記事・レポート

私が考えるサスティナビリティ
妹島和世(建築家)×皆川明(デザイナー)

Creative for the future - クリエイティブで切り拓く未来への架け橋 vol.1

更新日 : 2021年01月19日 (火)

後編 人の気持ちが価値を生む

人の感情を主軸に置いたプロダクト


妹島:私も、何が何でも100年、200年残したいと思っているわけではないのですが、出来たら長く続く建築を大切にしたいと考えていました。道行く人や使う人が思ってくれて、なんとか残っていくような建築ですね。ただ、残るということは、どうしてもどこかで部分的に壊れたり、不都合があったりするものです。だからこそ、何か状況が変わってしまっても、修繕したり、別の使い方を考えたりして、使い続けてもらえるようなものを作りたいな、と。

皆川:妹島さんの建築を見させていただくと、質量というよりは、人の営みの動線が見えてくるようで、そこで人がどうやって動き、どんな感情を持つのか、ということに自然と関心が及ぶような印象を受けます。それはどことなく野山のような感じもあって、あの山は凄く素敵だなと思って入っていくと、今度はそこにある獣道や花などに目がいって、結局は山という物を体験するというより、そこに入った時に目にする細かなディテールや時間を感じる。それが心地良く、自分の暮らしにとてもフィットしているような感覚です。金沢21世紀美術館もそうだと思いますが、アート作品を見に行きながらも、その動線の中の心地よさや新しい発見を、展示物とは別の部分の感情としても受け取っていて、それが建築の力だと思います。物質としてとても大きいことは確かですが、質量ではなくて感情的に自分の中に入ってくるような気がして、それがとても面白い。

妹島:ありがとうございます。描写のされ方がとても魅力的です。それは特に公共空間という観点において重要だと思っています。自分たちの町について考えるキッカケになるとか、どこかでその建築に参加できるということが大切なのではないかな、と。自分が立ち入れない所から受け取るのではなくて、そこにあるものに、自分が考えるチャンスがあったり、もしかしたら触れられたり、一緒に作れたり、そういうプロセスを見るとか感じるということが1つのサスティナビリティに繋がるのかなと。ファッションの在り方としては、毎年更新されるモードというものがあるわけですが、そこから抜け出すような発想はすごく新鮮でした。何がきっかけでしたか?

皆川:それはまさに建築やインテリアの見方から来ています。何十年もこの世界に変わらずに存在し続けていて、いろんな人が見ていく中でも多くの人から肯定的にとらえられているものが世の中に沢山ある。つまりデザインはもっと長いスパンで自分の中で消化していく物で、ファッションも同じなのではないかな、と。これまでしばらくは新しいものが最上の価値だという時代でしたが、素材を作る上では開発する期間もとても長いですし、ワンシーズンだけでその労力や価値がなくならない状況を作りたいなと思っています。つまり洋服としての価値ということだけではなくて、洋服が取り巻く環境を変えてみたいという関心があるのです。
人の視点を変えることで生まれるサスティナビリティ


妹島:建築は考える時も自分達だけではなくて、エンジニアの人や実際に作る人、いろんな人との全体からできあがるものです。そして元々はクライアントの方が「こういうものがあったら良いな」とか「必要だ」というところから始まっているので、上手くいくこともあれば、矛盾があり喧嘩をしたり、いろんなことが起こります。また、出来上がったと思ったら、完成だと思えなくなって、違ったことが始まることもあります。ですから、自分もやれるだけのことをやるので、一緒にやっている皆さんもやれるだけのことをやって下さい、としかできない。でも、それくらい大雑把というか、緩やかにやっていくことで、建築は時間的にも、空間的にも、あるいは人との関係としても繋がっていくのではないかな、と思っています。

皆川:今自分達が大事にしているのは、作る人と洋服を着る人、または物を使う人の喜びを両方同時に作っていく、1つのプロダクトです。洋服を作る時に、布を作る人も、プリントする人も、縫う人も、その仕事に関わることによって、自分の人生で費やしている労働の時間が豊かになる。その結果出来た物が、着る人や使う人にとって喜びのあるモノになる。この両方のバランスを取るのがデザイナーだと私は思っています。

それゆえ、出来上がるまでの間もデザイナーは喜びを作らなければいけないと思っているので、工場に仕事を出す時も、この図案やこの素材というものが作り手にとって何か新しいチャレンジがあるのだろうか、この仕事に喜びはあるのだろうか、と考えます。

サスティナビリティというものは、出来上がったものがその後も循環すればいいということではなくて、今後は作る量というものが大切になる。つまり、ファッションでいえばもっと量は減って良いと思っているわけです。減って良いけれど、その分、作ることに対しての手間や人の労働は同じ時間を費やして、価値を増やす。そうすれば多くのモノを生み出さなくても、かける労力はその分増えていって、そのモノの価値が結果的に高まって、使う人、社会にとってもそのモノが社会に残る期間が長くなるのではないか。そういったバランスを取っていくことが、今後のサスティナビリティに大切だと思います。

妹島:量という話とは少し違うのですが、私も建築をやりながら、バランスが上手くいかなくなっている、という感覚があります。建築では、性能の基準が上がり、とにかく性能が良くないと駄目だという傾向が強くなっています。作る人もどこかでコンサバティブというか、文句を言われないようなものにせざるを得なくなる。そうすると今度はお金が高くなったり、場合によっては保険が高くなったり、さらに使う人との距離ができ、作ることと使うということが離れてしまうわけです。

また金沢21世紀美術館の話になりますが、あの建築に関わることで素晴らしいことの一つとして、出来た時から、当時の市長がメンテナンス委員会を作ってくれたということがあります。何があってもなくても1年に2回皆で集まって、ちょっとずつ手を入れながら使い続けるという仕組みですね。それはいまだに続いていまして、そういったことが、きちんと市のシステムとして作り上げられたことは、本当に珍しいと思います。

皆川:私たちは金沢21世紀美術館の制服を作らせてもらっているのですが、その制服は美術館から見える自然の色を集めたモザイクの様なデザインになっています。もし破けてしまって、補修が必要な時は、端切れをパッチワークしたら、そんなに目立たないような制服になっているわけです。破れない布を作るのではなくて、破れた時には補修して、またそれはそれで1つ新しい表情としてとらえればいい。人の気持ちが許せることはいっぱいあって、そういうことを誘発出来るような制服にしましょうということだったので、それは美術館全体の方向性と重なるものではないでしょうか。結局、物質の問題というよりは、人が物を見る時の寛容性を持つことで、物の寿命は随分変わるだろうな、と思います。

妹島:建築を作る時は、機能性とか使い方から自分たちなりに始めるわけですが、実際はそれぞれの人が「こう使おう」とプランを考えたり、あるいは気持ちの良いようになんとなく使ってみたりして、いろんな展開が生まれるわけです。だからこそ建物が出来あがった後に行ったりすると、予想外のことが起こるし、面白い。制服のお話と同じように、建築も物質だけの話ではなくて、使う人の気持ちが価値を生むのかなと、と思います。(了)

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