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特別対談「思いやりと安心感で限界を超えさせる~最高のリーダーの条件」

『セキュアベース・リーダーシップ』出版記念セミナー

更新日 : 2019年09月17日 (火)

3章 セキュアベース・リーダーになるために



石山:まず、リーダーシップについて、リーダーとマネージャーとの違いも含めて確認しておきたいのですが…。

高津:「リード」とは「導く」、「マネージ」は「やりくりする」という意味です。もちろん、1つの役割やミッションの中に、リーダー的な要素とマネージャー的な要素の両方が入ってくることがあるし、リーダーがマネージャーであり、マネージャーがリーダーであるという場合もあります。しかし、リーダーは基本的に「現状を変える人たち」であり、「他者を通じて、期待以上の成果を出していく人たち」です。リーダーは人を生かして何かを成し遂げます。そして、今までにないものを作るとか、現状を変えるとか、より良いところへ皆を連れていく役割を果たします。

曽山:サイバーエージェントの場合、リーダーとマネージャーをセットにしているんですが、合宿で、社長の藤田がマネージャー全員に「マネージャーとは何か」と問うたことがあります。僕は「メンバーの環境を整えること」「育成すること」と書きました。他も似たような意見でした。藤田は「皆の意見はすごくいいけど、ぜんぶ違う。組織を率いて成果を出すことが唯一の役割だ。手段やキャラクターはどうでもいい。組織を率いて成果を出していたら絶対に厚遇する」と明確に言い切りました。それがリーダーのスタンスなのだろうな、と思いました。

真のリーダーは「その人の良さを見て受け入れる」
石山:『セキュアベース・リーダーシップ』には、リーダーに求められる9つの特性が挙げられています。
  1. 冷静でいる
  2. 人として受け入れる
  3. 可能性を見通す
  4. 傾聴し質問する
  5. 力強いメッセージを発信する
  6. プラス面にフォーカスする
  7. リスクをとるよう促す
  8. 内面的動機で動かす
  9. いつでも話せることを示す

いずれも現実的で習得可能としていますが、ビジネスの速度が上がっている中で、人として丁寧に扱い、なおかつ一人ひとりの意見にじっくり耳を傾けることができるでしょうか。

高津:セキュアベース・リーダーシップを研究していくと、多くの人が「私にとってのセキュアベース・リーダーは、単なる仕事とか、単なるスキルの塊とか、単なる役割としてではなく、私を人として認めてくれました」と語っています。本の中に「あなたのセキュアベース・リーダーシップ行動を評価しよう」というところがありますが、「人として受け入れる」では次のような評価項目が挙がっています。

  • チームのメンバーを、単に何らかの役割を果たしている社員というだけでなく、人間として尊重している
  • 彼らの弱さを、彼らの支えとなって受け入れる
  • 人を判断し、人を批判する前に、その人の中にある良さを見ている

私は、特に3番目の「その人の中にある良さを見ている」がすごく大事だと思っています。相手の人間性がわからない関係では、仕事やメールの内容で判断しがちです。その際、「この人は悪い意図を持っているに違いない」と思うか、「ちょっと腹が立つけれど、善意を持ってやっているのに違いない」と思うかで、リアクションの仕方が全然違ってきます。「人として見る」ということは、「その人は基本的に可能性を持っていて、力もあり、かつ悪意はない」という前提で見るということです。


「人として見る」ための仕組み
石山:人として見てもらえれば嬉しいですが、一方で、企業には「結果さえ出せばいい」という風潮もあります。本当にできるのでしょうか。

曽山:百点とはいかなくても、やっていかなければならないことです。今はマネジメントの実態がバレる時代です。新入社員は同期でラインやフェイスブックのグループを作ります。そこで「ナントカさんから、コレコレ言われた。マジむかつく」とか、しょっちゅう言い合っています。逆に言えば、真面目に丁寧に人として接していれば、しっかりと光が当たる。「あの人、マジいけてる」なんて具合にすぐ伝わる。

僕らはスピード重視の会社ですから、「人を見る」のも簡単な方法でやらなければなりません。その1つとして、新任マネージャー研修で、簡単なフォーマットに部下の強みと弱みを5分で書いてもらっています。これ、けっこう書けないのです。弱みはすらすら書けますが、強みは1行か2行で止まっちゃう。そこで言うんです。「どうしても人の弱みを見ちゃうから、強みを見て対話していってね。強みを生かしていけばなんとかなるから。弱みを埋めるのに時間をかけるよりは、強みを伸ばすほうがいいよ」と。

もう1つはアシミレーション(assimilation)です。例えば、僕が15分ほど退席します。その間に残ったメンバーが曽山のいいところ、ムカつくところを言いまくり、人事部長が書き留めます。15分後に戻ってきた僕に、人事部長が書き留めた内容を説明する。ネガティブな意見には当事者がコメントするのがルールです。これを全員分やると、皆、「言いたいことを言えた感」があるし、強みにもフォーカスできるし、すごい相互理解になる。ここにセキュアベースができるんです。

セキュアベース・リーダーの真髄
石山:『セキュアベース・リーダーシップ』文中でも紹介されていますが、2009年8月、テッド・ケネディ・ジュニアが、父であり、上院議員のテッド・ケネディ・シニアの葬儀で述べた追悼の辞を紹介します。

12歳の時、私は骨肉腫と診断されました。片足を失った数カ月後、ワシントンDCの郊外にあった自宅に大雪が降りました。父はガレージから古いそりを引っ張り出し、敷地内の坂道を滑ってみないかと私を誘いました。

私は新しい義足にまだ慣れておらず、歩くのは簡単ではありませんでした。私は滑って、氷の上で転び、泣きながらこう言いました。「できないよ。もう2度とこの坂を上ることはできないんだ」。すると、父は力強い、優しい腕で私を抱え上げ、私が決して忘れない言葉を言ったんです。「お前なら上れる。お前にできないことなど何もない。一緒に上ろう。例え1日かかったとしても」。

父は私の腰のあたりを支えて、私達はゆっくりと、坂の上を目指し始めました。12歳の子供にとって片足をなくすことは、いわば世界の終わりにも等しいことでした。しかし、その日私は、父の背中に乗って、そりで坂道を滑走しました。

その時、父は正しいとわかったのです。この先自分は大丈夫だと確信したのです。父が教えてくれたのは、どんなに深い苦しみも、その苦しみをプラスの出来事に変える力で乗り越えられるということです。それが父から学んだ大切な教えです。父は私に、不可能なことは何もないと教えてくれました。

石山:この追悼の辞には、セキュアベース・リーダーシップの大切な要素が入っていると思いますが、解説していただけますか。

高津:テッド・ケネディ・ジュニアのお父さんは息子に思いやりを示しながら、一方で本当に大変な挑戦を要求しています。けれど、お父さんも一緒に丘を上っている。そこにセキュアベース・リーダーのあり方が示されています。

皆さんにも、同じようなセキュアベース・リーダーがいたのではないでしょうか。親かもしれないし、友だち、学校の先生、上司かもしれません。その人が自分に何を与えてくれたのか、どのような態度で接してくれたのかを思い出すことで、自分がセキュアベース・リーダーになるためのものすごく豊かなヒントが得られます。

石山:本では山登りに喩えて、命綱を握ってクライマーの安全を確保するビレイヤーがセキュアベース・リーダーだと象徴的に語られています。

高津:ビレイヤーがいなければ、怖くてロッククライミングはできません。一方で、ビレイヤーが命綱を強く引きすぎたら、クライマーは自由に動けないし、自分の力で登っているとは言えない。命綱を操る塩梅がとても難しいのです。この塩梅を考えることが、セキュアベース・リーダーシップのとても重要なところです。

おそらくテッド・ケネディ・ジュニアのお父さんも、息子の背中をどこまで押してやるべきか、すごく考えたと思います。だから、息子は「自分自身で上ったという自信」と「父親に支えてもらった安心感」という2つの実感を持てたのです。


石山智恵(フリーキャスター)


組織の中で、個々との信頼関係を築くには
石山:曽山さん、組織は大勢のチームですが、個々との信頼関係を築くことはできますか。

曽山:築かなければいけませんね。信頼関係がないと継続的な成果が出ない。昔、僕の下ではまったくできなかった部下が、隣の部署のマネージャーの下に移った翌月に全部門のMVPになったことがあります。すごいショックでした。当時の僕は「おれが言う手順でやれ」という指示命令型でしたが、隣の部署のマネージャーは「やりたいようにやれ。成果だけは出せよ」と伸び伸びやらせたんです。アプローチがまったく違いました。

その後、コーチングのメソッドを独学し、「答えは常に本人の中にある」という言葉を学びました。マネージャーの研修でも面談でも、本人に言ってもらうのが一番いい。ただし、子会社の社長に抜擢されたようなエース級のメンバーの教育方針は「放置」です。任せたら任せ切る。相談に来れば聞きますが、「で、君はどうしたいの」と考えさせて、「じゃあ、それでやれば。僕が答えを言ったら、君が社長を辞めることになるけどいいの?」と言うと、「いや、頑張ります」。僕も「やばかったら来ていい。ここまでやったら僕も責任をとるから」とフォローします。

石山:「いつでも聞く姿勢があること」が大切なポイントになっていくのですね。

高津:ええ。「24時間電話の前にいろ」という意味ではなく、必要なのは「いざとなったらあの人は話を聞いてくれるに違いない」と信じてもらえるような絆です。そして、聞く時に重要なのは「イエスかノーで答えられる質問ではなく、オープンクエスチョンができるか」、「その人が考えて答えようとしている時、ゆっくりと間を与えているか」。それができると、相手は「しっかり聞いてもらえた、自分は受け止められている」と感じます。

他者の安全基盤になるには、自らも安全基盤を持つこと
石山:他者のセキュアベースになるには、自分自身もセキュアベースを持つこと、そして、それを常に確認することが大事だという話がありました。

高津:「誰かのセキュアベースでいられること」ほど、明確な「人間力」の定義はないと思っています。つまり、人に対して思いやりを持って、その人の挑戦や成功を促してあげられること以上の人間力はない。しかし、それを持ち続けるのは大変なことです。他者のセキュアベースであり続けることは、取り組む価値があり、人生を豊かにすることですが、それには自分自身もセキュアベースが必要なのです。これはものすごく重要なポイントです。

また、自分のセキュアベースについても、時に見つめ直し、問い直さなければなりません。私自身のこれまでのセキュアベースも今はその役目を終えているかもしれないし、新しい目標が必要な段階なのかもしれません。。この見直しの作業は人生の中で長年かけてやっていくべき営みだと思っています。

石山:曽山さんは、ご自身のセキュアベースを意識されていますか。

曽山:ええ、何かあったら社長の藤田や役員が話を聞いてくれます。外部にも自分のセキュアベースだと言える方がいます。13年前、人事を担当することになったとき、ウェブや本で調べて、この分野の有名な教授やコンサルタント、人事部長などの方々の講演をしょっちゅう聴きにいきました。最前列に座り、質疑応答の時間には社名をアピールしながら一番初めに質問した。メッセージやメールを差し上げて、できればランチをご一緒する時間をとってもらい、その後メンターになっていただいた方、応援してくださる方もたくさんいます。やって良かったとすごく思いますね。

一方で、社内にセキュアベースを作ることも考えました。普通は人事部長って怖がられるので、よく社員とランチや飲みに行くようにしました。だいたい5人1組で週に4回ぐらい、1週間で20人ほどになります。一緒にご飯を食べたり、酒を飲んだりすると雰囲気が緩んで自然に話せるし、互いに話せたという安心感が生まれる。それがお互いのセキュアベースになります。

僕だけじゃなく、役員全員がしょっちゅう社員と飲みに行きます。外部の付き合いも大事だけど、社員と行った方が業績が上がる。こう言うとすごくドライに聞こえますが、その裏には信頼関係ができるという意味もあります。情報や戦略がわかりやすく伝えられるし、こちらも社内の問題がわかります。

以前、役員会で、社長の藤田に「山田君のLANケーブルの爪が折れているらしいから直してあげて」と言われました。僕は速攻でケーブルを買いに行き、山田君のケーブルを直しました。これって山田君にはめっちゃ嬉しいこと。信頼感がブワーッと上がる。こうしたことを毎日ちょっとずつ積み重ねています。全役員がやっているので、僕らは社員と対話できている自負しています。

石山:それが曽山さん自身のセキュアベースになっているんですね。

高津:まさにそうした習慣自体が曽山さんのセキュアベースですね。



セキュアベース・リーダーシップ—“思いやり”と“挑戦”で限界を超えさせる

ジョージ・コーリーザー スーザン・ゴールズワージー
プレジデント社

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