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テクノロジーとアートの融合が拓くクリエーションの未来

真鍋大度×徳井直生が語るメディアアートとスタートアップ

更新日 : 2014年09月19日 (金)

第9章 アイデアで勝負する時代が到来した


 
オープンソースとビジネスの関係

徳井直生: メディアアートを取り巻く世界は、この10年ほどで考え方や環境が大きく変わりました。オープンソースもたくさんアップされており、従来は複雑で時間のかかった作業も、簡単にできるようになっています。

真鍋大度: さらに言えば、そうしたものを容易に見つけ出すこともできます。たとえば、GitHub(ギットハブ)というソーシャルコーディングサービスでは、世界中のエンジニアが制作した膨大な数のソースコードがアップされています。

徳井直生: シリコンバレーでも、GitHubにアップされているソースコードがプログラマーの名刺代わりになっています。「○○をアップしているから、それを見れば僕のスキルがわかるよ」といった具合です。

真鍋大度: ここ数年で、本当に多くのものが可視化されたと感じます。そのため、ソフトウェアのプログラマーが、プロジェクトに対してどのように貢献しているのかもわかりやすくなり、スポットライトが当たるようになりました。

僕の場合も、電気刺激で表情を動かすシステムは、基本的にすべてのソースコードなどを公開しています。「公開するなら、ビジネスを起こしたら?」と言われることもありますが、ネット上を流れる「共有・共創」の雰囲気からすれば、ビジネスにするのはどうかな……とも思います。そのあたり、シリコンバレーではどのように考えていますか?

徳井直生: 向こうでは、ソースコードの中身ではなく、それを活用していかに新しいビジネスを打ち出しているのか、に視点が置かれています。メディアアーティストも同じだと思います。公開しているツールがコアコンピタンスになるのではなく、その上位にある自分なりのアイデアで勝負している。大切なのは、オープンなものを使いながら、どのように他者との違いを生み出していくのかです。

真鍋大度: 僕も、公開しているソースコードを使い、誰かに同じようなことをやられても、ダメージを受けることはない。誰かが真似をしている時点で、すでに僕はもっと先に進んでいるから。

もう1つ、オープンソースが増えたことで、最近はある種の弊害が生まれているようにも感じます。皆がこぞって同じようなコードを使うため、類似する作品が増えている。反対に、突拍子もない作品は減っています。10年前は、ほかの人がどのようなコードを使い制作しているのか、ほとんどわかりませんでした。だから、自分なりに試行錯誤し、突拍子もない作品が生まれることもあった。現在は、誰がどのようなコードを使っているのかまでわかるため、隣の芝生の様子を気にしすぎる人が多くなっているように感じます。

徳井直生: ネットを検索すれば、自分の欲しいツールがすぐに見つかります。さらに、使い方も簡便化され、誰でも少し勉強すれば、それなりの作品をつくれるようになっている。その反面、ツールに踊らされてしまい、その範囲でできる程度の面白味のない作品しか生まれてこない、といった危うさも出てきていると思います。

真鍋大度: むしろ僕は、様々なことが簡単で便利になったからこそ、純粋にアイデアで勝負できる時代がやって来た、と捉えています。

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SWITCH presents メディアアートとスタートアップ

音楽、アート、映像といったエンタテインメントの世界を、さまざまな分野のテクノロジーを導入して変化させるディレクションで注目されるRhizomatiks真鍋大度とメディアアートを軸に米シリコンバレーにあるシードアクセラレーター500 Startupsでアプリの開発を行うなどスタートアップ業界にも進出するQosmo徳井直生。
2人の対話から、近未来へのネクストステップが見えてくるはず。