記事・レポート

2012年版 いま、気に掛かる本たち

ライブラリーフェローによる、本にまつわる話

カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2013年02月15日 (金)

第7章 この閉塞感は、貧しさゆえか?(1)

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澁川雅俊: 以上の日本論・日本人論を瞥読すると、失われた10年(または、20年)の長きに渡った先が見えない不安に、3.11が追い打ちをかけたことが如実に表れています。いわば黙示録的な災害とその後の事態については、いまだに相当数の本が出版されており、しばらくは続くことでしょう。

松岡正剛はこれらの中から選んだ本に関する随想をインターネットで発表していますが、それが『千夜千冊番外録 3・11を読む』〔平凡社〕にまとめられました。60点の本が選ばれ、幾つかのトピックに類別され、1点々々論評が加えられていますが、「陸奥と東北を念う」の章に松岡の問題意識が色濃く表れています。それは、東北地方を古代のヤマトタケルを始めとした相継ぐ蝦夷征討によって、いまでも中央に服従するか、あるいは中央の繁栄に尽くす人々が住んでいる地域とする。このような見方への強い反発です。

しかし〈先が見えない不安〉の最大の要因は、暮らしの土台、つまり個々人の、あるいは個々の、家庭のやりくりの問題でしょう。そこで、次は〈先が見えない不安〉にどう対応するかについての考え方や方法について語っている本を取り上げてみました。

幸せは、お金で買える

憂鬱な曇天のように、閉塞感がなぜいま日本中を覆っているのか?二人の経済ジャーナリストがこの20年間の政治・経済を振り返り、『そして「豊かさ神話」は崩壊した 日本経済は何を間違ったのか』〔今松英悦、渡辺精一/近代セールス社〕を著しました。貧困化の進行、格差拡大、福祉の圧縮、止まらない原発、財政状況の大幅悪化……。なぜ、日本はこんなことになってしまったのか、日本の政治や経済は何を間違えたのかを解説しています。ただ、崩壊を建て直す解決策について、今松らは何も提案していません。

『成熟社会の経済学 長期不況をどう克服するか』〔小野善康/岩波書店〕は、どこが問題なのかを踏まえて、現在の閉塞状況を乗り越え、誰もが楽しく安全で豊かな国へと変貌するための考え方を述べています。その考えの根底には新古典派経済学、ケインズ経済学という学説上の議論があります。さておき、‘高度成長’を目標としていた経済では「幸せはお金で贖える」としていたのですが、限度まで成長したいまの‘成熟社会’ではディケンズの『クリスマス・キャロル』〔脇明子訳〕を引き合いに出しながら、別の何かを目標にすべきだと言っています。この本はクリスマス・ストーリーの中で有名な話のひとつです。物語は、産業革命によって成長を遂げた19世紀のロンドンで商いをする一人の守銭奴が、聖夜に現れた精霊に導かれ、それまでの生き方を悔い改めて新しい人生の道を歩むことを決意した、というものです。その男が目覚めた新しい価値とは、神を敬い、人びとを愛することだったのです。それは誰もが当たり前のことと考えていることですが、金の亡者というものはどの国にも昔からいたのですね。小野は「お金の呪縛から解放され、生活を楽しむことに知恵を絞ればいいのです」という処方箋を出しています。
知恵を絞ることに関連し、子ども向けの『幸せを売る男』〔草場一壽、平安座資尚/サンマーク出版〕を紹介します。冒頭には、こんなことが書かれています。「ある日、幸せを売る男たちがトモの村にやってきました。ひとりの男が言いました。「ああ、なんという貧しさだ。ここにはなにひとつない。これでは人間らしい生活はできまい。幸せになるための知恵を売ってやろう」。

さてその知恵は何だったのでしょう?

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