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「池上彰が紐解く、アラブの今と未来」in 六本木アートカレッジ

~アラブ美術のツボがわかるニュース解説~

政治・経済・国際文化教養
更新日 : 2012年09月28日 (金)

第9章 【番外編】池上彰が観た「アラブ・エクスプレス展」

池上彰(ジャーナリスト/中東調査会会員/東京工業大学教授)

池上彰: 先日、キュレーターの説明を受けながら観た「アラブ・エクスプレス展」の作品をいくつか紹介します。
(※森美術館で2012年10月28日まで開催中)



アーデル・アービディーン Adel Abidin

アイム・ソーリー

"I’m Sorry"

2008/12

"Arab Express: The Latest Art from the Arab World" Installation view: Mori Art Museum

Photo: Kioku Keizo
この作品をつくったアーティストはイラク生まれで、イラク戦争の後にアメリカに行ったときに「私はイラク人です」と自己紹介したら、みんなから「I'm sorry.」と言われたそうです。この言葉を日本人は「ごめんなさい」と解釈しがちですが、本来は「かわいそうね」と相手に同情する言葉ですよね。あまりにもみんなに「I'm sorry.」と言われるので、「俺は“I'm sorry”という人間か!?」ということで、この作品をつくったそうです。カラフルなライトは激しく点滅します。イラク戦争という極めて悲惨な経験をしているにもかかわらず、自虐的というか、何ともいえないユーモアを感じます。


アハマド・マーテル Ahmed Mater

マグネティズム III /マグネティズム IV

"Magnetism III / Magnetism IV"

2012

所蔵:エッジ・オブ・アラビア
Collection of Edge of Arabia

"Arab Express: The Latest Art from the Arab World" Installation view: Mori Art Museum

Photo: Kioku Keizo
イスラム教のことを知っている人は、これを見たら「メッカのカーバ神殿だ」と思うはずです。イスラム教徒が巡礼している姿に見えますが、実は、これは磁石と砂鉄です。カーバ神殿のようにみんなを引き寄せるものを磁力でつくったのですね。


シャリーフ・ワーキド Sharif Waked

次回へ続く
"To Be Continued"

2009

Collection: Sharjah Art Foundation

"Arab Express: The Latest Art from the Arab World" Installation view: Mori Art Museum

Photo: Kioku Keizo
この動画作品では、ヒゲを生やした男が銃を目の前に置き、何かを読み上げています。これを見たら「テロリストが自爆テロを予告しているんだ」と思うでしょう? でも、字幕をよく読むと『千夜一夜物語』を読んでいるだけなのです。とっても平和です。アラブ世界以外の人たちは、こういう男の姿を見ただけでテロリストと思い込む。それを皮肉った、アラブ世界に対する偏見をおちょくっている作品です。


ゼーナ・エル・ハリール Zena el Khalil

ザナドゥ、あなたのネオンは輝くだろう
”
Xanadu, Your Neon Lights Will Shine"

2010

Courtesy: Galerie Tanit

平和が惑星を導き、愛が星の舵をとる

"Peace Will Guide the Planets and Love Will Steer the Stars"

2010

Courtesy: Galerie Tanit

軽めのファンダンゴを踊ったら

"Skip the Light Fandango”

2010

Courtesy: Galerie Tanit

"Arab Express: The Latest Art from the Arab World" Installation view: Mori Art Museum

Photo: Kioku Keizo
このコラージュ作品には、3人の蛇遣いに踊らされているレバノンのハリリ首相(暗殺された)が描かれています。コントロールしている3人は、シリアのアサド大統領と、イランのアフマディネジャド大統領と、ヒズボラ(レバノンを中心に活動しているイスラム原理主義勢力で、アフマディネジャド大統領が支援している)のリーダー、ナスララです。イスラエルによって空から撒かれた風刺ビラを題材に、それをポップ調にして、全体を笑い飛ばしているのです。「レバノンの状況をイスラエルなんかにどうこう言われたくない。自分たちで書いちゃうもんね」という意地のようなものがうかがえる、二重、三重の構造をした作品です。 ほかにも、びっくりするほどポップなものから、悲惨な状況を描きながらもユーモアや権力への風刺を込めたものまで、会場には様々な作品があります。ぜひ、きょうの私の話を思い出しながら、観ていただければと思います。私たちが考えているのとは全く違うアラブ世界があるということが、わかると思います。(終)

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池上彰が紐解く、アラブの今と未来
池上彰 (ジャーナリスト/中東調査会会員/東京工業大学教授)

長期独裁政権下に置かれたアラブ諸国の民衆が、民主化を求め立ち上がった「アラブの春」。チュニジアから端を発した民主化運動は、隣国のエジプト、リビアに飛び火し、各国で続いた長期独裁政権を崩壊させる結果となりました。 アラブで起こった一連の民主化運動は、FacebookやTwitterなどのSNSが民衆....


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