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日本は文化で世界に打って出る

近藤誠一文化庁長官×竹中平蔵が語る「文化と経済」

アカデミーヒルズセミナー文化政治・経済・国際
更新日 : 2011年08月29日 (月)

第1章 日本は経済・社会では世界トップクラス。でも幸福度は90位

世界屈指の経済大国なのに、幸福度は90位の日本。近藤誠一文化庁長官は、心豊かに生きるためだけでなく、国の発展と国際競争力の向上のためにも「文化の力」が重要だと言います。文化は個人の能力と国力をどう高めるのか。近藤長官と竹中平蔵氏が、これからの日本において文化芸術が果たす重要な役割について語ります。

講師:近藤誠一 文化庁長官
講師:竹中平蔵 アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学教授グローバルセキュリティ研究所所長

近藤誠一郎氏

近藤誠一: 2010年7月に文化庁長官に任命されました。それまで40年近く外務省に身を置き、そのうちの半分を日本で、半分を外国で過ごしてまいりましたが、前半の20年は日本が今の中国のように世界の注目を浴びていた時期、後半はバブルが弾けて経済が停滞し、日本人が閉塞感に陥っていった時期と言えると思います。

この40年近くの間、特に後半の20年間は、日本がおかしい、どうなっているのかという疑問がどんどんわいてまいりました。一体何がどうなっているのか私なりに分析した結果、「今の日本は、才能や祖先から受け継いできた伝統的な価値観・技術をふんだんに持っていながら、それを活かし切れていない。そうしたものを国の力に活かすシステムが欠けている」という仮説にたどり着きました。この仮説の中心にあるのが「文化」です。きょうは「文化がこれからの日本を支えていき、もう一度光り輝く国にする鍵である」というお話をしたいと思います。

仮説の元になった客観的なデータをいくつかご紹介すると、まず経済面では、2010年の名目GDPは私が調べた時点では日本が2位でした(参照データIMF2010)。今は中国に抜かれて3位ですが、2位も3位もあまり変わらないと思います。一人当たり名目GDPは17位(参照データIMF2010)、世界競争力は6位です(参照データ世界経済フォーラム2010)。ちなみにデンマークは名目GDPが30位、一人当たり名目GDPは5位、高福祉の国ですが世界競争力は9位と一桁台です。比較にデンマークを選んだ理由は後ほどご紹介します。

社会面では、平均寿命は日本が1位、デンマークは29位(参照データWHO2010)。犯罪率の低さは、OECDの統計ですので分母が26カ国と少ないのですが、日本は2位、デンマークは21位です。これらのデータから経済面と社会面では、日本は相当いい線をいっていると言えると思います。デンマークもいいけれども、日本よりはやや劣るといったところでしょうか。

では総合的にはどうかというと、国連開発計画の「人間開発指数2009」によれば、日本は10位、デンマークは16位。『ニューズウィーク』が2010年8月に発表した経済的なダイナミズムや教育などの要素を集計した「THE WORLD'S TOP 100 COUNTRIES」では、総合で日本は9位、デンマークは10位でした。『リーダーズ・ダイジェスト』(2005-06)の「住みよい国」では、日本は12位、デンマークは10位です。先ほどの経済的・社会的なデータとそれほどかけ離れていないと思います。

さて、デンマークを比較に選んだ理由ですが、それは「幸福度」にあります。イギリスのレスター大学が行った調査(2006)によると、デンマークは1位、日本は何と90位です。先ほどまでの経済的・社会的な客観データと比べると、これはどう考えてもおかしい。デンマークが1位というのはなんとなく理解できます。だいたい全部一桁ぐらいのランキングでしたから、そこに住んでいる人が「私は幸せだ、いい国に住んでいる」と思うのは当然でしょう。しかし、日本の90位というのは一体何なんでしょうか?

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該当講座

近藤誠一×竹中平蔵が語る「文化と経済」

~日本は文化で世界に打って出る~

近藤誠一×竹中平蔵が語る「文化と経済」
近藤誠一 (元文化庁長官)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)

近藤 誠一(文化庁長官)
竹中 平蔵(慶應義塾大学教授/アカデミーヒルズ理事長)
昨年7月に第20代文化庁長官として、外務省からの初めての起用ということで就任された近藤氏。外交官として長期に渡る海外経験から、日本を外から見てきて感じたことは、これからの国づくりにおいて、文化・芸術を柱の一つに据えなくてはいけないということでした。竹中氏が近藤長官と「これからの日本の文化と経済」について語ります。


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