記事・レポート
2020年、そしてその先へ デジタルの力で未来をつくる
~ネスレ日本 高岡浩三社長×サイバーエージェント 藤田晋社長 初対談!~
更新日 : 2020年03月27日
(金)
後編 デジタルトランスフォーメーション(DX)に必要なこと
DXに必要な2つのスキル
——今回のテーマの1つでもあるデジタルトランスフォーメーションについて、それぞれの取組事例を教えてください。高岡:最初に取り組んだのはコミュニケーションの部分です。
今でこそネット上のショートムービーは一般的になりましたが、ネスレ日本では20年ほど前から制作しています。当時は利益率が非常に低かったので、数十億円かかるTV広告は全て止めて、「花とアリス」というショートムービーを作り、YouTubeで流しました。
その動画に英語や中国語の字幕を付けることで全世界の人に見てもらえて、結果的にインバウンド消費につながりました。日本の化粧品はインバウンド顧客に人気ですが、チョコレートはそうではありません。キットカットの抹茶味が全世界のインバウンド顧客から指名買いされるのは、私たちがコミュニケーションにおけるDXを最初にやったからだと自負しています。
デジタルとは馴染みの薄い食品業界で、コミュニケーションや実際のビジネスモデルを変えることによって、ネスレ日本のeコマースの売上構成比は全体の約20%を占めます。これはネスレグループの中でも突出して高く、おそらく日本の食品メーカーの中でも圧倒的に高い割合ではないかと思います。
藤田:またAbemaTVの話になりますが、赤字を出しながらもこれだけコミットしているのは、必ずいけると確信しているから。今すでにAbemaTVのほうが、明らかにTVより便利だと思っているからです。
たとえば将棋中継の場合、NHKの将棋中継は持ち時間が10分しかありません。一般的な試合の持ち時間は4時間、2人で8時間あるのに、10分しか中継されないのは短すぎる。でもAbemaTVは尺に制限がないので、全部見ることができます。
また、スポーツの試合中継に間に合わなくても、AbemaTVなら1.3倍速、1.5倍速で見て追いつくことができます。しかも1人で見ていたら、エラーにツッコミを入れても寂しいですが、コメント欄を開けばみんな同じようにツッコミを入れている。双方向で見ているような感じになるんですね。
fireTVやAppleTVなどを利用すれば、TVの大画面・高画質で見ることができますし、朝ニュース番組を見たいとき、TVだと移動したら見られませんが、AbemaTVであればスマホで持ち運んで見ることも可能です。さらにAbemaTVはハワイにいてもヨーロッパにいても、全世界から見ることができます。
時間や場所などから全て解放され、見逃した番組もタイムシフトで全て視聴できる——こんなに便利なのに、なぜAbemaTVを使わないのだろうと思いながらやっていますが、これは視聴習慣の問題なんですね。
——高岡さんも大きく頷きながら聞いていらっしゃいましたが、DXに取り組む上で、大切なことは何だと思われますか?
高岡:そう考えると、やっぱりトップダウンが大事ですよね。だからこそ、経営者——特に社長の役割は大きい。 世の中では、社外取締役の割合やガバナンスが問題になっていますが、本来社長以外は全員社外取締役というのが理想だし、グローバルでは一般的です。リーダーシップの強い経営者が求められる中、そのトップが暴走しないよう取締役会が存在するわけですが、社内の人間はサラリーマンだから、面と向かって社長を避難するのは難しい。
ただ、暴走するくらいのリーダーシップは必要だと思います。そうでないと、これだけ変化の大きい時代についていけませんから。
藤田:とはいえ、日本の大企業に暴走しそうなほど腹をくくっている経営者はほとんどいなくて、いても専務として追い出されるイメージが(笑)。
高岡:本当にそうですね。私もサラリーマン社長としてずっとやってきましたが、いかにオーナー社長っぽく振る舞えるかどうか、いつも考えています(笑)。先ほど藤田社長がおっしゃったように、経営の世界は「勝てば官軍、負ければ賊軍」なんですね。
藤田:2000年前半くらいまでは部下に任せて伸ばしてきたので、私は後方支援に徹してやってきました。でも本当に会社を変えるような大きな取り組みをやるときは、自分でフルコミットすべきだと考えています。
というのも、アメーバブログを立ち上げた頃、部下に任せていてなかなか上手くいかなかったことが、自分が引き取ってフルコミットして、ようやく自分の間違いに気づいたんです。未来がどうなっていくか分からないのに、こんなに大事なことを部下に任せて責任を持ってもらうのはダメだな、と。
それ以降は、スマートフォンに一気にシフトするときも、AbemaTVを始める際も、大きなプロジェクトに取り組む際は自分がフルコミットしてやるようにしています。
高岡:そうですね。イノベーションやDXに取り組む際は、オーナーシップが非常に大事です。だからアイデアを考えた人間がリーダーをやらなければならないと私も思います。ですから自分が考えたアイデアは今でも自分でやるし、私以外が考えたアイデアは、どんなにポジションが低い社員でも、本人をプロジェクトリーダーにしてチームメンバーの人選も一任します。
リーダーがイノベーションを起こすのに必要なのは、オーナーシップと「人をいかに巻き込むか」。自分の熱意を伝えることができ、自分に付いてきてくれる人を選ばないと、藤田社長のおっしゃるように上手くいかないのではと考えています。
質疑応答
Q. サービスを提供する側として、ユーザーの習慣を変えるには、何が必要だと思いますか? また、日本は他の国と比べて習慣を変えるのが難しいと言われていますが、それはなぜだと思いますか?
高岡:1つ目の質問は「気づきを与えること」だと思います。新しいサービスやイノベーションがお客さんに広がらないのは、気づいていないから。
20世紀のブランドコミュニケーションは——特に弊社のような食品や消費財の場合、そのブランドが持つイメージや世界観を、広告によって一生懸命刷り込んでいました。 でも私たちはお客さんに新しい気づきを与え、それを伝えることにお金を使いたいと考えています。
2つ目の質問に関して、「なぜ日本でイノベーションが起こりにくいのか?」とよく質問されますが、その答えは「ダイバーシティの欠如」ではないかと考えています。ダイバーシティはジェンダーの話と思われがちですが、民族の話なんですね。日本のようなほぼ単一民族の国では、異なる意見がなかなか出てきません。
なぜ私がダイバーシティな人間になれたのか。いろいろ考えてみると、30年前に史上最年少で部長に昇進した際、スイス本社と電話でやり取りしたことがきっかけだったと考えています。 当時はまだEメールもない時代で、日本のことを全く知らない外国人から「なぜ日本は年に1回しか採用しないのか」「先進国のスーパーマーケットは、だいたい4〜5社に集約されるのに、なぜ日本だけ400社もあるのか」など、当たり前のこと過ぎて、日本人からほとんど聞かれないことを質問されました。当時の私は、ちゃんと答えられませんでした。
でも「知らない」「日本だから」で終わってしまうと、日本人なのに自分の国のことを分かっていないから、仕事ができないヤツだと思われてしまう。それは癪だったんですね(笑)。だから一生懸命考えて、後日返答しました。これが自分にとって非常に良かった。理由を考えると「なぜ未だにこんなことをやっているんだろう?」と疑問を持つことができますから。
藤田:「習慣を変える」とは少し話がそれるかもしれませんが、私がチェアマンを務める麻雀のプロリーグ「M.LEAGUE」を立ち上げるタイミングで、Jリーグの初代チェアマンだった川淵三郎さんとお会いする機会がありました。川淵さんも麻雀が大好きだと伺い、思い切って「M.LEAGUEの最高顧問になってくれませんか?」とお願いしてみたら「いいよ」と引き受けてくださったんです。
川淵さんは80歳を超えるご高齢で、ご自身でfireTVが設置できるか分かりませんでした。でも最高顧問として「M.LEAGUE」の番組は見てもらわなければなりません。そこで弊社のエンジニアをご自宅に派遣し、設置から使用方法の説明までやりました。
そのときに、やはりラストワンマイル——最後に習慣を変える部分は、本当に手間暇をかける必要があるし、粘り強さが問われると感じました。ちょっと精神論みたいですが、やはり「粘り強さ」は最終的にイノベーションを起こす上で必要なのかなと思います。
2020年、そしてその先へ デジタルの力で未来をつくる
~ネスレ日本 高岡浩三社長×サイバーエージェント 藤田晋社長 初対談!~ インデックス
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前編 これからの時代を生き抜くために
2020年03月27日 (金)
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後編 デジタルトランスフォーメーション(DX)に必要なこと
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