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ニッポンの「ものづくり」変革のヒントを探る

~製造業をこよなく愛する若手2人の挑戦~

更新日 : 2018年06月18日 (月)

第3章 ユーモアも交えて受答えする「タピア」 <インタラクティブセッション>



後半は、来場者とのインタラクティブセッションへ。リクエストに応えて、永守さんがタピアと実際に会話をしてみせるシーンもありました。「聞きたいことある? ダメなところも、軽く受け入れてくれると嬉しいな」など、ユーモアも交えて受け応えするタピア。永守さんはその可能性を解説します。

永守: タピアの脳はネット上のクラウドとつながって動いています。BtoCで購入できるものは音楽を聴けたり、会話ができたり、携帯やスマホとつないでビデオ通話ができたりします。BtoBで導入して頂く際はカスタマイズし、レストランや病院で働いていますし、これから赤ちゃんの見守りなどでも働くことになると思います。また、スマホを通じて本体周囲の監視もできます。社長さんが集まる講演会で、職場のモニターもできますよと説明したところ、早速20台買ってくださった方もいました。意外とそういうところにもニーズがあります。

参加者A: ご説明を聞いて、もし不在時の宅配便受け取りなどもしてくれるようになったら便利かなと思いました。荷物をかわりに受け取ってくれるとか、ちゃんと置いていってくれたか確認してくれるとか。

永守: そうした想像をしてくださる方が少なくて、我々から「ホテルやレストランで使われています」というと、同様の施設から引き合いが来るような場合が多い。ですからメーカーとしては、小さな案件でもよいので色々なところで使ってもらい、こういう使い方もできると示していきたいです。

前刀: スティーブ・ジョブズが言っていたことですが、人々が何を欲するかは、そのモノを実際に見せられるまでわからない。要するに、ないものについては想像できない。でも、そこは非常に面白いポイントですよね。


ルールは変えられなくても「泳ぎ方」で新しさを生む



中澤さんからは、電動原付バイク「UPQ BIKE」誕生のエピソードが語られました。ここにも彼女らしい、考え方を少し変えてみることから始まる挑戦があります。

中澤: 日本では、たとえばセグウェイに乗ってみたいと思うと、イベント会場やアミューズメント施設では乗れますが、公道は走れません。道路交通法が重たいのですね。ウインカーがなければいけない、ヘッドライトの光はこれくらい届かないといけない、座席はここにあるべき、といったことがあります。一方、それをクリアした電動原付バイクは各社から出ていますが、伸び悩んでいる。従来の原付と形は一緒で5万円ほど高いので、「エコです」だけで買ってくれるのかなと。

そこでUPQでは「もっと面白い形なら乗ってもらえるのでは」と考え、タンクがないことも活かし、半分に折り畳んで持ち運べる形にしました。クルマに乗せられるのでキャンプ場や旅行先にも持っていけて、玄関にも置けるので所有のハードルがぐっと下がる。12万7千円で、電動自転車より安いです。これは最終的に1000台つくってストップをかけましたが、ヒットになりました。

ぽっと出のベンチャーには、法律を変える力はありません。でも、それなら法律のなかで面白いものをつくればいいというマインドで世に問いかけてみる。すると、こうすればいいんだと皆が気付いてくれます。

前刀: これまで生産は主に海外の提携工場と作ってきたのを、これからは日本でというお話もしていましたね。

中澤: UPQを続けるなかで、日本の企業から「私たちも技術はあるけれど、どうしたらエンドユーザーに届くのかがわからない」「工場があるから使いませんか」「このブランドを再生してほしい」といった問い合わせを受けるようになりました。本業優先でお断りしてきたのですが、実は私が海外の工場とODMで一緒にやろうとしてきたことに通じるのかもしれないと、ふと気づいて。

たとえば中国は「世界の工場」と言われるほど、技術も品質管理能力もあります。海外から受託してものを作る人たちが多いのですが、私から見れば自社ブランドも充分やれるはず。だからUPQとの提携を通してそれを学んでもらえたら、という関係性でやってきたんです。でも考えてみたら、これって日本でやらなきゃと思ったんですね。そこで、これまでご連絡をいただいた方々に会いに行くなどして、何ができるか考えています。


製造業は楽しく、そして尊い

参加者2: お二人は、お客さんをどのようにイメージして、ものづくりに取り組んでいますか。私も製造業勤務で、社長がこれからは「ことづくり」の時代だと言っています。営業視点では理解できますが、技術者からみるとピンとこないところもあります。

永守: 日本電産にいたころ、価格競争に陥っていた工作機械のコントローラー部品について、どうやって勝てばいいのかと考えて、逆に従来の値段の10倍くらいする高級感のあるものを作ったら、大ヒットしたことがあります。工作機械って一億円くらいするのに、この部品だけ安っぽくては面白くないのでは?と思ったのです。そういうふうに、流行や競争とはちょっと違う部分を見ながらつくることは心がけています。

中澤: それを使う人にどう届けるかというのもすごく意識しています。開発者から販売店の人たちまで、みんなが腑に落ちるように考えてつくる。最初の企画書から一貫したコンセプトで製品が世に 出ていくと、やっぱり想い も届くので、そこはすごく大事にしています。今はメーカーや工場で働きたいという人が減っているように感じています。でも人が集まってものをつくるというのはすごい力なので、その魅力を感じてもらいたい。ですから、いろんなことをいろんな角度から見ながら、改めてものづくりに落とし込むということをやっています。

前刀: お二人に共通するのは「こうでなければいけない」という固定観念にとらわれず、自分のものづくりを考えていくことでしょうか。最後にひとことメッセージがあればお願いします。

中澤: 私はエンジニアの方などと仕事をするとき、ある種「くせもの」とご一緒したいと思っています。「なんでこんな機能が必要なわけ?」みたいなことを言ってくる人たちと一緒の方が、結果的にすごくよいものができる。だから自身も「くせもの」であれと考えています。自分を綺麗に見せようとせず、ずっと成長の過程だと思うので、日々、面白いと思えるものづくりに勤しむようにしています。人生は長いですし、ぜひ楽しんで仕事ができたらいいのかなと。

永守: 僕が常に言っているのは、製造業は“尊い”ということです。お金を在庫にお金を生んでいくような世界ではなく、いま在庫はこれだけあって、品質管理はこう行います、人材はこれだけ雇いますと、すごく広範なテクニックが必要な仕事です。その割には儲からないことも多いのですが、なぜそれでもやるかといえば、やはり“尊い”から。これについては製造業の世界にずっと身を置いてきた立場から、たとえ反対意見があっても言い切りたいです。

たとえば、ある分野に特化した技術者から、工場、事務、営業などあらゆる層の人を雇えるのは製造業しかありません。投資家だって、製造業が頑張らないと投資しようがありません。仮想通貨も、その背後にすごいコンピューターがあって、それをつくる製造業があるからこそできることです。その意味でも、製造業はもっと発展していくべき。ですからそういう、ふだん見えない部分を支えるものづくりの現場で頑張る人たちがいて、社会は動いているのだと皆さんにわかっていただけたら幸いです。(了)

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1人で家電メーカーを立ち上げた中澤氏、日本電産会長の次男でロボット「タピア」を手がける永守氏が登壇!日本の製造業が今後どのような価値を創造すれば良いのかを探ります。


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