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DNAから読み解く生命の不思議

アカデミーヒルズ サマースクール 夢中になれることを見つけよう

更新日 : 2015年07月01日 (水)

第4章 生命の謎を解き明かす「冒険旅行」に出よう


 
DNAを調べて分かること

佐々木浩: 人間の体内では、1日に1,000~5,000個のガン細胞が生まれています。これは、DNAの一部が壊れることで生まれるものですが、普段は身体を守る免疫システムが働き、ガン細胞は排除されています。しかし、そのシステムをかいくぐって生き残るものもあり、これが病気を引き起こす原因となるのです。最近はDNAを調べることで、ガンの原因や仕組みも少しずつ明らかになり始めており、DNAのどの部分を治してあげればいいのか、ということも分かりつつあります。

DNAを調べて分かることは、他にもたくさんあります。例えば、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワーは、元をたどれば、すべて同じ種類の植物。DNAを調べると、ほとんど違いが見られないのです。キャベツの遺伝子が2つ壊れてしまうだけで、ブロッコリーやカリフラワーになります。

あるいは、パンダ、クマ、アライグマ、レッサーパンダ。この中で、パンダはその大きさがクマに似ていますが、目の周りだけを見ると、アライグマにも似ている。でも、レッサーパンダには、パンダという名前が入っていますよね。実は、昔の生物学者はパンダとレッサーパンダがよく似ているからと、同じ名前をつけたそうです。しかし、DNAを調べると、実はパンダはクマにとても似ており、レッサーパンダとはそれほど似ていない。また、アライグマだけは、どれにも似ていなかった。DNAを調べると、どのように動物が生まれ、進化してきたのか、どの動物同士が似ているのかといったことも分かります。


未来を変えるDNAの研究

佐々木浩: ここに、ある親子の写真があります。お父さんは元遺伝学者で、現在は実業家、娘さんは2003年に生まれました。娘さんが生まれた時、お父さんは身体の特徴を見て、何かの病気ではないかと思いました。ところが、病院で調べてもよく分からなかった。普通の人であれば、そこで諦めてしまうはずですが、このお父さんは違いました。娘さんのDNAを徹底的に調べることにしたのです。2009年になり、娘さんの持つある遺伝子がおかしいことに気がつき、2013年には病気の原因について論文で報告しました。そして、現在はこの病気を治すための方法を調べているそうです。

これまで私達は、お医者さんから「治せない病気です」「病気かどうかよく分かりません」などと言われると、ただ不安になるしかありませんでした。しかし、これからの時代は、自分のDNAを調べることで、病気の原因や治す方法を見つけ出せるかもしれない。あるいは、DNAを調べることで、病気になる前に予防することができるようになるかもしれない。そんな時代が、すぐそこまでやってきています。

さらに、色々な種類の細胞に変化する「iPS細胞」により、病気や事故で失った身体の一部、骨や血液、皮膚、筋肉などを再生する。そうしたことを実現するための研究も進められています。世界中で行われているDNAの研究には、皆さんの未来を変えていく大きな可能性が秘められているわけです。

とはいえ、DNAの研究はまだ始まったばかり。解き明かされていない生命の謎は、たくさん残されています。生物学とは、そうした生命の謎を解き明かしていく「冒険旅行」のようなものだと思います。僕は1つでも多く、その謎を解き明かしたいと考えており、現在はそのために必要となる道具作りにも取り組んでいます。それができれば、もっと多くのことが解明できるはずです。

最後に、皆さんの中から「冒険旅行に行きたい!」という人が現れてくれることを願いながら、この特別授業を終わりたいと思います。(了)


気づきポイント

●地球上には約870万種類の生き物がいると言われるが、その9割は未発見。
●DNA→RNA→タンパク質。それが生き物に共通する「セントラルドグマ」。
●数多く残されている生き物の謎を解き明かすこと。それが我々の未来を変える一歩になる。

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