六本木ヒルズライブラリー

宝石エッセイストの岩田裕子さんに、近著「21世紀の冷たいジュエリ」をご紹介頂きました。


21世紀の冷たいジュエリ
この世に実在する、いわば、商品の中で、いちばん「夢」に近いのが、宝石ではないでしょうか。大きさといえば、1カラットでほんの直径5、6ミリしかありませんが、価格は、質によって、ゼロがいくつ重なることか。宝石は、特別なのです。地の底で、数十億年の孤独に耐えたダイヤモンド。貝の痛みから、何千枚という膜をまとい、その身に光を溜めた真珠たち・・。
宝石を目にすると、いつもの日常生活が、ふらっと変わる。気分が一瞬、時空を越える。それは、彼らの小さな体に、夢や物語が潜んでいるからではないでしょうか。
宝石の夢。背後に広がる、煌びやかな別世界。私は、まるでイタコのように、宝石たちの語る夢や物語をこの一冊につづりました。
たとえば、ドラゴンの玉子から生まれたルビーの話。大国主尊が愛し、裏切った翡翠姫の話。何度も生まれ変わっては美しくなる、ターコイズの女神の話。
女優と宝石も縁が深く、マレーネ・ディートリッヒは、エメラルドをコレクションし、マリリン・モンローはシナトラから贈られたエメラルドを、無造作に人にあげてしまいます。
小説に登場する宝石といえば—。
大きな猫目石の指輪を、ボクシング観戦の際、つけて出かけた嫁がいました。その指輪を買わされた舅との危険な恋の行方は?(谷崎潤一郎「瘋癲老人日記」)

月長石は、狂気を宿している。アクアマリンは、知的で明るいエメラルドの妹。キリマンジャロの夜を映したタンザナイト。ダイヤモンドのために、弟を殺した王様・・・ホームズは、青いガーネットの謎をとき、名探偵ポワロは、クリスマス・プディングの中から、皇太子のルビーを発見するのです。ああ!
事実も、伝説も、残っている話は、その宝石の本質を伝えています。私はそう実感しながら、36種類の宝石をここに取り上げました。
この本は、14年前に出版された本に、今世紀、新しく発見された石(ツァボライト、ペツォタイトなど)を書き加え、目次に宝石写真も載せて復刊された、いわば21世紀バージョン。
「冷たいジュエリ」というタイトルについては、まるでどこかから飛んできた蝶々のように、私の胸に宿ったのです。
宝石好きの方も特に好きじゃない方も、この本とともに、宝石という名の冒険旅行にでていただけるとうれしいです。
本邦初公開で、イラストも十数点描かせていただきました。絵を描くのは、学生時代の美術部ぶりでした。

※「21世紀の冷たいジュエリ」は、ライブラリー「メンバーの著書コーナー」に配架しております。


関連書籍


瘋癲老人日記 (改版)

谷崎潤一郎
中央公論新社