記事・レポート

『美』という21世紀の文化資本

今、日本人が見失ってはならないこと

更新日 : 2010年02月09日 (火)

第4章 日本人は、日本の美を理解していない

伊藤俊治氏(左)福原義春氏(右)

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福原義春: 私は、日本人が日本の美しさというのを必ずしも理解していないと思うのです。

歴史を振り返ってみると、中国の唐や宋の文化が平安時代ごろに入ってきました。しかし最後の遣唐大使だった菅原道真が、「衰退の兆しのある唐には、危険をおかして渡ってまで学ぶべきものはなくなった」と言ってやめてしまいました。それまでの、紀元600年~900年ぐらいの間に唐に学んだ歴史があり、そのとき、もともと持っていた大和的な言葉や文化と、唐や唐を経由したペルシャ的な文化が日本の中で衝突したと私は考えているのです。けれどもその衝突を中和せずに、次の足利の時代、戦国の時代、そして江戸時代と、洗練させながら並存させていったと考えているのです。

明治時代以降、開国すると、今度は一斉にヨーロッパの文化が流入してきました。ここでも江戸以前の日本文化との衝突があり、新たなものが生まれた。しかし、第二次大戦後、アメリカの文化が一斉に入ってきたときは、衝突させないでアメリカの文化に巻き込まれてしまった。それが現在、日本の文化がだんだん衰えてきた原因の1つではないかと、私は思うのです。

俳人の長谷川櫂さんが『和の思想』という素晴らしい本を最近お書きになりました。サブタイトルに「異質のものを共存させる力」とありまして、「異質なものを共存させつつ、そこを乗り越えて、新しいものをつくっていくのが日本の文化の力だった」ということを、おっしゃっているように思いました。

さらにこの方は、とても面白いことをお書きになっています。例えば江戸時代に西洋のものは「南蛮物」や「唐物」と呼び、南蛮渡来のものと考えていたのを、現代は「和風豆腐」「和菓子」など、もともと日本にあったものを異質なものとして名前を付けるようになった。それは現在の私たちが日本のものを忘れ、西洋化してしまったから、日本のものを振り返って「和だ、和だ」と叫んでいるのだ。家庭雑誌や婦人雑誌は、全部「和」の記事でいっぱいになってしまった、とお書きになっているのです。

和は大切ではありますが、私たちは歴史上、常に2つの文化を共存させ、その中を行ったり来たりしながら次のクリエーションをやってきた、そういうことをもう一遍復活しなければいけないのではないかとこの本を読んで思ったのです。

伊藤俊治: お話を聞いていて、ブルーノ・タウトというドイツの有名な建築家を思い出しました。タウトは日本に2年半ほど滞在してさまざまなデザインや建築を指導した20世紀の建築家ですが、「第3、第4の日本が現れなければいけない」ということを言ったのです。

縄文以来の日本文化を独自に消化し、第1の日本の文化・美ができ上がった。それから中国や朝鮮の大陸文化が入ってきて、共存という形で第2の日本の文化ができ上がった。それを踏まえて、西欧文化を同化・共存させたあとに、第3の日本の文化が現れなければいけないと。要するに、縄文と大陸文化と西洋文化を渾然と同化・並存させた第3の日本の文化や美が現れなければいけない、ということだと思います。

しかし、近代から20世紀にかけての時代ではそうだったと思うのですが、21世紀においては、第4の日本ともいうべき、さまざまなものを並存・同化・吸収し、渾然一体化させた新しい美意識が日本の中で生まれる可能性を試さなければいけないのではないかという気がします。

福原義春: 伊藤先生は東京藝術大学の学生を連れて、わらじで熊野古道を歩かれるそうですね。今の学生は、欧米化した日本の中に埋もれているのではないでしょうか。ですので、彼らが熊野古道をわらじで歩いたとき、何か違ったものを感じたに違いありません。そこから新しい次なるクリエーションができればいいと思うのですが、先生はお歩きになって、どう思われましたか。

伊藤俊治: 熊野古道では段差のある行程を14kmぐらい、実際に体を使って歩くことで、自然というものに深く触れながら日本の美や文化を発見していきました。そのプロセスの中で、「道そのものが1つの文化だ」ということを、体で悟っていくような感じがしました。

こういう身体感覚を総動員して、自分たちの生まれたマザーランドを知っていくということが、第4の日本をつくり上げる大きなヒントになるのではないかという気がしました。

福原義春: 現代の学生が、たとえ西欧化した文化・文明の中に入っていても、見えないところで、例えば遺伝子的には古いものがかなりまだ残っているはずなんです。

栄養学の中村丁次先生のお話によれば、明治の時代に政府が肉食を推奨して今日に至った結果、さまざまな成人病が問題になってきた。でも遺伝子というのは20年、30年の単位ではなく、数百年、数千年の単位で変わるものなので、きのうまで菜食だったのが急に肉食に変わるということは、体質的に受け入れられないところがあるそうです。

伊藤俊治: では若い人たちも、意外とすぐに覚醒するかもしれないんですね。

福原義春: 学生さんたちが日本的な自然に改めて触れると、眠っていた細胞が目覚めるということは確かにあると思います。

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福原義春 (株式会社資生堂 名誉会長)
伊藤俊治 (東京藝術大学美術学部先端芸術表現科教授)

福原義春(㈱資生堂名誉会長)
伊藤俊治(東京藝術大学教授)


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