記事・レポート

六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第3回
伝統を未来へどう伝えるか

本質を見極め、リアルを伝える/丸若裕俊×高橋俊宏

更新日 : 2016年10月19日 (水)

【後編】東京オリンピックで日本茶を

丸若裕俊(株式会社丸若屋代表取締役 / クリエイティブディレクター)

伝統の“リアル”を伝える

丸若裕俊: 日本の伝統文化は、知れば知るほど奥が深い。それだけに、魅力を伝えるのは本当に難しいと感じています。さらに、現代を生きる人達は、リアリティのないものには興味を示さなくなりつつあります。

高橋俊宏: 作為的なものは簡単に見抜かれてしまう。それは私も強く感じます。

丸若裕俊: ならば、リアルとは何なのか。例えば、陶磁器の職人さんは朝早く起きて仕事を始め、夕方には作業を終えます。それ以外の時間は何をしているのかといえば、実は皆さんと同じ。ご飯を食べ、趣味を楽しみ、車に乗って買い物をする。我々と同じ時間を同じように生き、現代の感覚も持ち合わせています。

そんな現代人である職人さんが、数百年前の先達と同じように自然や四季の移ろいを大切にしつつ、昔ながらの手法でものをつくっている。よく考えれば、これはとてもすごいことですよね。それをどのように伝え、リアリティを感じてもらえる形に落とし込むのか。

高橋俊宏: 僕達も今、連載企画として「極意の言葉」を採集しています。伝統工芸や伝統芸能の世界には、代々受け継がれてきた「言葉」があり、それを私達の人生や生活に活かせないかと思ったのがきっかけです。先日は佐賀県唐津の陶芸家、14代中里太郎右衛門さんを取材しました。12代中里太郎右衛門(中里無庵)さんは人間国宝という名窯ですが、そこに「作り手八分、使い手二分」という言葉があります。

唐津焼の器は、窯から出した時点ではまだ八分の完成度。使い手によって育てられることで、残り二分の余白が埋まり、完成するというのです。360年前に生まれた唐津焼で、ユーザー参加型のオープンイノベーションが行われていたわけです。「用の美」と言われるように、唐津焼の器は使われることで美しくなる。大切に使われてきた器は、作り手の想像を超えるほど美しくなるそうです。

丸若裕俊: そうしたものが醸し出す呼吸、あるいは作り手の呼吸を伝えるのは本当に難しい。リアルをそのまま出すのも良くないし、フィクションが強いと伝わらなくなる。

高橋俊宏: ものの背景にある要素までしっかり理解した上で伝えなければ、本当の価値を理解してもらうことはできません。

丸若裕俊: たしかにハードウェアとしての美しさも重要ですが、人々が伝統工芸品を買う本当の理由は、無意識ながらもその内に秘められているソフトウェアを求めているからだと思います。それは作り手の思いや愛情、歴史や文化といったもの。優れた伝統工芸品には、長い時間をかけて育まれてきた様々な情報が入っている。だからこそ、時を超えて人を魅了するものになるのだと思います。

本当に良いものは、パソコンにUSBメモリを差した時のように、それに触れた瞬間、何かが自分の中にブワーッと入り込み、ワクワクしたり、嬉しくなったりする。それを感じるためには、ものに触れる僕達自身も日頃から感性を磨いていなければなりませんね。



日本のお茶、最前線

高橋俊宏: 今回の対談について事前に打合せをしたのは、ちょうどゴールデンウィーク前でしたが、その際、丸若さんが「今度のGWはお茶畑に修業に行く」とおっしゃったので、とても驚きました。実は同じ頃、僕達も「お茶」の特集記事をつくっていたので、取材をさせていただいて。

丸若裕俊: ここ数年、僕は旅先などに携帯できる茶缶など茶道具の制作に取り組んでいましたが、ある日、茶道具をつくる僕自身、お茶についてほとんど知らないことに気づいてしまって。そこでお茶づくりの現場を知るために、各地を訪れる中で佐賀県嬉野の茶師・松尾俊一さんを訪ねたところ、たちまちその魅力にはまってしまったわけです。今では松尾さんと一緒に茶畑で作業しながら、オリジナルの生育やブレンド茶の販売も始め、人生を賭けてお茶に関わっていけたらと考えています。

高橋俊宏: 茶器をつくるのなら、まずはお茶づくりから学ばなければならないと。まさに原点回帰ですね。丸若さんの修業の様子は、『Discover Japan』2016年7月号でもご紹介しています。
丸若裕俊: 松尾さんは僕と同世代で、元々は言語聴覚士として働かれていましたが、6代目を継ぐため、数年前に実家の茶農家に戻られました。詳細は『Discover Japan』に譲りますが、とにかく松尾さんは、尋常ではないほどお茶づくりにかける思いが強い。例えば、思い通りの風味を出すために、3年間で1万杯以上のお茶を飲んで研究を重ねたそうで、優れた生産者であるのと同時に、天才的なブレンダーでもあります。

松尾さんは、お茶づくりを始めてからわずか2年で国内最高峰の農林水産大臣賞を受賞するお茶をつくり、現在もその土地特有の風味を茶葉に反映させる「テロワール(Terroir)」を信条としながら、お茶の新たな魅力を開拓するべく精進されています。



高橋俊宏: 何よりも、松尾さんは心から仕事を楽しまれていますし、手塩にかけて育てたお茶に対して圧倒的な愛がある。お茶の味はもちろん、言葉の端々からもそれが伝わってきます。

丸若裕俊: 先日も、自分が育てたお茶を「僕の子ども」と表現されていました。「できのいい時もあれば、悪い時もある。できの悪い時のほうがなぜか嬉しくなる」と話されていたのがとても印象的で、僕も松尾さんの思いに負けない道具をつくらねばと思いました。

高橋俊宏: お茶は今、海外で非常に注目されていますよね。例えば、ミラノにあるブルガリ・ホテルでは、奈良県月ヶ瀬にある「ティーファーム井ノ倉」の緑茶が提供されています。海外からその魅力が逆輸入される形で、最近は日本でもお茶が再注目されています。

こうした流れの先に、例えば東京オリンピックに出場する日本選手が、丸若屋が手掛けたお茶を飲むといったことが起こるかもしれませんね。試合前にお茶を飲む姿がテレビに映し出され、各国のレポーターが「日本の選手達はお茶を飲んで心を落ちつかせています」と実況を入れたり(笑)。

丸若裕俊: それで最高の成績を収めることができれば、海外の人達もさぞかし驚くでしょうね。「さすが、日本はひと味違うな」と(笑)。

高橋俊宏: オリンピックをきっかけに、日本のお茶が世界に伝わっていくかもしれない。

丸若裕俊: そのような形で日本の伝統文化が伝えられたら、本当に嬉しいですよね。(了)



該当講座


六本木アートカレッジ 伝統を未来へどう伝えるか
六本木アートカレッジ 伝統を未来へどう伝えるか

丸若裕俊(㈱丸若屋 代表取締役)×高橋俊宏(Discover Japan プロデューサー)による対談。
変わりゆく時代の中で、それぞれのライフスタイルにどのように溶け込ませ、日本の伝統文化を後世へ伝えていくべきでしょうか。伝統工芸から最先端の工業技術まで今ある姿に現代のエッセンスを取り入れて蘇らせる株式会社丸若屋 代表取締役の丸若裕氏とDiscover Japanの高橋氏とともに、伝統を伝える意味と未来のライフスタイルについて議論をすすめたいと思います。


六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第3回
伝統を未来へどう伝えるか
 インデックス