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石井裕:理念駆動~タンジブル・ビッツからラディカル・アトムズへ
MIT Media Lab CREATIVE TALKより

時代を超えるビジョンが、独創未来を創る

キャリア・人グローバル
更新日 : 2014年01月08日 (水)

第1章 MITメディアラボのプリンシプル

MITメディアラボとのコラボレーションセミナー「CREATIVE TALK」シリーズ。第3回のゲストは同ラボの副所長、石井裕氏です。1995年に同ラボ教授に就任した石井氏は、数々の独創的なビジョンと作品を生み出し、MITから終身在職権(テニュア)を獲得しています。現在の研究テーマ「ラディカル・アトムズ」は、物理的物質そのものを情報表現操作メディアとし、自在にその形状や性質を変更できるようにするという、極めて急進的な取り組みです。斬新な発想で世界を驚かせてきた石井氏を突き動かす力は、ビジョン(理念)。石井氏が、いま思い描くビジョンとは?

講師:石井裕(MITメディアラボ副所長、TTTコンソシーム・コディレクター、タンジブル・メディア・グループ・ディレクター、Jerome B. Wiesner Professor of Media Arts and Sciences)

石井裕(MITメディアラボ副所長、TTTコンソシーム・コディレクター、タンジブル・メディア・グループ・ディレクター、Jerome B. Wiesner Professor of Media Arts
石井裕(MITメディアラボ副所長、TTTコンソシーム・コディレクター、タンジブル・メディア・グループ・ディレクター、Jerome B. Wiesner Professor of Media Arts and Sciences)

 
我々は未来を前に、どう進むのか?

石井裕: 本日はビジョン(理念)がテーマです。ビジョンが、イノベーション(跳躍)のドライビング・フォース(駆動力)としていかに大切かをお話しします。

Envision & Embody –どのような未来が訪れてほしいのか、夢を心に強く思い描き、未来を創造するためにその夢を具現化し検証していく、その不断の努力が僕らの創造のエンジンです。私が1995年にMITメディアラボに赴任してから、これまでに行ってきた研究を中心に、この夢の具現化のプロセスを紹介していきます。

「未来を予測する最も良い方法は、未来を発明してしまうことだ」。こう語ったのは、我々の師であるアラン・ケイ(※編注)です。MITメディアラボでは、このプリンシプル(信念)を日々実践しています。

この世には未来を予測する方法はたくさんあります。しかし、未来は予測するものではなく、自らが夢見て、自らの手で創造するものだと私たちは考えます。今日、我々を取り巻く環境は、破壊的なスピードと激しさで変化し続けています。昨日までメインストリームだったパラダイム(価値体系)も、あっという間に瓦解し、新しいパラダイムに置き換えられてしまう。テクノロジーだけではなく、文化、社会、あらゆる価値観がいま、ドラスティック(劇的)に変化しています。

見通せない未来を前にして、我々はどのように未来へ進んでいくのかを、懸命に考えなければなりません。現在地はどこなのか、どこへ向かっているのかを、問い続けなければなりません。そしてその問いに対する答えも、常に変化し続けます。その時に大切なのは、人工衛星から地球を俯瞰するような高高度の視点から、ロングタームな視座(perspective)を確立することです。その視座を通してはじめて、自分のいる現在地とそこから進むべき方向が見えてきます。自分なりの視座を確立し、その視座をダイナミックに変更・修正し続け、リアルタイムで考え行動していくことが大切になります。

普遍原理・原則をつかみとる

石井裕: MITメディアラボの所長、伊藤穰一(Joi Ito)は、常に新しい地平を最先端で切り開いている人物です。彼の言葉で、私が好きなのは<Compass over Map>です。

多くの企業は、膨大なエネルギーをかけて5年先、10年先の未来を予測し、徹夜を重ねながら事業計画(未来地図)を作っています。しかし、その時完璧だと思われる未来地図を作りあげても、世界は瞬く間に変わってしまうため、未来地図はすぐに陳腐化してしまいます。予測できない未来の地図を懸命に描くよりも、自らの視座・基軸を決めた上で、進むべき方向を指し示す優れたコンパスを持つこと、それが大切だと彼は語っています。

葛飾北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」という有名な浮世絵には、船を飲み込むような激しい荒波が描かれています。ダイナミックに変化する情景のなかで、唯一動かないもの、変わらないものがあります。それは遠方に見える富士山です。この不動の富士山こそが、私たちが求めているビジョンなのだと思います。日々変化しすぐに陳腐化するものではなく、普遍的なプリンシプル、価値観をつかみとること。それがいま、とても大切なことだと考えています。


※編注
アラン・ケイ
「パソコンの父」と呼ばれる、米国のコンピュータ科学者。コンピュータが巨大な装置であった1960年代に「パーソナル・コンピュータ」の概念を提唱。米国ゼロックス社・パロアルト研究所在籍時に、現在のパソコンの原型となる「Alto」などを開発し、スティーブ・ジョブズらに多大な影響を与えた。

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Vision-Driven: From Tangible Bits Towards Radical Atoms

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石井裕 (MITメディアラボ副所長、TTTコンソシーム・コディレクター、タンジブル・メディア・グループ・ディレクター、Jerome B. Wiesner Professor of Media Arts and Sciences)
林千晶 (株式会社ロフトワーク 代表取締役/MITメディアラボ所長補佐)

石井 裕(MITメディアラボ副所長)
林 千晶(㈱ロフトワーク代表取締役/MITメディアラボ所長補佐)
MITメディアラボとアカデミーヒルズがコラボレーションしてお届けする"CREATIVE TALK" シリーズ第3回は、副所長の石井氏にお越しいただきます。メディア・アート、インタラクション・デザイン、そしてサイエンス・コミュニティーにおいて、石井氏らが発表してきた多様なプロジェクト例を紹介しながら、「タンジブル・ビッツ」から「ラディカル・アトムズ」へと至るビジョン駆動研究の発展の軌跡を描写します。


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