記事・レポート
そうだ、どこか遠くに出かけよう!
書を片手に「本物」に出会う旅へ~ブックトークより
更新日 : 2018年03月13日
(火)
第1章 旅心をくすぐる本
私たちはときどき、ふと「どこか遠くに行きたい」と思うことがあります。日常生活に息が詰まりそうになったとき。何かに迷い、思い悩んだとき。あるいは、インターネットやSNSの情報ではなく、「本物」に出会うために……。本は‘リアル’ではなく、「遠くに行きたい」という思いを実際に叶えるものでもありません。しかし、それは常に私たちの心の内を含め、森羅万象を映し出しています。今回のブックトークでは、私たちの心を「遠く」へと誘う本を集めてみました。
<講師> 澁川雅俊(ライブラリー・フェロー)
※本文は、六本木ライブラリーのメンバーイベント『アペリティフ・ブックトーク第43回 そうだ、どこか遠くに出かけよう!』(2017年11月17日開催)のスピーチ原稿をもとに再構成しています。
いにしえの都に誘われて
澁川雅俊: 詩人・長田弘は「世界は一冊の本」という詩の中で、「本を読もう。もっと本を読もう。書かれた文字だけが本ではない。日の光、星の瞬き、鳥の声、川の音だって、本なのだ」と詩っています。バーチャルだけでなく、リアルにももっと目を向けようと言っているわけですが、それらが相俟ってこそ‘本当のこと’が見えてくると示唆しているのでしょう。
リアルにふれる旅といえば、「京都」を想起する人も多いでしょう。『「そうだ 京都、行こう。」の20年』〔ウェッジ・編〕は、過去20年にわたるJR東海のキャンペーンポスターをもとに、古都の四季折々の写真と、そこに添えられた印象的なメッセージを収録しています。標題のキャッチコピーは1993年秋に始まったTVCMでおなじみとなりましたが、「遠くに行きたい」という私たちの気持ちを代弁してくれているかのようです。
京都の‘るるぶ’(観る・食べる・遊ぶ)本は、世界で最も発行点数が多いと言われています。現在、書店で購入できるのは2,400点ほどあり、この1年で104点も出されています。インバウンドの高まりを受けてビジネスチャンスに富み、仕事で訪れる機会も多く、さらに‘るるぶ’の宝庫となれば、その数の多さも頷けます。
『京都12か月』〔淡交社編集局・編〕は、1月から12月までの分冊シリーズですが、旅行案内というよりも、歳時記の趣があります。当該月に楽しめる大小の祭りや催し、自然、芸術、旬の食などを詳しく解説しており、旅行者だけでなく京都人にも便利です。
旅の楽しみ方が多様化したせいか、雑誌不振の中でも旅行誌は隆盛です。例えば、伝統あるものづくり、デザイン、衣食住、景観など、日本各地の文化を紹介するムック誌『Discover Japan』〔エイ出版社〕は、しばしば旅関連の特集を組んでいます。2017年7月号『この夏、島へ行きたい理由』では、こだわり旅を願う人たちに、多くの絶景写真を添えて離島の魅力をたっぷりと伝えています。
‘旅に出ない’旅
澁川雅俊: 世界を旅する作家、ピコ・アイヤーは『平静の技法』〔朝日出版社〕の中で、こんな旅もあると語っています。「スピード重視の時代において、ゆっくり進むことほど人を活気づけるものはない。なにかと気が散りがちな時代において、物事に集中することほど贅沢に感じられるものはない。そして、絶え間ない移動の時代において、静かに佇むことほどたいせつなものはないのだ」。かくして著者は、自分を開放するために旅に出るのではなく、「どこにも行かない」という豊かな旅を発見します。静かに佇み、自らの内にあるものを咀嚼することの大切さを示唆しているのでしょう。
ユーモアあふれる旅エッセイを書く文筆家・宮田珠己は、『旅するように読んだ本』〔筑摩書房〕にこう綴っています。「この地球上には、実際に見てみないことにはわからないものごとがたくさんある。それらを、とりわけ昔のことどもを知るためには、まず本を読む以外に方法がない」。
本書には「墨瓦鑞泥加書誌」(墨瓦鑞泥加はメガラニカの当て字)との副題が付けられていますが、これは古代人が空想した南半球の大陸のこと。著者は飽くなき探求心から「未知の世界に出会いたい」「どこかにあるユートピアを求めて」「迷宮に入り込む」「大自然の謎に迫りたい」「自分だけの地図を描く」などの想いを込め、世界各地の文化・文明、歴史に関する本をがむしゃらに読み、それで何がわかったかをスノッブな筆致でまとめています。
私たちは、過去のものごとを直に見聞きすることはできません。例えば、日本の昔の旅について知りたいと思うのなら、『旅の民俗シリーズ』〔旅の文化研究所編/現代書館〕などを手に取るのが一番です。「生きる」「寿ぐ」「楽しむ」の3巻構成で、帯にはそれぞれ「人はなぜ旅人になるのか?」「旅人は私たちの心になにを刻むのか?」「人は旅をどう味わうのか?」とあり、さまざまな分野の第一人者のエッセイをもとに往時の旅のありようを解説しています。
『「旅ことば」の旅』〔中西進/ウェッジ〕は、ひと味違う‘旅に出ない’旅の本です。米寿を迎えた日本を代表する万葉学者が、旅に関連することば、旅を連想させる語句の中から慣用句や新語も含め88の「旅ことば」を選び、それぞれをテーマにエッセイを認めています。例えば、内田百閒の逸話をもとに「きつねの夜汽車」について書かれた項。
夏の夜更け、窓明かりをちらつかせながら暗い松林を走る夜汽車。その後を追うように、もう1つ、夜汽車が走り去る。その土地の人は「あれは、きつねが夜汽車の真似をしているのだ」と言う。なんとも幻想的な話です。本書では、美しい日本語と味わい深い文章を通して、さまざまな「旅ことば」を堪能することができます。
ユーモアあふれる旅エッセイを書く文筆家・宮田珠己は、『旅するように読んだ本』〔筑摩書房〕にこう綴っています。「この地球上には、実際に見てみないことにはわからないものごとがたくさんある。それらを、とりわけ昔のことどもを知るためには、まず本を読む以外に方法がない」。
本書には「墨瓦鑞泥加書誌」(墨瓦鑞泥加はメガラニカの当て字)との副題が付けられていますが、これは古代人が空想した南半球の大陸のこと。著者は飽くなき探求心から「未知の世界に出会いたい」「どこかにあるユートピアを求めて」「迷宮に入り込む」「大自然の謎に迫りたい」「自分だけの地図を描く」などの想いを込め、世界各地の文化・文明、歴史に関する本をがむしゃらに読み、それで何がわかったかをスノッブな筆致でまとめています。
私たちは、過去のものごとを直に見聞きすることはできません。例えば、日本の昔の旅について知りたいと思うのなら、『旅の民俗シリーズ』〔旅の文化研究所編/現代書館〕などを手に取るのが一番です。「生きる」「寿ぐ」「楽しむ」の3巻構成で、帯にはそれぞれ「人はなぜ旅人になるのか?」「旅人は私たちの心になにを刻むのか?」「人は旅をどう味わうのか?」とあり、さまざまな分野の第一人者のエッセイをもとに往時の旅のありようを解説しています。
『「旅ことば」の旅』〔中西進/ウェッジ〕は、ひと味違う‘旅に出ない’旅の本です。米寿を迎えた日本を代表する万葉学者が、旅に関連することば、旅を連想させる語句の中から慣用句や新語も含め88の「旅ことば」を選び、それぞれをテーマにエッセイを認めています。例えば、内田百閒の逸話をもとに「きつねの夜汽車」について書かれた項。
夏の夜更け、窓明かりをちらつかせながら暗い松林を走る夜汽車。その後を追うように、もう1つ、夜汽車が走り去る。その土地の人は「あれは、きつねが夜汽車の真似をしているのだ」と言う。なんとも幻想的な話です。本書では、美しい日本語と味わい深い文章を通して、さまざまな「旅ことば」を堪能することができます。
該当講座
アペリティフ・ブックトーク 第43回 そうだ、どこか遠くに出かけよう!
ライブラリーフェロー・澁川雅俊が、さまざまな本を取り上げ、世界を読み解く「アペリティフ・ブックトーク」。
今回は、さまざまな“旅”にまつわる本をテーマに、いまだ訪れたことのない遠い場所へとご案内。厳選した「旅本」を語り尽くします。
そうだ、どこか遠くに出かけよう! インデックス
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第1章 旅心をくすぐる本
2018年03月13日 (火)
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第2章 世界のリアル、ユートピアを求める旅
2018年03月13日 (火)
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第3章 トラヴェルライティングあれこれ
2018年03月13日 (火)
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第4章 心を浄める旅、または巡礼
2018年03月13日 (火)
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第5章 こだわりを起点に、過去・現在を旅する
2018年03月13日 (火)
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