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加藤嘉一と竹中平蔵が、日本と中国のこれからを激論

中国で最も有名な日本人が語る、中から見た中国と外から見た日本

アカデミーヒルズセミナー政治・経済・国際キャリア・人
更新日 : 2012年03月13日 (火)

第5章 日本企業に勧めるリスクヘッジ策~中国で中産階級を育成せよ~

加藤嘉一氏

加藤嘉一: 日本企業は中国で中産階級の育成をすればいいと思います。中国政府最大のシンクタンク、中国社会科学院によると、中国の中産階級は年収6万元~50万元(70万円~600万円)で、2009年の時点で23%いました。中産階級というのは、大学を出て、就職して、社会に対して責任感を持っていて、税金をしっかり払おうと思っていて、自分がミスをしたらきっちり責任をとる覚悟があって、法による解決を望んでいて、雇用関係を結んできっちりやる、という人たちです。こういう人たちが国民としてこれから育っていくべきなのですが、中国は中産階級が報われない社会なんです。

中国の発展の恩恵を受けているのは中産階級ではなく、既得権益の人たちと、政府関係者と、移民できるような人たちです。それから農民も恩恵を受けています。農民の現状に対する満足度は、我々が思っている以上に高いです。2006年に中国は農業税を廃止しました。これまでは田んぼを1ヘクタール耕すごとに、当局に意味もわからず毎年いくらという形で払っていた税金がなくなったわけですから、農民も発展の恩恵を享受しているんです。

一方、中産階級は都市で一所懸命働いても給料が上がらない、物価はガンガン上がっていくのに給料は変わらない、ときに支払われないこともある。中産階級が報われない社会というのは、長期的に見たらもろいんです。だからこそ政府は高圧的になるんです。レアアース問題のとき、温家宝さんの側近が言っていました。「中国だって、あのタイミングで禁輸なんかしたくなかった。そんなことをしたら世界との関係が損なわれるのはわかってる。でも国内の反日感情や、いろんな問題を考えれば仕方なかった」と。結局、国内がもろいがために、ああいうことをせざるを得ないんです。

現状を理解して改善していこうという健全な国民意識を持った中産階級を、日本企業は育てていかなければいけないと私は思います。中国の中産階級に一番足りないのは安心感——安心して買える、安心して使える、安心して勤められる、安心して住める、安心して高速鉄道にも地下鉄にも乗れる——ですから、そういったところに日本企業はセーフティネットを補充してあげる。こうした企業活動を通じて、中国の社会の安定と開放をプッシュしていく、そういうグランド・ストラテジーが必要だと思います。

中国はいろいろな問題に直面していますが、どれも日本が60年以上かけて直面してきた問題ばかりです。ですから日本の経験は中国で生きるんです。成功体験も失敗体験も含めて、中国社会にとってはとても貴重なんです。日本は経験と技術力に裏打ちされた総合的なシステムを官民一体となってきちんと発信し、中国からリスペクトを勝ち取り、国家間のマネージメントにつなげるべきです。そうすれば日中関係は安定してくると思います。

また、レアアースや省エネや鉄道の安全管理など、何でもいいので、日中で共同プロジェクトをやって、共に汗をかくことで信頼を醸成していくことも、日中の安定化につながると思います。これなら中国の発展にも寄与できて、日本の存在感も高まります。

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われ日本海の橋とならん—内から見た中国、外から見た日本 そして世界

加藤嘉一
ダイヤモンド社


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加藤嘉一 (英フィナンシャルタイムズ中国語版コラムニスト/北京大学研究員/慶應義塾大学SFC研究所上席所員/香港フェニックステレビコメンテーター)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)

加藤 嘉一(コラムニスト)
竹中 平蔵(慶應義塾大学教授/アカデミーヒルズ理事長)
政治・経済から一般の中国人の生活まで、あらゆる角度から日本と中国のこれからについて、会場の皆さまにもご参加いただきながら議論します。


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