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石井裕:理念駆動~タンジブル・ビッツからラディカル・アトムズへ
MIT Media Lab CREATIVE TALKより

時代を超えるビジョンが、独創未来を創る

キャリア・人グローバル
更新日 : 2014年01月17日 (金)

第6章 タンジブル・ビットからラディカル・アトムズへ

石井裕(MITメディアラボ副所長、TTTコンソシーム・コディレクター、タンジブル・メディア・グループ・ディレクター、Jerome B. Wiesner Professor of Media Arts

 
マテリアルを自由に踊らせる

石井裕: ここまで、タンジブル・ビットの研究についてご紹介してきました。しかし、依然としてアトム(atom/物質)はシャイで、内向的で、自らは踊ってくれませんでした。それが、動的なデジタルモデルとフィジカルに表現された情報との間の非同期性という問題を生じさせました。

デジタルの世界ではプログラムを書くことで、ピクセルを2次元スクリーンの裏で自由に踊らせることができます。しかし、たとえばここにある椅子、机、コップといった物質は、踊ってはくれず、形状も変化しません。

2008年頃から、フォトンの動作を自由にプログラミングできるのと同じように、その形状や性質をダイナミックに変化させられる夢のような物理的マテリアルについて考え始め、それを「ラディカル・アトムズ」(Radical Atoms)と名づけました。

ラディカル・アトムズ以前のシャイ(内向的)なアトムを使った例として、砂を使ったランドスケープ・デザイン・メディア「Sand Scape」があります。箱の中にある砂で山や谷を作り、赤外線光源を当てることで、砂の上に3次元の形状を投影します。山の影、等高線、傾斜地を流れる水のスピードなど、様々なシミュレーションが行えます。砂自体はタンジブルであり、触覚的なフィードバックを与えながら、コンピューテーションなマテリアルになる。しかし、砂というアトムは過去の形状を記憶しておらず、踊ってくれませんでした。

これがラディカル・アトムズになるとどうなるのか。2013年6月末に、米国中部のアスペンという街を訪れました。街の周囲には美しい山々があります。昔は海の底だったそうで、時間をかけて隆起し、山が形成された。素晴らしいU字谷も、氷河に削られることで作られた。ラディカル・アトムズで再現されたランドスケープでは、土地が持つ過去の形状記憶という情報をダイナミックに再現することができます。

「Relief」は、台上に突き出た120本のピンの上げ下げで、3次元的に山の形状を再現します。上部からは、Google earthから取り込んだ山岳地帯の映像を投影しており、時間軸を司る木製のリングを回転させることで、時間をさかのぼり、山の形状を変化させます。

コンピュータ画面上で変化する山の3D映像と、ピンが作り出す山の形状は、完全にシンクロしています。つまり、土地の記憶(地形の変化)という1つの情報を、デジタルだけではなく、フィジカルの世界にも翻訳し、ダイナミックに再現しているのです。それにより、デジタル状態とフィジカル状態が同期しています。ラディカル・アトムズという新しい表現を使うことで、仮想世界と物理世界をつなぐ、新しい情報表現と操作が可能になります。

そこから発展した「TimeScape」では、粘土と同じように、直接手で触って形状を変化させたり、中空で手を動かすジェスチャーを使うことで、広範囲にコマンドを発信し、形状を変化させたりすることもできます。まったく新しいマテリアル、新しい粘土、新しいインタラクションとコミュニケーション。それが、ラディカル・アトムズ研究の根幹です。


石井裕:理念駆動~タンジブル・ビッツからラディカル・アトムズへ
MIT Media Lab CREATIVE TALKより インデックス


該当講座

理念駆動:タンジブル・ビッツからラディカル・アトムズへ

Vision-Driven: From Tangible Bits Towards Radical Atoms

理念駆動:タンジブル・ビッツからラディカル・アトムズへ
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林千晶 (株式会社ロフトワーク 代表取締役/MITメディアラボ所長補佐)

石井 裕(MITメディアラボ副所長)
林 千晶(㈱ロフトワーク代表取締役/MITメディアラボ所長補佐)
MITメディアラボとアカデミーヒルズがコラボレーションしてお届けする"CREATIVE TALK" シリーズ第3回は、副所長の石井氏にお越しいただきます。メディア・アート、インタラクション・デザイン、そしてサイエンス・コミュニティーにおいて、石井氏らが発表してきた多様なプロジェクト例を紹介しながら、「タンジブル・ビッツ」から「ラディカル・アトムズ」へと至るビジョン駆動研究の発展の軌跡を描写します。


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