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2012年版 いま、気に掛かる本たち

ライブラリーフェローによる、本にまつわる話

カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2013年02月12日 (火)

第5章 日本論・日本人論、再び・三たび(3)

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再建か再生か、それとも新しい日本・日本人か

澁川雅俊: 日本論・日本人論の再燃の根底には、人びとの心の内に澱のようにわだかまっている‘閉塞感’があります。このことばは、いまの日本の状況を端的に表している典型的な慣用句ですが、メディアなどではその感情を引き起こす原因やその真相・真実を掴みきれなかったり、またしばしば隠蔽したりすることに由来すると問題提起しているのが『ニッポン再建論〜8人の識者からの提言』〔廣済堂出版/2011年〕です。宗教学者・島田裕巳(アカデミーヒルズのライブラリメンバーでもある)、経済学者・小幡績ほか8名の論客がそれぞれの得意分野(政治・経済・生活・教育・女性・環境・宗教・報道)で、日本の閉塞の実態を明らかにし、そこから脱却する方策を提言しています。だだしこの本は2011年3月の出版なので、3.11が引き起こした事態は慮外にあります。それでもなお、私たちの生活の幅広い局面で、心のわだかまりを的確に指摘しています。

『劣化する日本再生への10のシナリオ』〔ディスカヴァー携書〕は、BSフジLIVEプライムニュースが2011年秋に特集した番組「日本創建への10のシナリオ」によるもので、少子高齢化、社会不安、社会保障、エネルギー、財政危機、成長戦略、外交・安全保障、国と地方、教育、政治と政治家などの問題について18人の識者が脱‘閉塞’への提言をしています。これは、3.11の半年後の議論であり、その論調は『ニッポン再建論』とくらべてみると、さすがに厳しさを増しています。

それらの本とは少し論調がちがいますが、瀬戸内寂聴とドナルド・キーンも『日本を、信じる』〔中央公論新社〕で議論に加わっています。功成り名遂げた二人の文人は、「太平洋戦争での敗戦を乗り越えたのだから、きっと今度も乗り越えられる」ことで一致し、「人間90年も生きていれば、いろいろある。まして日本は『古事記』に書かれるほどの歴史がある。いろんなことが起こって当たり前」と言っています。二人のその所見からは、透き通った‘無常観’を読みとることができるようです。

そういえば、日本の三大随筆のひとつとされている『方丈記』が世に出されて800年になり、今年は『新訳 方丈記』〔鴨長明・著、左方郁子・編訳/PHP研究所〕なども出版されています。時は鎌倉時代中期、源頼家、実朝らが暗殺される政治的混乱の最中、大地震、大火、大竜巻、飢饉といった天変地異が相継いだ不安な世相。これを時代背景に『方丈記』は人の世の無常を唱える論調で書かれています。3.11はたしかに未曾有の大災害ですが、老齢とは言え、寂聴もキーンはめげてはいません。

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