記事・レポート
名画は語る
優れた絵画は、優れた物語を生む~ブックトークより
更新日 : 2018年09月14日
(金)
第1章 ルネサンス期の名画から生まれた物語
書物は、ある人が森羅万象を熟視し、その機微を認めたものです。それは常に、読む人に何かを語りかけ、私たちはその中の真・善・美に感動し、偽・悪・醜に衝撃を受けます。絵画は、表現方法は違いますが、「語りかける」という本質は書物と同じ。特に、名画は新たな創作の源泉ともなり、優れた‘物語’さえ生み出します。そこで今回は、六本木ヒルズライブラリーに所蔵されている「名画を素材にした本」を集めてみました。
<講師>
澁川雅俊(ライブラリー・フェロー)
※本文は、六本木ライブラリーのメンバーイベント『アペリティフ・ブックトーク第42回 名画は語る~優れた絵画は優れた物語を生み出す』(2017年7月12日開催)のスピーチ原稿をもとに再構成しています。
最後の晩餐
澁川雅俊: まずは、ルネサンス期の名画をモチーフとした小説から見ていきましょう。
1つ目はダ・ヴィンチの《最後の晩餐》をめぐるミステリー、『最後の晩餐の暗号』〔J・シエラ/イースト・プレス〕です。世紀の名画が完成しようとする15世紀末、「その絵は異端ではないか」との匿名告発を受け、教皇庁からサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院に異端審問官が派遣される。その周囲で起こる殺人事件を軸に、当時のミラノの政情や、異端カタリ派の残存民衆の動向などを絡めつつ、天才画家が名画に忍ばせた秘密が解き明かされていきます。
この名画は現在も同修道院の食堂壁一面に飾られており、世界文化遺産にも登録されています。イエスが磔刑に処せられる前夜、12名の弟子と食卓を囲み、「この中に私を裏切る者がいる」との発言に一堂が驚愕する様子(新約聖書ヨハネ伝)が描かれていますが、画家はその制作に3年を費やしています。その理由は、従来なかった技法を展開(フラスコ画ではなくテンペラ画)したからとされていますが、この作家は、画家がマグダラのマリアをはじめ使徒一人ひとりを同時代に、もしくは伝説の人物を模して描こうとし、そのモデルを探すのに腐心したからだと示唆しています。
最後の審判
澁川雅俊: もう1つは、ミケランジェロの《最後の審判》です。バチカン宮殿内システィーナ礼拝堂の祭壇に描かれた巨大なフレスコ画は、世界の終焉にイエスが再臨し、あらゆる死者をよみがえらせて裁きを行い、永遠の生命が与えられる者、地獄に墜ちる者を分ける‘奇跡’が描かれています。
この絵は1541年に完成し、その後たびたび修復されてきました。『システィーナ・スカル~ミケランジェロ 聖堂の幻』〔柄刀一/実業之日本社〕は、その修復作業に参加した日本人絵画修復師が謎解き役となるミステリーです。修復中、傍らで絵を見ていた老婆が突然倒れ、息絶えるが、その手にはなぜか人骨が握られていた。この死にまつわる謎を解くカギは、実は巨大壁画のなかにあった、という物語ですが、作家の美術に関する見識が随所に現れています。なお、表題作の他にも、名画にまつわる3つの中編小説が収められています。
また、同じ絵画修復士が活躍するシリーズでは、ゴッホ、ファン・エイク、ユトリロ、ゴーギャン、信貴山縁起絵巻などの名画と推理を絡めた『黄昏たゆたい美術館』(同上)、ピカソ、フェルメール、モネ、安井曾太郎、デューラーの名画をめぐる‘生と死’の謎に迫る『時を巡る肖像』(同上)という2つの短編集もあります。
また、同じ絵画修復士が活躍するシリーズでは、ゴッホ、ファン・エイク、ユトリロ、ゴーギャン、信貴山縁起絵巻などの名画と推理を絡めた『黄昏たゆたい美術館』(同上)、ピカソ、フェルメール、モネ、安井曾太郎、デューラーの名画をめぐる‘生と死’の謎に迫る『時を巡る肖像』(同上)という2つの短編集もあります。
該当講座
【アペリティフ・ブックトーク 第42回】
名画は語る~優れた絵画は優れた物語を生む (19:15~20:45)
今回は、歴史に名を刻む“名画”にまつわる書籍をテーマにしたブックトーク。
ライブラリーフェロー・澁川雅俊が、最近多く出版されている“名画もの”にまつわるさまざまな書籍を取り上げ、「名画と書籍」を自在に行き来して語ります。
名画は語る インデックス
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第1章 ルネサンス期の名画から生まれた物語
2018年09月14日 (金)
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第2章 人間の明と暗をめぐる物語
2018年09月14日 (金)
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第3章 名画が秘める情念と恐怖
2018年09月14日 (金)
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第4章 画家たちの人間像に迫るフィクション
2018年09月14日 (金)
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第5章 桃山~江戸時代を彩った名画の物語
2018年09月14日 (金)
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