半がLCCへの参入に反対しており、白い目で見られていました。

米倉誠一郎: 顧客の奪い合いになると考えたからでしょう。しかし、アジアの流動を取り込むことは、いまや基本中の基本です。当時の山元峯生社長は、先見の明をもって「3年でLCCを立ち上げろ!」と言われた。このプランはすべて1人で考えましたか?

井上慎一: 考えました。その間、米倉先生やパトリック・マーフィー氏、また海外の投資家などに様々なことを教えられ、鍛えていただいたことも幸いだったと思います。米倉先生が言われた通り、潜在需要の掘り起こしも実現できました。ピーチ就航後の関西国際空港(関空)−札幌便の旅客数を見ると、国内大手2社の数はほぼ横ばいです。一方、総旅客数は10万〜15万人も増加しています。つまり、ピーチの就航により市場が拡大しているのです。欧州でもLCCの登場後、市場規模は倍増しました。LCCは潜在顧客の深耕につながり、市場の活性化に貢献する。実はこのデータこそ、全日空がLCCへの参入を決断した大きな要因となりました。

米倉誠一郎: 数字を見れば、カニバライゼーションではなく、市場の拡大が起きていた。一方では先ほど、LCCは失敗事例が多いと言われていました。イノベーションを起こせない企業は、やがて市場から淘汰される。単なる価格競争ではなく、コストをイノベーションするのがLCCであると。

井上慎一: 肝心なことは、コストをどのようにミニマイズするか。安全性や「飛ぶ」という基本品質を確実に担保しつつ、ほかの部分には前例や慣習にとらわれないで聖域を設けず、常に創意工夫していく。その結果として、航空運賃を抑えることができているのです。

米倉誠一郎: ピーチは、サービスも面白いですよね。最近では、関空−ソウル間の日帰りプランも実現したのでしょう?

井上慎一: ある社員から、「ソウルへ日帰り旅行をする女性のお客様が多い」と報告を受けました。最初は半信半疑でしたが、試しに朝7時45分に関空を出発し、帰りは22時45分着、片道約2時間の新サービスを提供したところ、いまでは多くのお客様に利用いただいています。1泊旅行さえなかなか難しい。でも、韓国で食事やエステ、買い物を楽しみたい。そういった主婦の方でも、2時間なら日帰りできるというわけです。

米倉誠一郎: ニーズと客層をきちんと把握した上で、マーケティングをうつわけですね。価格設定はどのように?

井上慎一: 価格設定に関しては、初年度はあまり把握しきれていませんでした。しかし、試行錯誤を繰り返し、この1年ほどである程度のデータは揃いつつあります。もう1つ、実は最近、「ないのにある」サービスも始めました。ピーチの機内には、エンターテインメントは一切ありません。ならば、何があるのかといえば、無料のコンテンツをダウンロードできるサービスがあります。関空と那覇の待合室では、雑誌や映画、ドラマ、音楽などを、スマホやタブレット端末にダウンロードすることができます。ないのに、あるのです(笑)。著作権契約の関係から、数時間するとデータは自動的に消去されます。


米倉誠一郎: それはまた素晴らしい。いまはもう、そうした時代ですから。


該当講座

アジアの空を、もっと近く、面白く

~日本初・本格的LCC Peach の戦略~

アジアの空を、もっと近く、面白く
井上慎一 (Peach Aviation 株式会社 代表取締役CEO)
米倉誠一郎 (日本元気塾塾長/法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授/ 一橋大学イノベーション研究センター名誉教授)

井上慎一(Peach Aviation㈱代表取締役CEO)×米倉誠一郎(日本元気塾塾長/一橋大学イノベーション研究センター教授)
日本初の本格的LCC(Low Cost Carrier)として、2012年3月就航したピーチ。これまでの航空業界と異なるやり方で、安定的な低コストを実現させ、かつ可愛らしく、気軽に利用できるブランドイメージで、順調に顧客を広げています。人々のライフスタイルを変えるイノベーションの本質と、今後のアジアでの事業展開・戦略に迫ります。


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