記事・レポート
多様な個性が育むナラティブパワー<イベントレポート>
更新日 : 2024年09月24日
(火)
【5章】人は、感情と密接な時に学び、育つ(Q&A)
(左)竹内さんが持っているのが、松本さんと伊藤穰一さん(共著)の『普通をずらして生きる』
(中央)松本さんが持っているのが、竹内さんの著書『話す力で未来をつくる』
開催日:2024年5月8日 イベント詳細
スピーカー: 竹内明日香 (一般社団法人アルバ・エデュ 代表理事)
松本理寿輝 (まちの保育園・こども園 代表 / まちの研究所株式会社 代表取締役)
ファシリテーター: 藤沢久美 (国際社会経済研究所 理事長)
スピーカー: 竹内明日香 (一般社団法人アルバ・エデュ 代表理事)
松本理寿輝 (まちの保育園・こども園 代表 / まちの研究所株式会社 代表取締役)
ファシリテーター: 藤沢久美 (国際社会経済研究所 理事長)
人は、感情と密接な時に学び、育つ
藤沢:最後に、会場の皆さまからご質問、ご意見を伺えたらと思います。
会場:子ども関連の仕事をしている者です。次にあげる3つの観点について、子どもに対してどう伝えたらいいのかと考えているのですが、どう思われますか。一つ目が突き抜ける力、いわゆる「”オタク”力」。二つ目が「的を得る・外す」良い/悪いや、好き/嫌いではなく、周りとの設定の仕方。三つ目は「手応え感」です。
藤沢:難しくもいい質問ですね。理寿輝さん、いかがですか。
松本:まず、個性は自分から出てくるものなのですが、他者とのやりとりによって引き出されるところがあります。我々の活動では、子どもたちが好きなことに対して取り組むときに、誰かと協働的に深めていく学びのプロセスをとれるよう、スモールグループの活動を初めからデザインしています。つまり、子どもたちは、いわゆる自分の「"オタク"力」からスタートするけれども、他者との接点を持ちながら、どうすれば自分が表現できるかを考え、やり遂げていく。自分なりに友人がわかってくれるような接点を見つけ、でも自分がどうしてもやりたいこと、手応え感のようなところに対しては主張もある。そうして共同参加している仲間たちとの折り合いをつけ、ジレンマをも克服する力を、大事にしています。
竹内:一斉保育と個別保育の子どもたちを統計的に比べてみると、語彙力や、偏差値は個別に保育された子の方が、伸びると言われています。突き抜け力という観点でいうと、プレゼンの授業をしていると、子どもたちは最初は周りを気にしながら、なんです。でも今回いくつかの自治体で「話す力」のプログラムの実証実験をしてみてわかったことが3つあります。
一つ目が、実際に自分がアウトプットをすることが大事だと感じる、ということですね。いわゆる自分のオタク的なものを人に伝えることが大事なんだと感じること。二つ目は、自分のアウトプット、言語化を進めていくと、その環境における心的安全性が高まるということ。三つ目として、自分は何かできる、という自己効力感が高まるということ。つまり、子どもたちに、自分の意見をアウトプットすることに意義がある、と思わせてあげることです。そういったカリキュラムが増えていくと、子どもたちが本当に疲れていく不登校やいじめなどが減っていくのではないかと、今のお話を聞いていて思いました。
会場:竹内さんのお話に勇気をいただきました。そのうえで2点、質問があります。一つ目は、ナラティブパワーが弱まる理由に、中・高の教育環境があるのではという仮説をもっています。竹内さんのお子さんは中高一貫校に行かれたということですが、6年間は同調圧力が比較的強い時期なのではないか、と。故に、力を入れるべきは幼年教育よりも、中等教育、高等教育の部分かもしれないと思うのですがいかがでしょうか。二つ目は、竹内さんの取り組みが比較的、地方都市から取り組んでいらっしゃいますが、あえて初期段階からローカルの方も含めて進められた信念、お考えをがあれば、ご教示いただければと思います。
竹内:おっしゃるように、ゴールデンエイジは小学校5年から中学2年ぐらいの間だと感じます。少し抽象的な概念がわかってきて、さきほどの「話す力」のプログラムのような協働的な学びができるようになり、学習の成果を発揮できる。この間に、どれだけ多様な考え方に触れられるかが勝負なんじゃないかなと思います。それは、保護者であれ、地域の方であれ、色々な方が子どもに対してできることもあるのではと思います。
そして、実は、うちの子どもたち(長男次男)は中高一貫に入りましたが、二人ともその学校を辞めています。長男は、一貫高校への進学辞退届を出し、N高校に進み、今は科学者になりたいと言って大学に行っています。次男は「アスリートになるんだ」と今も本気で言っていますが、中学の間に公立に転じてスポーツ推薦をうけて高校へ進んだという形です。最近高校サッカー選手権に出て、全国ベスト4まで行きました。勉強は全くしませんが、我が家では許されています。ちなみに、一番下は音楽で生きていくと言っています。普通の親は、せっかく中学受験したんだしやめとけ、というところなんでしょうけれども、3人も子どもがいると1人ぐらい面白い人生でもいいかなと思っていたら、みんなが面白いことになっちゃったという結果論なんです(笑)。もちろん同調圧力はものすごくありました。親戚やお友達、いろいろな方から大反対されていましたけれども、本人がやりたいというのを止めても、ね。親の人生じゃないですし、やってみたら、と言うしかなかったというのが結論です。
また、地方都市からやってみてよかったことは、日本の教育はすごい、ということがわかったことです。1970年代を通して教育の均質化が行われ、どこの地域の子どもも同じように同じことができる、それは体育も4教科も、全てにわたってできる素晴らしい国なのです。さらに、首都圏のほうが学力は高いのですけれども、その子たちが全てにおいて強いわけでもない、ということもわかりました。例えば、自己主張ができなかったり、正解を求めすぎたり(一通り演習を終えたあとに結局答えは何なんですかと聞いてきて、いや正しい答えはないんだよ、と言っても納得ができない)、そういったことが、特に東京都の中学受験率の高い小学校、高校受験の進学率の高い中学校での出来事でありました。これに比べて、地方では、荒削りではあるんですけれども、考え方にものすごく底力を持っている子どもたちがいます。この子たちが、高等教育の中で都会の子たちとうまく混ざるような仕組みをもう少しできたら、もっと多様で強い国になるということを、肌感で知ることができたのはとても良かったと思います。ただ、地方都市からプログラムを受注したあと、交通費を助成金の中に入れていなかった!ということがあって、全部自腹を切ってとてもお金には苦労したので、振り返ってみるとまた同じことはしないかもしれないなと思うのですが(笑)。
会場:竹内さんがそもそも「話す力」に着眼されたのが、海外での交渉のケースにおいてということでしたが、交渉というと、ロジカルに整理され、正しい主張をすると勝てるイメージがあります。ただ、今日のお話を聞いていると、そうではなく、自分を語れて、それに周りが引き込まれるから、結果的にその人のペースになっていくことで勝てる、それがナラティブの力なのかなと感じたのですが、そうのような理解であっていますでしょうか。また、そうなったときに、私自身は子どもがいるので子どもとの接し方や、会社ではマネージャーとして部下との接し方について、自分の話が得意ではないのでどうしたらいいのか、自分の経験で語れない、でもやらなきゃいけないのかとモヤモヤしています。
竹内:ありがとうございます。これは、大人の成功体験の話がないほうが、むしろ子どもにとってはいいんじゃないかと思っています。私も一生懸命正しくあろうと頑張って子育てをしてきましたが、ある時「実は受験失敗してさぁ」みたいな話をしたときの子の表情や笑い方、そこからようやく子どもたちが自分で主体的に活動するようになったことで、なんで自分はあんなに強くあろうとしたんだろう、と思っています。ですので「今日部下にこんなこと言っちゃったんだけど何か失敗しちゃったな」など、パパの生身の体験の話を聞かせて差し上げるほうが、お子さんにとっては良い学びになるのではないかと思います。おっしゃる通り、もう論理の時代ではなくて、誰かを論破して勝てる問題ばかりではないと思います。むしろ、自己開示をして、こんな弱みもある自分なんだけれども、そんな自分だからこそこんなことを言いたいんだ、と伝えることです。まさに共感、ぐっと周りを包み込むような巻き込み力ですね。
藤沢:最後に理寿輝さんからもメッセージいただけますか。
松本:やっぱり前提として、学びや育ちは、感情と共にあるんですよね。感情と密接な時に人はすごく学ぶし、育つ。必ずしも、すぐお喋り上手、お話上手にならなくても、感情を持って楽しめているかどうかが、すごく大事だと思います。それは例えば、お父さんやお母さんと一緒に遊んで、楽しい経験を重ね、感情を動かされて何かに出会う経験から始まると思うので、愛を伝えて、一緒に遊びに行くっていうところだけで、大丈夫だと思います。その中で、子どもから出てきた声を少しずつ丁寧に拾っていって、それは面白いねとか興味を持って聞くようにしていく。それだけでその子どもたちの姿は変わっていくとこれまでの経験上思いますし、きっと、それぞれのご家庭で既にされていることだと思います。
藤沢:ありがとうございました。私は、なぜかお二人と話をすると、すごく表情が緩んで、ニヤニヤしてしまうんですよね(笑)、お二人の表情が素敵だから。今日のお話しを通して、個性がどうあるべきだとか、どう語らなければいけないかという以前に、自分の心が感じたことを正直に、顔にでも何にでも出してみるというところからスタートなのかなと思いました。それが、気がつくと会話にもなっているし、表現にもなっていて、それがナラティブなのかな、と感じます。とても深いテーマでお話をする機会をいただいたこと、そして素晴らしいお話をお二人にしていただいたことに感謝をして、また会場で参加くださった皆様にも感謝をして、終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。
会場:子ども関連の仕事をしている者です。次にあげる3つの観点について、子どもに対してどう伝えたらいいのかと考えているのですが、どう思われますか。一つ目が突き抜ける力、いわゆる「”オタク”力」。二つ目が「的を得る・外す」良い/悪いや、好き/嫌いではなく、周りとの設定の仕方。三つ目は「手応え感」です。
藤沢:難しくもいい質問ですね。理寿輝さん、いかがですか。
松本:まず、個性は自分から出てくるものなのですが、他者とのやりとりによって引き出されるところがあります。我々の活動では、子どもたちが好きなことに対して取り組むときに、誰かと協働的に深めていく学びのプロセスをとれるよう、スモールグループの活動を初めからデザインしています。つまり、子どもたちは、いわゆる自分の「"オタク"力」からスタートするけれども、他者との接点を持ちながら、どうすれば自分が表現できるかを考え、やり遂げていく。自分なりに友人がわかってくれるような接点を見つけ、でも自分がどうしてもやりたいこと、手応え感のようなところに対しては主張もある。そうして共同参加している仲間たちとの折り合いをつけ、ジレンマをも克服する力を、大事にしています。
竹内:一斉保育と個別保育の子どもたちを統計的に比べてみると、語彙力や、偏差値は個別に保育された子の方が、伸びると言われています。突き抜け力という観点でいうと、プレゼンの授業をしていると、子どもたちは最初は周りを気にしながら、なんです。でも今回いくつかの自治体で「話す力」のプログラムの実証実験をしてみてわかったことが3つあります。
一つ目が、実際に自分がアウトプットをすることが大事だと感じる、ということですね。いわゆる自分のオタク的なものを人に伝えることが大事なんだと感じること。二つ目は、自分のアウトプット、言語化を進めていくと、その環境における心的安全性が高まるということ。三つ目として、自分は何かできる、という自己効力感が高まるということ。つまり、子どもたちに、自分の意見をアウトプットすることに意義がある、と思わせてあげることです。そういったカリキュラムが増えていくと、子どもたちが本当に疲れていく不登校やいじめなどが減っていくのではないかと、今のお話を聞いていて思いました。
会場:竹内さんのお話に勇気をいただきました。そのうえで2点、質問があります。一つ目は、ナラティブパワーが弱まる理由に、中・高の教育環境があるのではという仮説をもっています。竹内さんのお子さんは中高一貫校に行かれたということですが、6年間は同調圧力が比較的強い時期なのではないか、と。故に、力を入れるべきは幼年教育よりも、中等教育、高等教育の部分かもしれないと思うのですがいかがでしょうか。二つ目は、竹内さんの取り組みが比較的、地方都市から取り組んでいらっしゃいますが、あえて初期段階からローカルの方も含めて進められた信念、お考えをがあれば、ご教示いただければと思います。
竹内:おっしゃるように、ゴールデンエイジは小学校5年から中学2年ぐらいの間だと感じます。少し抽象的な概念がわかってきて、さきほどの「話す力」のプログラムのような協働的な学びができるようになり、学習の成果を発揮できる。この間に、どれだけ多様な考え方に触れられるかが勝負なんじゃないかなと思います。それは、保護者であれ、地域の方であれ、色々な方が子どもに対してできることもあるのではと思います。
そして、実は、うちの子どもたち(長男次男)は中高一貫に入りましたが、二人ともその学校を辞めています。長男は、一貫高校への進学辞退届を出し、N高校に進み、今は科学者になりたいと言って大学に行っています。次男は「アスリートになるんだ」と今も本気で言っていますが、中学の間に公立に転じてスポーツ推薦をうけて高校へ進んだという形です。最近高校サッカー選手権に出て、全国ベスト4まで行きました。勉強は全くしませんが、我が家では許されています。ちなみに、一番下は音楽で生きていくと言っています。普通の親は、せっかく中学受験したんだしやめとけ、というところなんでしょうけれども、3人も子どもがいると1人ぐらい面白い人生でもいいかなと思っていたら、みんなが面白いことになっちゃったという結果論なんです(笑)。もちろん同調圧力はものすごくありました。親戚やお友達、いろいろな方から大反対されていましたけれども、本人がやりたいというのを止めても、ね。親の人生じゃないですし、やってみたら、と言うしかなかったというのが結論です。
また、地方都市からやってみてよかったことは、日本の教育はすごい、ということがわかったことです。1970年代を通して教育の均質化が行われ、どこの地域の子どもも同じように同じことができる、それは体育も4教科も、全てにわたってできる素晴らしい国なのです。さらに、首都圏のほうが学力は高いのですけれども、その子たちが全てにおいて強いわけでもない、ということもわかりました。例えば、自己主張ができなかったり、正解を求めすぎたり(一通り演習を終えたあとに結局答えは何なんですかと聞いてきて、いや正しい答えはないんだよ、と言っても納得ができない)、そういったことが、特に東京都の中学受験率の高い小学校、高校受験の進学率の高い中学校での出来事でありました。これに比べて、地方では、荒削りではあるんですけれども、考え方にものすごく底力を持っている子どもたちがいます。この子たちが、高等教育の中で都会の子たちとうまく混ざるような仕組みをもう少しできたら、もっと多様で強い国になるということを、肌感で知ることができたのはとても良かったと思います。ただ、地方都市からプログラムを受注したあと、交通費を助成金の中に入れていなかった!ということがあって、全部自腹を切ってとてもお金には苦労したので、振り返ってみるとまた同じことはしないかもしれないなと思うのですが(笑)。
会場:竹内さんがそもそも「話す力」に着眼されたのが、海外での交渉のケースにおいてということでしたが、交渉というと、ロジカルに整理され、正しい主張をすると勝てるイメージがあります。ただ、今日のお話を聞いていると、そうではなく、自分を語れて、それに周りが引き込まれるから、結果的にその人のペースになっていくことで勝てる、それがナラティブの力なのかなと感じたのですが、そうのような理解であっていますでしょうか。また、そうなったときに、私自身は子どもがいるので子どもとの接し方や、会社ではマネージャーとして部下との接し方について、自分の話が得意ではないのでどうしたらいいのか、自分の経験で語れない、でもやらなきゃいけないのかとモヤモヤしています。
竹内:ありがとうございます。これは、大人の成功体験の話がないほうが、むしろ子どもにとってはいいんじゃないかと思っています。私も一生懸命正しくあろうと頑張って子育てをしてきましたが、ある時「実は受験失敗してさぁ」みたいな話をしたときの子の表情や笑い方、そこからようやく子どもたちが自分で主体的に活動するようになったことで、なんで自分はあんなに強くあろうとしたんだろう、と思っています。ですので「今日部下にこんなこと言っちゃったんだけど何か失敗しちゃったな」など、パパの生身の体験の話を聞かせて差し上げるほうが、お子さんにとっては良い学びになるのではないかと思います。おっしゃる通り、もう論理の時代ではなくて、誰かを論破して勝てる問題ばかりではないと思います。むしろ、自己開示をして、こんな弱みもある自分なんだけれども、そんな自分だからこそこんなことを言いたいんだ、と伝えることです。まさに共感、ぐっと周りを包み込むような巻き込み力ですね。
藤沢:最後に理寿輝さんからもメッセージいただけますか。
松本:やっぱり前提として、学びや育ちは、感情と共にあるんですよね。感情と密接な時に人はすごく学ぶし、育つ。必ずしも、すぐお喋り上手、お話上手にならなくても、感情を持って楽しめているかどうかが、すごく大事だと思います。それは例えば、お父さんやお母さんと一緒に遊んで、楽しい経験を重ね、感情を動かされて何かに出会う経験から始まると思うので、愛を伝えて、一緒に遊びに行くっていうところだけで、大丈夫だと思います。その中で、子どもから出てきた声を少しずつ丁寧に拾っていって、それは面白いねとか興味を持って聞くようにしていく。それだけでその子どもたちの姿は変わっていくとこれまでの経験上思いますし、きっと、それぞれのご家庭で既にされていることだと思います。
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