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特別対談「思いやりと安心感で限界を超えさせる~最高のリーダーの条件」

『セキュアベース・リーダーシップ』出版記念セミナー

更新日 : 2019年09月17日 (火)

1章 実体験から語るセキュアベースの力

「目立たなかった若手が別人のように成長した」、「ダメチームが素晴らしい成果を出すようになった」、…そんな現象の背後には、彼らの急激な成長を支える安全基盤(セキュアベース)があります。人は、失敗しても大丈夫と心から思えるとき、とてつもなく大きな挑戦ができます。
そんなセキュアベースの力について、また、部下を思いやり、限界を超えさせるセキュアベース・リーダーシップについて、スイスの名門ビジネススクールIMDの高津尚志氏と、サイバーエージェントでクリエイティブな人事を実践している曽山哲氏が熱く語ります。高津氏、曽山氏の基調講演に続き、本音の対談、充実した質疑応答も収録しました。

開催日:2019年1月17日(木) 19:00〜20:30
スピーカー:高津尚志(IMD 北東アジア代表)
スピーカー:曽山哲人((株)サイバーエージェント取締役)
モデレーター:石山智恵(フリーキャスター)

文:太田三津子 撮影:田山達之



高津尚志 (IMD 北東アジア代表)


高津尚志:まず、『セキュアベース・リーダーシップ』(プレジデント社)を日本で出版したいと考えた理由を、私のパーソナルヒストリーも含めてお話しします。

<高津尚志氏のキャリア>

1989-1997 日本興業銀行
  • クロスボーダーM&Aのアドバイザリー
  • フランスでの日本企業の不動産投資支援業務...

1997-2002 ボストンコンサルティンググループ
  • 日本企業のインターネットビジネス戦略の策定・実行
  • 日本企業と海外企業の合弁形成を通じたビジネスの展開の支援...

2002-2009 リクルート
  • 日本企業の経営理念・行動規範策定と浸透(共有)支援
  • 「Works」編集長...

2010-現在 IMD
  • 日本企業のグローバル人材育成支援(エグゼクティブ教育に特化)
  • 2015年より、台湾・韓国も担当...

私のキャリアを振り返ると、最初は金融面、次に戦略面、そして人事面から日本企業のグローバル化をサポートするという綺麗なストーリーに見えます。しかし、2009年にリクルートを辞めてから2010年にIMDに入るまで、実は1年半の空白があります。

失意の中、衝撃を受けた5日間
その間、新しい仕事を始めようとしましたが、いろいろあって結果的に仕事を失い、信頼していたメンターを失い、目標を失い、他人を信頼する力を失い、自分自身を信頼する力も失いました。まさに大きな悲しみの中にあったのです。

そういう時期に、「IMDの仕事をやらないか」とお誘いをいただきました。しかし、自信のない時期でもあり、グローバル人材育成の経験もありません。そこで、誘ってくれたIMDの方にお願いして、IMDのOrchestrating Winning Performance(OWP)というプログラムに参加しました。

このプログラムは5日間にわたり、スイスのIMDのキャンパスで行なわれ、世界50カ国から400人の経営幹部が集まっていました。肌の色、髪の色、言語、仕事の内容、役職のすべてがさまざまでした。参加者の圧倒的な多様性に驚くとともに、参加者の「何かを掴み取って帰るんだ」という強いエネルギーに感銘を受けました。

プログラムのコンテンツも素晴らしかった。まず、世界をマクロに捉え、最終的にリーダーとしてやるべきことに落とし込んでいくという綺麗な流れができていました。しかし、日本人の参加者は私の他に2人だけ。IMDのマーケティングの問題か、日本企業の問題か、いずれにせよ解決しなければならない問題だと思ったのを覚えています。

コーリーザー教授の最終セッションで学んだ
「Wired」「Secure base」「Mind’s Eye」
5日間の締めくくりはジョージ・コーリーザー教授によるセッションでした。5日間で学んだことを自分に紐づけていくセッションで、大きく3つのテーマがありました。

1つ目が「Wired」。これは「脳がそのように繋がっている」という意味で、「Wiredを自覚して、その繋がりをほどき、別の繋がり方をしていくことで、人は物事の考え方、捉え方を変えられる」という話がありました。

2つ目が、今日のテーマである「Secure base」、つまり「安全基盤」です。
「部下が恐れずに挑戦し続けるには、リーダーあるいは上長であるあなた自身が安全基盤として部下に貢献しなければならない。一方で、他者の安全基盤であり続けるためには、あなた自身が自分の安全基盤を持っていなければならない」という話でした。

3つ目が「Mind’s Eye」です。勝つことに目を向けるのか、自分を守ることに目を向けるのか、心の目の向け方で物事の捉え方も成果も大きく違ってくるという話でした。



心に突き刺さった「セキュアベース」
どれも感銘を受けましたが、特にセキュアベースの話が私の心に突き刺さりました。
当時の私は難しい時期にあったのです。コーリーザー教授の話を聞いて、それは自分の安全基盤が崩れていたからだと気付きました。「今の自分は、家族に対する安全基盤の役割すら果たせていないのではないか」。そんな思いが心をさらに重くしました。

教授は、参加者に「今、あなたが感じていることを隣の人と話しなさい」と促しました。たまたま隣にいた北欧から来た企業幹部に、自分が気づいたことを話していたら涙が溢れてきました。彼は目をそらさず、じっと話を聞いた後、私の手を握って言いました。「あなたがそれに気付いたことは良かった。私にも似たような経験があります。でも、明けない夜はありませんよ」。

そして、彼の話を聞かせてくれました。その瞬間、彼と私の間の国籍や人種、言語、文化、立場の違いは消え去りました。同じような痛みを経験した人間として共感したのです。彼との短い対話が、さまざまな境界を超えて人と人が信頼や共感を抱けることを、再び深く信じるきっかけとなりました。

私は自分の安全基盤の立て直しに取り掛かりました。家族や友人、先輩や後輩との時間を取り戻しました。かつて心を通わせていたけれども、長年交流が途絶えていた海外の友人たちともSNSなどを通じて再びつながり、再会を果たしました。

この経験によって、自分の仕事や自分自身を俯瞰し、自分が何をどうすべきかを見極めることができました。それが今、IMDと手を携えて進めている、「グローバルリーダーの育成支援を通じて、知識と共感で日本と世界を繋ぐ」仕事の礎になったことは間違いありません。

セキュアベース(安全基盤)とは何か
セキュアベース(安全基盤)とは、「守られているという感覚と安心感を与え、思いやりで支えると同時に、リスクをとって挑戦する意欲やエネルギーをもたらす人物であり、場所であり、目標であり、目的」です。皆さんにも安心感や思いやりを与えてくれて、背中を押してくれる方がいらっしゃるでしょう。一方で、目的や目標もセキュアベースになり得ます。「グローバルリーダーの育成支援を通じて、知識と共感で日本と世界を繋ぐ」という目標も、私にとってのセキュアベースなのです。

私は「セキュアベース・リーダーシップ」という考え方を日本に持ち込みたいとずっと思っていました。様々な方々と対話を重ねる中で、「日本の経済社会は深刻なリーダー不足に陥っている。しかし、リーダーシップ開発に関する総合的で偏りのない知見が日本にはない。特に、深い自己理解に基づく他者への働きかけの部分に大きな課題がある」という課題が見えてきました。

そこで、この「セキュアベース・リーダーシップ」のメソットを基盤に、日本で、日本語による本質的なリーダーシップ教育プログラムを立ち上げようという目標が生まれたのです。2016年のことでした。

IMDの学長とマネジメントチーム、そして日本の有志がこの試みを支えてくれました。要となる日本人コーチの人選と統括は、私自身の長年のコーチであり、一貫して私のセキュアベースである森川有理さんにお願いしました。彼女が日本のトップクラスのコーチを集めてくださり、2018年に5日間のプログラムを2度開催できました。参加した方々に対するインパクトという意味で、これはとてつもない成功であったと思います。現在は運営体制を再検討しつつ2020年の再開を目指しています。

2018年の2度のプログラムが終わった時、、森川さんが「私たちにとって、高津さんこそがセキュアベースなのですよ」と言ってくださいました。私に対する最大級の賛辞だと思っています。


セキュアベース・リーダーシップ—“思いやり”と“挑戦”で限界を超えさせる

ジョージ・コーリーザー スーザン・ゴールズワージー
プレジデント社

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