記事・レポート
安藤忠雄「希望は、自分の心のなかに」
東日本大震災 復興チャリティセミナー
更新日 : 2011年10月11日
(火)
第2章 戦後の民主主義教育が子どもの野生を摘んでしまった
「戦後の民主主義教育が
子どもの野生を摘んでしまった。
我々は教育から考え直さなければ
なりません」
いつから、日本人はこんなに不甲斐なくなってしまったのか。
かつてラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は、日本を「自然と家族と地域と国家をしっかり踏まえた国だ」と評した。フランスの駐日大使で詩人のポール・クローデルは、親友の詩人ポール・ヴァレリーに「私がどうしても滅びさせたくない一民族がある。それは日本人だ。彼らは、貧乏だが、高貴な民族だ」と語った。
50年代の日本を見た世界の人々は「この国は必ず復活する。なぜなら大人はよく働き、子どもは親のいうことを聞いてよく勉強する。子どもの目が輝いている」と言った。その言葉通り、日本は世界の奇跡といわれる経済復興を遂げた。
歴史を紐解きながら、安藤は問いかける。
「今はどうか。子どもは親のいうことは聞かない、目は死んでいる、親は働かない、こんな国が世界と対抗できるだろうか」と。「世界は凄まじい勢いで動いている。そのなかで日本の国は止まっていると思われている。悔しくはないか」。世界中で仕事をしている安藤はひしひしとそれを感じている。「日本人はこの現実を直視して、教育からやり直さなければならない」と言う。
「戦後の民主主義教育は子どもが持つ野生を全部摘んでしまった。一流大学、一流企業、年功序列、終身雇用のなかで牙を抜かれ、戦うことができない人たちが大人になっている。戦った経験がないから忍耐力や持続力も育たない。忍耐力や持続力は、まわりと口論や喧嘩をしながら自分の意志を通していくなかで培われるのだ」と。
「全国一律の学校教育にも問題がある」と指摘する。
江戸時代は、それぞれの場所に合った教育、それぞれの子どもたちに合った教育をしていた。たとえば大阪には懐徳堂や緒方洪庵の適塾があり、塾生ひとりひとりが自分に何ができるかを考えながら猛烈に学んだ。江戸末期には脱藩して学ぼうとする人たちもたくさん出た。吉田松陰を始め、自分で考えて行動する意欲ある人たちがいて、明治維新が成った。「境界を越えなければ問題を把握することはできない。それが今の日本にかけている」。
「もうひとつ日本に足りないのは変わるスピードだ」と言う。
安藤は、仕事においても社会的な活動においても今回の震災復興でもそれを痛感している。たとえば、瓦礫は一度処分しないと再利用できないという法律がある。「瓦礫と土を混ぜてその上に森をつくる」という提案が出たが、法律が壁になってできない。「では、法律を変えたらいい」と言うと「何年もかかる」という答えが返ってきた。こうした本末転倒の話は珍しくない。
安藤は自分がおかしいと思ったことは率直に口にする。
「だから私は日本では嫌われる」と苦笑するが、裏を返せば、だから世界で仕事ができる。自分の意見を言う、相手の意見を聞く、そして意見を戦わせる。それが世界のコミュニケーションの作法だ。これが出来なければ、世界で仕事はできない。安藤は事務所にアルバイトにくる若い人たちに、自分の考えを表現するトレーニングを課している。
もうひとつの安藤流教育は実体験を積ませることだ。
事務所のアルバイト学生のなかには、大阪から京都まで、あるいは大阪から広島まで歩いて帰った猛者もいるそうだ。今も東京から大阪まで自転車で向かっている学生がいる。「これくらいの気迫がなければ、この国は立ち直れない」。安藤自身も若い頃、世界の建築を見てやろうと凄まじい放浪の旅に出ている。
厳しい教育は「牙を抜かれて育った世代に世界と闘う力をつけたい」と思うからだ。若い頃、開高健に「若者は全力で走れ。ぶつかって迷惑かけてもいいから全力で走るんだ」といわれ、小松左京には「常識はあってもいいけれども、常識をぶち破りながら生きろ」と背中を押された。そして、そのとおりに生きてきた。
安藤は若者たちに言う。「肉体的体力と精神的体力を鍛えろ。精神的体力を鍛えるには本を読め。読みながらイマジネーションを広げ、自分の世界をつくれ」、「自分の仕事に対する知識と絶対的な自信、それに多少の語学とビジネス感覚があれば世界でやっていける」と。安藤自身もそうやって世界と戦ってきた。
子どもの野生を摘んでしまった。
我々は教育から考え直さなければ
なりません」
いつから、日本人はこんなに不甲斐なくなってしまったのか。
かつてラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は、日本を「自然と家族と地域と国家をしっかり踏まえた国だ」と評した。フランスの駐日大使で詩人のポール・クローデルは、親友の詩人ポール・ヴァレリーに「私がどうしても滅びさせたくない一民族がある。それは日本人だ。彼らは、貧乏だが、高貴な民族だ」と語った。
50年代の日本を見た世界の人々は「この国は必ず復活する。なぜなら大人はよく働き、子どもは親のいうことを聞いてよく勉強する。子どもの目が輝いている」と言った。その言葉通り、日本は世界の奇跡といわれる経済復興を遂げた。
歴史を紐解きながら、安藤は問いかける。
「今はどうか。子どもは親のいうことは聞かない、目は死んでいる、親は働かない、こんな国が世界と対抗できるだろうか」と。「世界は凄まじい勢いで動いている。そのなかで日本の国は止まっていると思われている。悔しくはないか」。世界中で仕事をしている安藤はひしひしとそれを感じている。「日本人はこの現実を直視して、教育からやり直さなければならない」と言う。
「戦後の民主主義教育は子どもが持つ野生を全部摘んでしまった。一流大学、一流企業、年功序列、終身雇用のなかで牙を抜かれ、戦うことができない人たちが大人になっている。戦った経験がないから忍耐力や持続力も育たない。忍耐力や持続力は、まわりと口論や喧嘩をしながら自分の意志を通していくなかで培われるのだ」と。
「全国一律の学校教育にも問題がある」と指摘する。
江戸時代は、それぞれの場所に合った教育、それぞれの子どもたちに合った教育をしていた。たとえば大阪には懐徳堂や緒方洪庵の適塾があり、塾生ひとりひとりが自分に何ができるかを考えながら猛烈に学んだ。江戸末期には脱藩して学ぼうとする人たちもたくさん出た。吉田松陰を始め、自分で考えて行動する意欲ある人たちがいて、明治維新が成った。「境界を越えなければ問題を把握することはできない。それが今の日本にかけている」。
「もうひとつ日本に足りないのは変わるスピードだ」と言う。
安藤は、仕事においても社会的な活動においても今回の震災復興でもそれを痛感している。たとえば、瓦礫は一度処分しないと再利用できないという法律がある。「瓦礫と土を混ぜてその上に森をつくる」という提案が出たが、法律が壁になってできない。「では、法律を変えたらいい」と言うと「何年もかかる」という答えが返ってきた。こうした本末転倒の話は珍しくない。
安藤は自分がおかしいと思ったことは率直に口にする。
「だから私は日本では嫌われる」と苦笑するが、裏を返せば、だから世界で仕事ができる。自分の意見を言う、相手の意見を聞く、そして意見を戦わせる。それが世界のコミュニケーションの作法だ。これが出来なければ、世界で仕事はできない。安藤は事務所にアルバイトにくる若い人たちに、自分の考えを表現するトレーニングを課している。
もうひとつの安藤流教育は実体験を積ませることだ。
事務所のアルバイト学生のなかには、大阪から京都まで、あるいは大阪から広島まで歩いて帰った猛者もいるそうだ。今も東京から大阪まで自転車で向かっている学生がいる。「これくらいの気迫がなければ、この国は立ち直れない」。安藤自身も若い頃、世界の建築を見てやろうと凄まじい放浪の旅に出ている。
厳しい教育は「牙を抜かれて育った世代に世界と闘う力をつけたい」と思うからだ。若い頃、開高健に「若者は全力で走れ。ぶつかって迷惑かけてもいいから全力で走るんだ」といわれ、小松左京には「常識はあってもいいけれども、常識をぶち破りながら生きろ」と背中を押された。そして、そのとおりに生きてきた。
安藤は若者たちに言う。「肉体的体力と精神的体力を鍛えろ。精神的体力を鍛えるには本を読め。読みながらイマジネーションを広げ、自分の世界をつくれ」、「自分の仕事に対する知識と絶対的な自信、それに多少の語学とビジネス感覚があれば世界でやっていける」と。安藤自身もそうやって世界と戦ってきた。
関連リンク
安藤忠雄「希望は、自分の心のなかに」 インデックス
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第1章 ある日、目が覚めたら企業がいなくなっていた
2011年10月07日 (金)
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第2章 戦後の民主主義教育が子どもの野生を摘んでしまった
2011年10月11日 (火)
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第3章 私たちは遺児育英資金を集める。しかし——
2011年10月13日 (木)
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第4章 仕事には実行する責任がある
2011年10月14日 (金)
該当講座
3月11日の震災以降、「東日本大震災復興構想会議」の議長代理就任をはじめ、震災遺児を支える「桃・柿育英会 東日本大震災遺児育英資金」を立ち上げるなど、被災者支援に尽力されている建築家・安藤忠雄氏。本セミナーでは、安藤氏が思う“日本再生”のために必要なリーダーシップ、組織について、また各復興プロジェクトの現状について、お話いただきます。
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