記事・レポート
六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第9回
人間にとってAIとは何か?
AI時代の未来を俯瞰する:羽生善治×石山洸
更新日 : 2017年05月16日
(火)
第5章 羽生善治が考えるAIの可能性

学びの地図
羽生善治: ITが進化し、現在は科学や法学を専門とする人など、様々な分野の方が優れた将棋ソフトをつくっています。そう考えると、今後は「理系と文系」といったカテゴライズが薄れ、科目や分野、業界や業種といったものを飛び越え、個人が色々な要素を取り込みながら活躍していく時代になっていくと思います。
もう1つは、膨大なデータとAIによって、あらゆる分野の特色・特徴が「マッピング」されていくとも思います。将棋のこの辺り、サッカーはこの辺りといったように、対象が持つ特色・特徴がマップ上に示され、「子どもが幅広い教養や能力を身につけるために、今の年齢ならこれとこれがいいよ」といったことが可視化されていくというか。
石山洸: まさに「学びの地図」ですね。「将棋が得意な子は、近くにある○○の分野でも実力が生かせるよ」とか、「あの仕事に就きたいのなら、○○を勉強しよう」とかがひと目で分かる。
羽生善治: 一方で、現代は情報やデータに簡単に触れられるため、「未知」に出会う機会が少なくなっています。その機会をなるべく増やし、「未知」に出会ったときの適応力・対応力を育てていくことも大切になります。とはいえ、あえて危険な場所に行く必要はなく、基本は安全第一。
石山洸: 「学びの地図」は、普遍的なものなのか、価値観や考え方によって変わるような流動的なものなのでしょうか?
羽生善治: 最初はビッグデータを使って普遍的なものから始まると思いますが、いずれは個人レベルまでカスタマイズされていくでしょう。一方で、AIが進化していく将来は「いかに多様性を維持するか」も重要になります。将棋で言えば、Aという手は勝率60%、Bという手は勝率40%となった場合、きれいに60人と40人に分かれるわけではなく、大多数の人はAを選ぶはず。それでは多様性はもちろん、新たなものを生み出す創造性も失われてしまうため、Bの40%をどう考えていくのか、という視点も無くしてはならないと思います。
AIが持つ包含力

石山洸: 羽生さんはご自身の中に、多様性や個性をキープするための思考を持たれているのだと思いますが、そうしたことも将棋から学んだのでしょうか?
羽生善治: 将棋の考え方を日常に取り入れると理屈っぽくなりすぎ、色々と問題が起こります。とはいえ、盤上のことは日常ともリンクしていますね。何かを決断をする際も、短期的にはこの手が安全だとしても、長期的にはリスクが高い、といったことが結構あります。AIを活用する場合も、どこまでアクセルを踏んでリスクを取り、どこでブレーキをかけるのかのバランスをとったり、新たなことを吸収したりと、適切にミックスしていくことがいいと思います。
ただし、これは世代や年齢にも関係する話ですよね。私はいま46歳ですが、無意識にブレーキを踏んでいることが増えています。逆に20代の頃は無意識にアクセルを踏み込んでいて、いま考えると冷や汗ものだったことがたくさんある。全てはバランスが大事なのかなと思います。
石山洸: AIの研究で議論される数多くの論点がいま、羽生さんから出てきて、さらに的確な回答まで付いている。おそらく、AIの研究者よりもAIの本質を理解されている。
羽生善治: 実は、ここ1年ほどAIに関して様々な方と対話しすぎて、自分でも「何をやっているのだろう?」と思うぐらいで。反省しております(笑)。
石山洸: なるほど(笑)。今後は分野や業界の垣根がなくなるというお話がありましたが、羽生さんが以前お会いされた、Google DeepMindのCEOデミス・ハサビス氏。幼い頃から天才的なチェスプレイヤーで、16歳でケンブリッジ大学に入ってコンピュータサイエンスを学んだ後、ゲームをつくる会社を起業、同大学の博士課程で認知神経科学を研究し、現在はAIの研究者として活躍しています。それを踏まえ、羽生さんの今後の進む方向をうかがいたいのですが。
羽生善治: ハサビスさんは多彩な経歴をお持ちですが、最終的にそれらをAIの世界で存分に生かしています。AIの世界は、どのようなジャンルからも参入でき、そのプラットフォーム上で様々な専門性が生かせる、という懐の深さが大きな魅力だと思います。
私自身のこれからは非常に難しい質問ですが、この先もずっとAI関係の場に出続けるのも違和感があるので、適当なところで消えていくはずです(笑)。ただ、ダイナミックに社会が変わり続ける時代を生きていることは、1つのチャンスと捉え、自分なりに様々なことに挑戦していけたらいいな、という気持ちはあります。
石山洸: 羽生さんによって新たな“一手”を打っていただければ、AIの世界もさらに盛り上がっていくと思います。
羽生善治: (笑)。お役所的な答えになってしまいますが、前向きに検討します。(了)
羽生善治: 将棋の考え方を日常に取り入れると理屈っぽくなりすぎ、色々と問題が起こります。とはいえ、盤上のことは日常ともリンクしていますね。何かを決断をする際も、短期的にはこの手が安全だとしても、長期的にはリスクが高い、といったことが結構あります。AIを活用する場合も、どこまでアクセルを踏んでリスクを取り、どこでブレーキをかけるのかのバランスをとったり、新たなことを吸収したりと、適切にミックスしていくことがいいと思います。
ただし、これは世代や年齢にも関係する話ですよね。私はいま46歳ですが、無意識にブレーキを踏んでいることが増えています。逆に20代の頃は無意識にアクセルを踏み込んでいて、いま考えると冷や汗ものだったことがたくさんある。全てはバランスが大事なのかなと思います。
石山洸: AIの研究で議論される数多くの論点がいま、羽生さんから出てきて、さらに的確な回答まで付いている。おそらく、AIの研究者よりもAIの本質を理解されている。
羽生善治: 実は、ここ1年ほどAIに関して様々な方と対話しすぎて、自分でも「何をやっているのだろう?」と思うぐらいで。反省しております(笑)。
石山洸: なるほど(笑)。今後は分野や業界の垣根がなくなるというお話がありましたが、羽生さんが以前お会いされた、Google DeepMindのCEOデミス・ハサビス氏。幼い頃から天才的なチェスプレイヤーで、16歳でケンブリッジ大学に入ってコンピュータサイエンスを学んだ後、ゲームをつくる会社を起業、同大学の博士課程で認知神経科学を研究し、現在はAIの研究者として活躍しています。それを踏まえ、羽生さんの今後の進む方向をうかがいたいのですが。
羽生善治: ハサビスさんは多彩な経歴をお持ちですが、最終的にそれらをAIの世界で存分に生かしています。AIの世界は、どのようなジャンルからも参入でき、そのプラットフォーム上で様々な専門性が生かせる、という懐の深さが大きな魅力だと思います。
私自身のこれからは非常に難しい質問ですが、この先もずっとAI関係の場に出続けるのも違和感があるので、適当なところで消えていくはずです(笑)。ただ、ダイナミックに社会が変わり続ける時代を生きていることは、1つのチャンスと捉え、自分なりに様々なことに挑戦していけたらいいな、という気持ちはあります。
石山洸: 羽生さんによって新たな“一手”を打っていただければ、AIの世界もさらに盛り上がっていくと思います。
羽生善治: (笑)。お役所的な答えになってしまいますが、前向きに検討します。(了)
該当講座

六本木アートカレッジ 「人間にとってAIとは何か?」
羽生善治(将棋棋士)×石山洸(Recruit Institute of Technology推進室室長)
昨年、コンピュータ囲碁プログラムのアルファ碁が人間のプロ囲碁棋士を初めて破ったことで話題になったAI。2045年にはAIの人間の能力を超える出来事、シンギュラリティ(技術的特異点)が起きるという予測もあります。AIが人間を超えるとはどういう意味なのでしょうか? 研究者である石山洸氏、そして既に競合相手としてAIと戦っている羽生善治氏に「AIとは何か?」を語っていただきます。
六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第9回
人間にとってAIとは何か?
インデックス
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第1章 人間の発想×AIの発想で新たな価値創造を
2017年05月16日 (火)
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第2章 リアルとバーチャルをつなぐAI
2017年05月16日 (火)
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第3章 AIは人類にリスクをもたらすのか?
2017年05月16日 (火)
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第4章 AI時代に変えていくもの、変えないもの
2017年05月16日 (火)
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第5章 羽生善治が考えるAIの可能性
2017年05月16日 (火)
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