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国連(UNHCR)が挑む難民支援の仕事

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更新日 : 2015年07月15日 (水)

第3章 「アラブの春」により増え続ける難民


 
難民キャンプの生活

守屋由紀: 世界では様々な人が、様々な理由により難民となっています。しかし、誰ひとり、自分から望んで難民になった人はいません。故郷で起きた問題が解決しなければ、自分の家や自分の国に帰ることはできず、時にはその期間が10年、20年にも及ぶことすらあります。さらに、帰る家そのものがない、助けてくれる両親やきょうだいもいない、という人もたくさんいます。

現在、最も難民が多い地域は、アフリカでもヨーロッパでもなく、実は、私達が暮らすアジアです。アフガニスタンやパキスタンなど紛争が長く続いている国では、いまこの瞬間も難民が生まれています。特にここ数年、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)にとって、最も難しい支援の現場となっているのがシリアです。

もともと、シリアは国民の教育水準が高く、治安も良い国でした。また、数千年前から様々な文化の交差点として栄えてきた場所であり、貴重な文化遺産がたくさんあります。さらに、長きにわたり、隣国イラクからの難民を受け入れてきた国でもあります。そのようなシリアの人達がいま、難民となっているのです。
2010年末、北アフリカから中東地域にかけて、自由と民主化を求める運動が起こりました。いわゆる「アラブの春」と呼ばれるこの運動はシリアにも到来し、多くのシリア国民が「政府のやり方を変えよう」と叫びながら、デモ活動を行いました。すると、政府はこうした人達を捕まえ、さらに銃や戦車まで向けたため、怒った人達は武器を手に取り、対抗しました。こうした争いに、普通に暮らしていた多くの人が巻き込まれてしまったのです。ちょうど2011年3月、日本では東日本大震災が起こった時期のことです。

シリアから周辺のヨルダン、レバノン、トルコ、イラク、エジプトなどに逃れた難民は290万人、シリア国内にも、650万人の国内避難民がいます(2014年8月当時)。シリアの総人口は約2,200万人ですが、そのうち4割近くが難民となってしまったのです。いまや世界第2位の規模を持つ難民キャンプとなったヨルダンのザータリ難民キャンプでは、約8万人のシリア難民が、プレハブの仮設住宅やテントなどで暮らしています。砂漠の真ん中にあり、夏には50度近くにまで達する一方、冬は雪が降るほど寒暖差が激しく、生活するには非常に厳しい場所です。

難民キャンプでの避難生活は、すべてが不自由です。教育施設はかろうじてありますが、先生の数、教科書、鉛筆やノートも足りません。それだけでなく、あらゆる物資が不足しており、増え続ける難民を前に、支援もままならない状態が続いています。そのため、不安な気持ちが募り、体調を崩したり、病気になったりする人もたくさんいます。

このようにお話しすると、「難民キャンプがあるのは、街から遠く離れた場所」というイメージを持たれるかもしれません。実は、都市部にも難民はいます。日本でも、東京や大阪といった街に難民の人達は暮らしており、他の国でも同様です。都市に暮らす難民は、周囲の人と言葉が通じないケースも多く、学校に行けなかったり、仕事に就けなかったり、医療を受けられなかったりします。UNHCRは、こうした人達に対しても政府や民間のNGO(Non-Governmental Organizations/非政府組織)などと協力しながら、少しでも状況を改善できるよう支援しています。


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