記事・レポート
石井裕:理念駆動~タンジブル・ビッツからラディカル・アトムズへ
MIT Media Lab CREATIVE TALKより
時代を超えるビジョンが、独創未来を創る
キャリア・人グローバル
更新日 : 2014年01月14日
(火)
第4章 情報を“気配”として表現する
情報に触り、操作する
石井裕: タンジブル・ビットの1例として、都市計画の設計のために作られた「Urp」(Urban planning)というシミュレーションシステムを紹介します。ジョン・アンダーコフラー(Dr. John Underkoffler)という、私のグループから最初の博士号を取得した仕事です。
建築の模型をテーブル上に置くと、影が現れます。実はこの影は、コンピュータが計算したディジタルシャドーで、付属の時計ツールの針を動かせば、影の角度や位置は自在に変化します。模型の素材をディジタル的にレンガからガラスに変えれば、ガラス張りの建物がもたらす太陽光の反射の具合も分かります。さらに、建物の周囲に吹く風までシミュレーションできます。建物を置く位置を動かすたびに、机の下では流体力学の方程式を解く計算が行われる。その結果として、影や太陽光の反射、風の方向がテーブルの上に投影されるのです。
情報を物理的実体として表現したものが、建物の模型です。都市計画のイメージを示す物体であるのと同時に、直接触れて操作できる情報でもある。そうした意味でUrpは、タンジブル・ビットのビジョンを具現化しています。
情報は周辺視で認識できる
石井裕: もう1つの例は、風というメタファーから生まれたアンビエント・ディスプレイ「Pinwheels」です。建築空間のなかに一陣の情報の風が吹く。その結果として風車が回る。私はもともと、太陽風に興味がありました。太陽のコロナの活動により、イオン化した粒子の風が吹いてくる。その風で風車(かざぐるま)を回したい、太陽の息吹を感じたいという夢が、この作品の原点となっています。
この作品の重要なポイントは、一瞥するだけで、情報を「気配」として感じとれること。たとえば、時間を知りたいとき、壁に時計があれば、一瞥するだけで瞬時に時間を把握することができます。一方でみなさんがお持ちのスマホやタブレットは、汎用的な(general purpose)ツールですが、何百個もある機能のなかから1つを選び取るには、画面に意識を集中し、選択操作をしなければなりません。
汎用性の高いツールにあふれた現代の情報環境のエントロピーを下げるためには、シンプルな目的と操作法を持ったメディアが必要です。すなわち、意識を集中しなければ、理解できない、処理できない情報ではなく、柔らかな自然の風、川面に反射する光、あるいは壁にかかった時計のように、意識の少し外側、周辺視でも十分認識できる情報表現です。これが「アンビエント・メディア」=情報を気配として感じられる新しい環境型インターフェースです。
このアイデアから実際に商品化されたものが、柔らかな光を放つ球体のライト「Ambient Orb」です。たとえば、インターネット上の株価情報を読み取り、値上がりしていれば緑色に、下落すると赤になります。あるいは、天気予報や花粉情報、道路の込み具合なども、色の変化でリアルタイムで伝えてくれます。周辺視で気配を感じて、顕著な変化が起きれば、必要に応じて注視すればよいのです。
石井裕:理念駆動~タンジブル・ビッツからラディカル・アトムズへ
MIT Media Lab CREATIVE TALKより インデックス
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第1章 MITメディアラボのプリンシプル
2014年01月08日 (水)
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第2章 本質は情報生態系のなかにある
2014年01月09日 (木)
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第3章 タンジブル・ビットの原点
2014年01月10日 (金)
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第4章 情報を“気配”として表現する
2014年01月14日 (火)
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第5章 インスパイアの連鎖反応を起こす
2014年01月16日 (木)
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第6章 タンジブル・ビットからラディカル・アトムズへ
2014年01月17日 (金)
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第7章 18年かけてたどり着いたビジョン
2014年01月20日 (月)
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第8章 新しい未来をつくる、3つのパッション
2014年01月21日 (火)
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第9章 MITメディアラボは深いアイデアやビジョンを作り出す場
2014年01月23日 (木)
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第10章 自分を信じて、突き抜ける
2014年01月24日 (金)
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第11章 未踏峰連山を目指す君に3つのフォースを
2014年01月27日 (月)
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第12章 イノベーションのエネルギー
2014年01月28日 (火)
該当講座
理念駆動:タンジブル・ビッツからラディカル・アトムズへ
Vision-Driven: From Tangible Bits Towards Radical Atoms
石井裕 (MITメディアラボ副所長、TTTコンソシーム・コディレクター、タンジブル・メディア・グループ・ディレクター、Jerome B. Wiesner Professor of Media Arts and Sciences)
林千晶 (株式会社ロフトワーク 代表取締役/MITメディアラボ所長補佐)
林千晶 (株式会社ロフトワーク 代表取締役/MITメディアラボ所長補佐)
石井 裕(MITメディアラボ副所長)
林 千晶(㈱ロフトワーク代表取締役/MITメディアラボ所長補佐)
MITメディアラボとアカデミーヒルズがコラボレーションしてお届けする"CREATIVE TALK" シリーズ第3回は、副所長の石井氏にお越しいただきます。メディア・アート、インタラクション・デザイン、そしてサイエンス・コミュニティーにおいて、石井氏らが発表してきた多様なプロジェクト例を紹介しながら、「タンジブル・ビッツ」から「ラディカル・アトムズ」へと至るビジョン駆動研究の発展の軌跡を描写します。
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