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2020年、そしてその先へ デジタルの力で未来をつくる
~ネスレ日本 高岡浩三社長×サイバーエージェント 藤田晋社長 初対談!~

更新日 : 2020年03月27日 (金)

前編 これからの時代を生き抜くために



2020年が明け、デジタルテクノロジーの発達はますます加速度的に進み、既存の産業構造やビジネスモデルを破壊し、ビジネスのあり方を根底から変えつつあります。
この劇的な変化に適応し、これからの時代を生き抜いていくためには、あらゆる業界・企業にとってもデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)が至上命題です。

そのような環境下で私たちはどのように行動し、進化すべきか。グローバル企業でイノベーションを起こしてきたネスレ日本高岡浩三社長と、インターネット黎明期から常に新しいビジネスを生み出してきた サイバーエージェント藤田晋社長に、いま日本企業が取るべきアクションやDXの事例について、余すところなく語っていただきました。

文:筒井智子 写真:田山達之

出会ってすぐ協業——AbemaTV×テアトルアカデミー

高岡浩三 (ネスレ日本株式会社代表取締役社長兼CEO)

高岡浩三氏(以下、高岡):みなさんこんばんは。今日はようこそおいでくださいました。私自身、そんなにデジタルの世界を分かっているわけではないので、ちょっと心もとないと思いましたが、藤田社長がいらっしゃるので、今日は大船に乗ったつもりで参りました。よろしくお願いいたします。

藤田晋氏(以下、藤田):こんばんは。サイバーエージェントの藤田です。
会場に着いたら、「2020年、そしてその先へ デジタルの力で未来をつくる」(本セミナーのタイトル)とちょっと大きなことが書いてあったので大丈夫かな?と思いながらここに座っています。どうぞよろしくお願いします。

——お2人は出会ってすぐ、AbemaTVとテアトルアカデミーの共同事業をスタートされたと伺いました。

高岡:ずっと前からお名前は存じ上げていましたが、実際にお目にかかったのはこの1〜2年くらいです。子会社時代から含めると約15年社長をやってきまして、もうすぐ60歳にもなります。そろそろ次のキャリアステップを考え始めています。それがネスレでずっと手掛けてきたDXのコンサルティングです。

ネスレのスイス本社とも話した上で、3年前に自分の個人会社を作り、現在は2〜3社ほどお手伝いしています。そのうちの1社がテアトルアカデミーさん。鈴木福くんなど、数多くの子役を抱える会社です。彼らは全く異なる業界ですが、ローテクなのは食品業界と似ていて、DXする余地があると感じました。

藤田社長と食事している際、そういえばAbemaTVには赤ちゃんや子ども向けの番組がない、それを作れば新しいスポンサーを呼び込めるのではないかという話をしたんです。
子どもの数は年々減っており、子ども向け番組を視聴する人の数も減っていますが、いわゆる「ポケットの数」は倍に増えました。祖父母が圧倒的に孫にお金を使いますから。

藤田晋 (株式会社サイバーエージェント代表取締役社長)

藤田:そうなんです。最初にお話してから1年くらいでここまできましが、自分の中にもともとAbemaTVに対する構想があり、高岡社長の話を伺った際に足りないパーツを埋められると思いました。

当時から女性向けコンテンツを増やしたいと思い、考えていたのが子どもが出演するコンテンツでした。小さい子どもは癒やしコンテンツになるので、作りたかったのですが、出演してくれるかわいい子どもがなかなか見つからないのが問題でした。でもテアトルアカデミーに所属する子どもたちは、親も含めて最初から出演するつもりで来ています。これならば上手くいくと思い、すぐに話を進めさせていただきました。

高岡:私にも孫がいるので、すごく分かります。プロのカメラマンが撮った動画ではなくても、十分癒やされます。

——AbemaTVは先日、Weeklyアクティブユーザー(WAU)が1000万人を超えたと伺いました。

藤田:当初から思い描いていた、広告と課金のハイブリッドのビジネスモデルを成立させる土台ができたという意味で、1つの節目でした。とはいえ1000万WAUに行き着くまで、ちゃんとコツコツ積み上げてきたからこその結果です。

メディアに大切なのは、視聴習慣だと思っているんです。朝起きて無意識に新聞を取って開く。家に帰ったらTVのリモコンを操作し、ニュースを見る——それが視聴習慣です。その習慣があるからこそ、広告を載せることで新商品を知ってもらうというメディアとしての価値が生まれるんです。この視聴習慣をつけるのには、ものすごく時間がかかります。10年がかりでやると宣言していますが、まだ4年目。ここから粘り強く拡大させていかなければなりません。

高岡:藤田さんが今、「習慣を変える」とおっしゃいましたが、イノベーションには習慣を変えることが不可欠だと考えています。だからAbemaTVもまだまだこれからだと思いますし、今チャレンジされている意味はすごくよく分かります。

21世紀型の日本的経営とは何か
——ここからはお2人の経営論に迫っていきます。高岡社長は「21世紀型の日本的経営」を挙げられています。これはどのようなお考えなのですか?

高岡:今までの日本的経営は、基本的に日本がまだ新興国の時代、高度成長期に培われたものだと理解しています。その後バブルを迎え、日本は世界第2位のGDP先進国に上り詰めますが、そこからの30年を振り返ると、すごく暗い時代でした。

私の考える20世紀型の経営モデルには、産業革命が非常に大きなインパクトを与えました。電気と石油で問題解決してきた時代が20世紀型だとしたら、新たにデジタルを活用することで、今までできなかった問題を解決していくのが21世紀型経営。

20世紀型の経営から脱却するには、顧客の問題を解決し、バリューを上げるにはどうすれば良いかを考えることが非常に重要です。それこそがマーケティングだと思っています。

マーケティング施策によって売上やバリューを上げつつ、かつ利益も上げる——人口減少社会の中で、大量にものを売れない時代では、いかに顧客の問題を見つけ出し、解決するかが重要になります。その原動力になるのが、デジタルだと考えています。

藤田:私自身も高岡社長のおっしゃる「21世紀型の日本的経営」と近しいことを考えてきました。終身雇用や新卒一括採用など、日本ならではのモデルは、文化として深く根付いており、それがたとえ変でも1社で変えるのは難しい。それなら合わせたほうが良いのではと考えたのです。

これができるのは、我々の業界がずっと右肩上がりだから。高度成長期には人口が5000万人増えましたが、我々の業界では今も毎年5000万人のスマホユーザーが増えています。いずれ頭打ちが来るとは思いますが、デジタルによってその天井を超えると、超えた先がまた成長市場になるはずです。高岡社長のお話を伺っていて、自ら成長市場を作るという考え方もあるのかなと感じました。



——21世紀型の日本的経営を実現させてきたのは、何がカギになっていたのですか?

高岡:基本的にはトップダウンですね。
デジタルトランスフォーメーションは、全社的にも大きな話なので、ボトムアップでは埒が明きません。途中で話がおかしくなるし、時間がかかってしまうからです。

人口も経済も右肩上がりに成長していく時代は、ボトムアップでも十分でした。でも産業革命が起こり、さらにものすごいスピードで環境が変わっていく昨今、やはり経営戦略を考えるのは社長の仕事だと思います。逆に考えられないなら、社長は務まらないのが21世紀型経営。だから実現させるには、トップダウンがかなり重要です。

藤田:同感です。変化の激しい今の時代、企業は商品や組織を適宜変えながら進化していかなければなりません。それはトップダウンでやらなければならないし、トップのコミットメントが非常に重要です。トップダウンとフルコミットの2つがポイントではないかと考えています。

——お2人が経営において大切にしていることを教えてください。

高岡:たくさんありますが、経営者は大前提として「結果」を出さなければなりません。そのためには勝つ戦略を作ることが大事です。でも言うのは易しいけれど、なかなか難しい。

勝つ戦略を作るために何が必要か。それは徹底して顧客の問題を発見し、付加価値を作って解決することだと考えています。時代とともに顧客の本質的な課題は日々変わります。それをいち早く見つけて、解決するために集中するのは勝つ戦略につながるので、そこに最も時間を多く割いています。

藤田:まさに「勝てば官軍、負ければ賊軍」ですよね。とにかく結果が全てで、それにコミットする戦略が重要です。ただ、少し前までサイバーエージェントでは、これが上手く機能していませんでした。

高岡社長は外資系出身ということもあって、若い頃に徹底的に戦略を鍛えられたと伺っています。しかし弊社では「とりあえずやってみよう」となるのが一般的です。スタートする際にさほどコストはかからないし、出遅れる代償のほうが大きい。とりあえずやってみて、ダメだったら撤退しますが、それで上手くいくことが多かったので、あまり関与せず、事業責任者や子会社の社長に任せっきりでした。

ある時、株主として決算説明を聞く戦略会議を3ヶ月に1回やることにしましたが、戦略の立て方が悲しくなるくらい甘かったんです。他のスタートアップ企業の社長は、資金調達しなければならないので、見事な戦略を語ります。事業責任者や子会社の社長たちに、そういう機会を与えてこなかったことを非常に申し訳ないと思っています。企業内の弱さをカバーするには、外部の目に晒され、説明する機会が必要なのだと感じました。

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