オピニオン・記事

「安藤忠雄:挑戦」

~自らの人生を生きる~

更新日 : 2017年10月17日 (火)

【中編】言葉が通じずとも、想いは共有できる



想いを共有するチーム

安藤は「希望」という切り口で時代を語る。「1898年、パリ万国博覧会のモニュメントとしてエッフェル塔がつくられた時代、世界は希望に溢れていた」、「1960年代の日本は、貧しかったけれど元気だった」、「70年代、80年代もまだ夢をもって前を向いていた」と語り、「今は、多くの人がぼーっと生きているように感じる」と嘆く。

安藤の事務所には、世界の優れた建築家が設計した美術館の模型が並んでいる。「いつの日か、少しでも彼らに近づきたいという想いがあるからだ」。暗闇に射す一筋の光(希望)を追い、「世界のアンドー」となった今もなお、夢を追っている。

今から26年前、1991年頃からヨーロッパで仕事をしてきた。安藤は日本語しか話せない。しかし、「言葉は通じなくても想いは共有できる」と語る。ハーバード大学、イエール大学、コロンビア大学から客員教授に招聘されたとき、「英語は話せないよ」と言ったら、「それは問題ない。建築の心を教えてくれればいい」と言われたそうだ。

世界のどこであっても、「想いを共有できるチームがつくれれば、仕事はうまくいく」と言う。「味方をつくれ」とも。安藤はそうやって世界の人々とチームを組み、多くの仕事をしてきた。そして、人だけでなく、光、空、海、緑など、自然の要素も味方につけた。


世界との仕事で知る、日本の長所と短所



世界で仕事をしてきたからこそ、日本の良さも悪さもくっきりと見える。「日本の建築技術は間違いなく世界一だ」と、安藤はよく口にする。「施工精度、品質管理、スケジュール、すべてにおいて世界一。建築費も世界一だけれどね」(笑)。日本人は、春夏秋冬、美しい自然を愛でてきた。「だから、美に対する目も心も冴えているのだ」。
一方で、歴史的建造物を簡単に壊してしまう日本の風潮には憤りを感じている。ヨーロッパでは、ピノー財団総裁のフランソワ・ピノーと一緒に多くのプロジェクトを手掛けている。ベニスでは歴史的建造物を修復し美術館に再生した。こうした仕事を通じて、ヨーロッパの人々の歴史的建築物への誇りやこだわりを実感した。

大阪の中之島の公会堂を壊すと聞き、「こんな重要な歴史的建造物を潰してどうするんだ」と強く反対した。そして、既存の公会堂のなかに卵型の新たなホールをつくることを提案。それは、まるで鳥が卵を抱くように、あるいは老人が孫を抱くようにも見えるユニークなプランだ。この素晴らしいアイディアは実現しなかった。しかし、安藤はじっと温め、ベニスのプロジェクトで形を変えて実現させた。「夢を諦めない」、それが安藤の姿勢だ。

2度とできないことを1度はやれ

膵臓と脾臓を全摘した翌年、パリを訪れた。ピノーは安藤の元気な姿に驚き、ルーブル美術館とポンピドー美術館の間に位置する19世紀の建物(Bourse de Commerce du Paris)を美術館に再生する設計を依頼した。地下を掘って美術館にするという安藤の大胆な提案に、政府は「とんでもない」と反対した。「私は英語もフランス語もわからないので何を言われても平気。言葉ができないといいこともある」と笑う。

この建物の模型をいろいろな大学の学生を集めてつくらせた。期間は半年。極めてハードなスケジュールである。しかし、彼らはやり遂げた。「同じことを依頼しても、誰も乗ってこないだろう。しかし、二度とできないような挑戦を、若い頃に一度経験しておくことが大事なのだ」と言う。

誰も観たことのない風景をつくる

安藤の仕事は、既成概念への挑戦だ。誰もやったことがないこと、誰も観たことがないようなものを創り出す。北海道札幌市の「真駒内滝野霊園」。総面積54万坪という日本最大規模の霊園に、高さ13.5メートルの巨大な石の大仏がある。80代の2人のオーナーから「安藤さん、せっかくつくったのに、皆、大仏様を観てくれない。もっと有難い感じにするにはどうしたらいいか」と聞かれた。

安藤は「これは見せすぎだ」と思い、「埋めてしまえばいい」と提案。その場で、大仏の身体を地下空間に納め、頭だけが丘の上にぽっかり浮かんだスケッチを描いてみせた。1年半後、オーナーから「大分、工事が進んだ」と連絡がきた。「本気でやっていたのか!」と、びっくりしたという(笑)。

2016年7月17日、「頭大仏」が一般公開された。ラベンダーの咲く丘に設けた長い参道を抜けると、水庭の奥に地下通路がある。このトンネルを抜け、やっと大仏の足元に辿り着く。足元から仰ぎ見る大仏は、移りゆく空を背景に神々しく見える。

冬は、銀世界にぽっかりと頭大仏が浮かぶ。誰も観たことがないような非現実的な世界。安藤はここでも大自然を味方にした。この写真がネットで発信され、中国など海外からたくさんの人が見学にくるようになった。

感動。それが新世界への扉だ

安藤は言う。「私は今でも、これまでに観たことがないようなものを観たい。1日1回、週に数回、感動したい。夢を持った面白い人と話したい。なぜなら、感動したり、心を揺さぶられたりする体験のなかから、新しい世界や新しい発想が生まれるからだ」。

未知の世界にも躊躇なく飛び込んで行く。安藤は、東京大学で6年間教鞭をとった。「若い頃に大学に行けなかったので、この機会に行ってみようと思った」という。研究室のメンバーに学食で昼飯をおごったら、「安藤さんが飯をおごってくれるらしいぞ」という話が広がって、一番多いときは60人くらいの学生が昼飯時に集まってきた。

一人350円だから、60人分でもたいした出費ではない。彼らが「ワイワイガヤガヤ皆で飯を喰う、こんな楽しい経験は初めてだ」と言うのを聞いて、「先生も学生もこれまで何をしていたんだ」と驚いた。

「生きていれば、面白いことがいっぱいある。面白いことがいっぱいあれば、生きていける。美しい空がある、そして、その下には自分がいるのです」。安藤は生きていることを謳歌せよ、と語りかける。



該当講座


「安藤忠雄:挑戦」—自らの人生を生きる
「安藤忠雄:挑戦」—自らの人生を生きる

自由な発想で、難題に対峙してきた挑戦者、安藤忠雄。「建築には生命力がある」「失敗したら次に生かす」「自由と勇気でやり遂げる」と語る安藤氏が、次につくる「建築」はどのようなものなのでしょうか。米倉誠一郎教授をモデレータに、社会に対して建築を通して何ができるかを問い続ける安藤氏の軌跡と、未来に向かう覚悟に迫ります。


関連リンク


「安藤忠雄展—挑戦—」国立新美術館開館10周年
「安藤忠雄展—挑戦—」国立新美術館開館10周年

会期:2017年9月27日(水)~ 12月18日(月)
会場:国立新美術館


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