記事・レポート
「安藤忠雄:挑戦」
~自らの人生を生きる~
更新日 : 2017年10月17日
(火)
【前編】希望さえあれば、生きていける
建築家・安藤忠雄、76歳。2009年と2014年の2度にわたりガンを患い、大手術で5つの臓器を全摘した後も、世界を駆け巡り、設計、講演、社会活動を続けている。驚くべきパワーの源は何か。9月27日から国立新美術館で開かれる個展を前に、自らの人生と今の想い、これからの夢を語った。「青春とは人生のある時期を言うのではなく、心の持ち方である」(サミュエル・ウルマン)。これほど氏にぴったりな言葉はない。
開催日2017年08月21日 (月) 18:30~20:00
スピーカー:安藤忠雄(建築家)
モデレーター:米倉誠一郎(法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授/一橋大学イノベーション研究センター特任教授)
(文・太田三津子/撮影・御厨慎一郎)
気づきポイント
●どんな状況でも、希望さえあれば生きていける。
●夢を叶えるには、想いを共有できるチームと味方をつくること。
●感動せよ。感動体験こそ、新しい世界や発想への扉である。
●社会と深く関わり、自分のできることから実行しよう。
5つの臓器を全摘
「この年齢になると、人間、何があるかわかりません。でも、希望さえあれば、なんとかなるものだというお話をしようと思います」
600人の聴衆を前に、安藤忠雄は自身の病気について明るく語り出した。2009年7月。小澤征爾氏に「お互い才能はほどほどだけど、体力だけがとりえですね」と冷やかされ、笑いながら会食していた。ところがその翌月に、胆嚢と胆管と十二指腸の間にガンが見つかり、3つの臓器を全摘。同じ年、小澤氏も食道ガンを患うが、お互い何とか復帰した。
しかしさらに2014年6月、すい臓の真ん中にガンが見つかった。医者から「膵臓と脾臓を全摘しなければならない」と宣告された。普通なら絶望する状況にあって、安藤の脳裏に浮かんだのは、翌月1日に予定していたiPS細胞研究の山中伸弥氏との対談のことだった。
結局何事もなかったかのように山中氏と対談。その後のパーティーにも出て、翌日に12時間の手術を受けた。後からそれを知った山中氏に「どうして教えてくれなかったのか」と問われ、「先生に言っても治るわけじゃないし」と安藤。これにはノーベル賞学者も苦笑するしかない。
逆境を受け止め、逆手にとる
手術や入院は極秘だった。安藤は剛胆な反面、細やかな気配りをする人だ。見舞客が押し寄せれば、つい相手をして消耗してしまう。入院は20日に及んだが、吐き気も下痢も痛みもなく、奇跡の回復。医者が「ギネスブックものだ」と驚いた。
ちなみに、手術の前、「この上、膵臓まで全摘して生きていけるのか」と医者に聞いたという。「膵臓を全摘して生きている人は少しいるけれど、元気になった人はいない」と言われ、「それなら元気になってやる」と闘志が沸いた。「くよくよせずに前を向いていこう、希望は捨てないでいこうと思った」。
退院後は毎日食後1時間半の休養をとり、読書に充てている。「若い頃にはわからなかった安部公房や大江健三郎の本が、今は少しわかるようになった。どんな状況でも、希望を持っていれば面白いことやいいことがある」。
最近、中国から仕事の依頼が増えているそうだ。「安藤忠雄さんは5つも臓器がないのに元気に生きている。こんな縁起のいい建築家はいない」ということらしい。「縁起がいいからと仕事を頼まれたのは初めてだ」と、会場を笑いの渦に巻き込んだ。
本を読む豊かさを子どもたちに
本を読むことの豊かさを知った安藤は、「幼い頃から本に親しむ場をつくりたい」と思い、東日本大震災で被災した東北3県に子ども図書館をつくろうと提案している。被災地とは、震災遺児を10年間支援するために設立した「桃・柿育英会」の活動を通して関わり続けている。
「桃・柿育英会」は、安藤が呼びかけて設立したもの。毎月1万円ずつ10年間支援してくれる人を1万人集めようとスタートした。企業にも呼びかけた。積水ハウスや大和ハウスには「1戸売れたら1000円寄付してもらえないか」と頼んで快諾を得た。たかが1000円といっても年間1万戸以上売る企業だ。1万戸なら10年間で1億円になる。最終的に、当初目標より10億円多い46億円が集まる目途が立っている。
大阪市にも児童図書館を提案した。「建設費は出すが、運営資金がない」といわれた。「ならば、年間30万円を5年間支援してくれる企業を200社集めよう」と、安藤が率先して知り合いの企業に声をかけた。多くの企業が賛同してくれた。渋る企業には「賛同されなかったところもお名前を出すかもしれない…」と言うと、「いや、それは困る」(笑)。この児童図書館は2019年7月にオープンする。
該当講座
「安藤忠雄:挑戦」—自らの人生を生きる
自由な発想で、難題に対峙してきた挑戦者、安藤忠雄。「建築には生命力がある」「失敗したら次に生かす」「自由と勇気でやり遂げる」と語る安藤氏が、次につくる「建築」はどのようなものなのでしょうか。米倉誠一郎教授をモデレータに、社会に対して建築を通して何ができるかを問い続ける安藤氏の軌跡と、未来に向かう覚悟に迫ります。
「安藤忠雄:挑戦」 インデックス
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【前編】希望さえあれば、生きていける
2017年10月17日 (火)
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【中編】言葉が通じずとも、想いは共有できる
2017年10月17日 (火)
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【後編】社会と関わり、面白い人と付き合え
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