記事・レポート

福原義春氏が語る「未来をつくるイノベーションのための文化資本」

VISIONARY INSTITUTE - 2010 Seminar

BIZセミナー文化教養
更新日 : 2011年02月23日 (水)

第8章 その土地に暮らす人々が楽しんでいるもの、それこそが文化

福原義春氏

福原義春: グローバル競争の中で、表面を取り繕うだけのリノベーションでは事態はますます悪くなるばかりです。では、この閉塞現状をどのように打開すれればいいのでしょうか。イタリアの社会学者、フランチェスコ・アルベローニさんから聞いたお話がカギになるのではないかと考えています。アルベローニさんは「イタリアに世界中から観光客が来るのはイタリアの個人主義のせいだ」とおっしゃるのです。

どういうことかといいますと、個人主義が徹底しているイタリアでは、まず個人がおいしいものを食べなければなりません。そのことによって、イタリアの食文化は洗練されていくとおっしゃるのです。同じように、「私はきれいになりたい。きれいに見せたい」ということで、ファッションが洗練されてくる。また、快適に暮らしながら気の合うごく少数の友人を招いて心地いい時間を持つために、家具や室内装飾のデザインが発達してくる。これらが結果として「イタリア文化」として注目され、世界中からの観光客が来るようになったというのです。

つまり、その地区、その都市、その国に固有の文化というのは、そこに住む人たちの日常生活と生活意識が共有された土壌に育まれ、住人を楽しませて豊かにするものなのです。他国に売り込むことを目的として生み出されるのではないのです。

私は、いろんな地域の方から町おこしの相談を受けます。彼らはしばしば「この町を文化都市、観光都市にしたい。そのために町にあった江戸時代の何々文化をもう一度掘り起こして、皆さんにお見せしたい」と言われます。そんなときはこう申し上げます。「観光地が古びた観光資源を切り売りしても、それは“骨董屋の店(たな)ざらえ”に過ぎません。一度来た人は、二度と来ませんよ。そういう時代はもう終わったんです。今は、まずその土地、その国の人が本当にそこで楽しんでいるというものをつくるべきでしょう」。

文化力というのは、そこに住む人たちが満足しなければだめなのです。「場」を抜きにしては成立しないのです。例えば、京都の柊屋旅館を南麻布に開いたら一体どうなるでしょうか。一応成立はしたとしても、本当の成立にはならないと思います。町おこしの核となるものは、そこに住む人々と場のことを考え、「ここに来なければ、味わえないもの」であるべきだと思います。

日本文化というのは、海外にはない特色をいろいろ持っています。だからといって、それは海外に輸出するための売り物ではありません。まずは日本人が喜ぶこと。その姿を海外の人が見て、「日本人があんなに喜ぶのだから見に行こう」とならなければいけないのではないでしょうか。

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該当講座

第4回 未来をつくるイノベーションのための文化資本
福原義春 (株式会社資生堂 名誉会長)

福原義春(㈱資生堂 名誉会長)

未来の日本創造になくてはならないこと、イノベーションのために私達が一度立ち止まって考え抜かなくてはならない、私達の文化資本の本質についてお話いただきます。


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