記事・レポート

私が考えるサスティナビリティ
妹島和世(建築家)×皆川明(デザイナー)

Creative for the future - クリエイティブで切り拓く未来への架け橋 vol.1

更新日 : 2021年01月19日 (火)

前編 つなぐ、つなげる



日本を代表する世界的建築家の妹島和世氏と、社会への考察や自然への詩情から図案を描くことで知られるファションブランド「ミナ ペルホネン」を手がける皆川明氏に、今、人類が抱える共通課題である環境問題に触れながら、建築とファッションの世界で、今後、取り組むべき行動についてお話いただきました。

妹島和世(建築家)
皆川明(デザイナー)

開催日時:2020/10/24(日)13:00~14:30
CONFERENCE BRIDGE 2020「Creative for the future ~クリエイティブで切り拓く未来への架け橋」
主催: DESIGNART TOKYO 実行委員会、アカデミーヒルズ
助成:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
写真:田山達之 / 文:新八角
時間、空間、人を繋げる建築
妹島:今日のテーマはサスティナビリティだと伺いましたが、建築はまさにそういうことと直接触れ合いながら作られているものだと思います。私が初めて意識的に考えるチャンスをいただいたのは、2012年のルーヴル・ランスのプロジェクトで、その中にThe Galerie du Temps、時のギャラリーという言葉がありました。簡単に申しますと、ルーヴルのコレクションは紀元前4000年前から19世紀半ばまで約6000年の年月の中にありますが、単に古い物を陳列する博物館ではなくて、6000年前からずっとつながって今自分達が居るのだと、そういうことを感じられるギャラリーにしたいということでした。

その時に、空間というのは結局時間の繋がりで、いろんなものがいろんな形で、繋がって使われていくということの大切さを感じました。最近はサマリーテーヌというパリのデパートを改修したのですが、そのデパートがある通りにおいては、街のリズムが窓のリズムで出来上がっています。つまり、はじめは凄く規則正しいのですが、商業地区になるとランダムになって来る。そういうリズムを使って、古いものと新しいものを柔らかく繋げていけないかと考えました。

21stCentury Museum of Contemporary Art,Kanazawa 2004

それから、2004年に出来上がった金沢21世紀美術館は、当時とにかく夢中で、作るだけで精いっぱいだったのですが、「美術館は街だ」というコンセプトから、ギャラリーが美術館の中に点在する作り方をしました。実際に街でギャラリーを運営される方が美術館の展示室の一つが街の中に跳んだという構造を見付けてくださって、街に広がっていく関係が生まれました。設計した際には全く考えていなかった使い方を、いろんなアーティストやキュレーターの方に発見していただいて、一つの建物がより創造的な空間になるということが私にとっては大変勉強になりました。

シドニー美術館では、大地と建造物の重なり、つまりはその土地の歴史をそのままギャラリーの中に採り入れてみたり、中国の繊維の街では、街並みと展示を一緒に見て、やはり街にある歴史の全体を見ていただくというような試みをしています。

瀬戸内海の犬島のプロジェクトでは、アートから始まって、次第にいろんな人に関わっていただき、島全体の造園がどうなっているかとか、植栽の観点から見てどうかとか、いろんなことを考えるようになりました。つまり、皆で島を作るというか、島を大きな建築くらいのスケールでとらえています。2008年から今まで、少しずつ手を入れて、色々な仕事がなんとなく繋がって、それが私だけではなく学生の方や島民の方に繋がってきました。そして、これから先、島をどうしていきたいかということも、島民の方たちと一緒に話し合っています。これもまた、一つのサスティナビリティなのかな、と思います。

物と記憶が循環するファッション
皆川:妹島さんのお話を伺っていると、トーク冒頭のルーヴルのお仕事から、最後の写真の犬島のお仕事まで、時間と空間と暮らしが密接に、だんだんと粒子が固まっていくようにして建築物になった印象があって、大変興味深かったです。

僕がファッションをはじめたキッカケは1985年のパリでした。パリのファッションショーを手伝うアルバイトに出会ったのです。それまではファッションに全く縁がなかったのですが、ショー準備のための簡単なお直しなどをさせてもらっているうちに、これはとても自分には不向きな仕事だなと思いながら、不向きということはかえって飽きずに出来そうだなと思いました。

そこでパリから戻って、夜間のファッションスクールに通いながら縫製工場に勤め始めました。それが、ミナ ペルホネンの「ハギレを活かす」ということに繋がっています。というのも、縫製工場では布を型紙に沿ってカットしていく仕事をしていたのですが、カットされた残りの布は廃棄されてしまっていました。始めは疑いもなくそういうものだと思っていました。その後、ブランドを始めたころに、資金的に苦しく、材料を買うお金を得る為に魚市場で働き始めました。すると寿司屋さんや料理屋さんが来て魚を仕入れていくわけですが、腕のいい包丁捌きの人ほど、アラを丁寧に持って帰る。そのお店に行ってみるとアラのお吸い物が出てきたり、アラの煮付けになっていたり、お刺身ではない部分も凄く大事に使っている様子を見て、これは何かファッションの、自分の仕事に繋がることではないのか、と思い始めました。



自分達にとってのアラというのは、裁断で残ったテキスタイルはじめ使われなかった材料全てですね。そこで最初は、洋服の型紙を取った後の余り布でミニバッグを作りました。今でも工場で裁断し終わった後に出る余り布やハギレは一旦全部会社に戻します。そしてそれをハギレのセットとして袋に詰めたり、くるみボタンにしたりして、消化していくシステムを作りました。僕はテキスタイルの勉強をしたことがなかったので、色々な工場に足を運んで教わりに行ったのですが、そういう時に、工場の方は日々発注者から値引き交渉をされていて、一方で余った材料は捨てられていると。その捨てられていくおよそ15%の布の材料のコストと値引きされているコストが、何となく近いなと思って、発注者がそこをうまく活かしていけば、作っている人も充分に仕事の対価を得られるし、デザインの仕事としても色々なメリットがあるのではないかという風に改めて思ったわけです。

その当時は、まだサスティナビリティという言葉はそんなに言われていなかったと思うのですが、自分は材料を無駄にしないというだけではなくて、その材料に含まれている人の労働も一緒に捨てられている、それを何とか止めないといけないなと強く思っていました。物が循環して、リサイクルされ継続性があるということだけではなく、そこに関わる人の手間とか、そういうことが無駄にならないこともとても大事なのだろうな、と。

兵庫県立美術館 特別展 「ミナ ペルホネン / 皆川明 つづく」
Photo:L.A.TOMARI

今、丁度兵庫県立美術館で「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく 」という展覧会をしている(※2020年7月3日~11月8日まで)のですが、ファッションの世界ではシーズン毎に新作を出して、それが新しいもので、そして次の年になるとその新しかったものは、過去のものに思われてしまっていました。自分達はデザインしたものを長く着ることで、その洋服がだんだんと、その人の記憶の一部になっていくのではないかと考えておりまして、この展覧会ではお客様から長年着ていただいている洋服を借りて、その洋服にまつわる思い出と一緒に展示しています。

ファッションは時系列で何年にどういうスタイルが発表されたかという展示が多いのですが、それよりは作られたものがどのような記憶を纏っていくか、洋服というモノがその人の記憶に変わっていく様子を展示しています。結局のところ、デザインというものは物質として存在しながらも元々は誰かの思考や想像力から生まれてくるものです。物質ではないものから形までたどり着いて、そしてその形がいずれ誰かの記憶や次の創造力にまた変わって、それが循環する、ということを考えています。

ブランドを立ち上げる日に、A4のコピー用紙に「せめて100年」という言葉を書いたのですが、それは自分自身が出来ることではなくて、自分が思ったことを誰かに繋げながらやっていく、ということを考えていました。

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