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白木夏子、安藤美冬 ーー 多様性の先に見えた新しい起業のカタチ

更新日 : 2013年07月05日 (金)

第5章 働き方の多様性と起業率の関係

白木夏子(HASUNA Co.,Ltd.代表取締役・チーフデザイナー)

 
日本には起業の定義がない


安藤美冬: 現在の日本には働き方の多様性がない、と言われています。例えば、日本の起業率は先進国の中で最低です。反対に起業率が高い国は発展途上国が多くなっています。

白木夏子: 発展途上国では、個人商店などのスモールビジネス、マイクロビジネスがとても盛んですよね。誰もが気軽にビジネスを始められる環境があります。

安藤美冬: 日本における起業のイメージは漠然としていて、はっきりとした定義もありません。一般的に日本人の“起業家”のイメージは、あふれんばかりの情熱と天才的なアイデアを駆使してゼロから会社を興し、たくさんの雇用を生み出す大企業に成長させ、社会にイノベーションを巻き起こす。

白木夏子: 確かにそう思います。これではあまりにもハードルが高すぎて、起業するにも躊躇してしまいます(笑)。

安藤美冬: 1970年代前半には脱サラブーム、1980年代からバブル崩壊前までは転職ブーム、1990年代はフリーターブームがあり、現在はノマドワークが注目を集めています。その一方で、企業に所属する人の割合は7~8割という状態が長く続いています。組織で働くことを否定するわけではありませんが、少なくとも働き方の多様性はうかがえません。戦前の日本は基本的に農業国でしたが、その中にはマイクロビジネスがたくさんあり、兼業も当たり前だったと思うのです。

白木夏子: 働き方の多様性という意味では、私の父方の祖父が多様性を地で行く人でした。人生の後半は小さな薬局を営んでいましたが、趣味だった能を究めて自宅で教室を開いたり、催眠術を学んで好き嫌いの多い子どもを治したり。海外経験も長くて、ロシア語や中国語が話せるなど、本当にユニークな人でした。いつも地球儀型のオルゴールを鳴らしながら、色々な国の話を教えてくれましたね。

安藤美冬: 私の母方の祖父も、山形で小さな建設会社を経営していましたが、夏子さんのおじいさまと同じく、複数の仕事を同時に手がける「パラレルキャリア」を地で行く人でした。地元の山に「空気神社」を建立したり、ダチョウビジネスを始めたりと突然何かを始めるので、いつも驚かされてばかりでした(笑)。

白木夏子: こうした人の特徴は、何かを始めるときにリスクを恐れないこと。たとえ失敗しても、すぐに別のことを始めて、どうにか生き抜いていこうとする気概を持っている。祖父の影響なのか、私も「失敗したらどうしよう」という発想があまり出てきません。昔の日本には、私たちの祖父のような人がたくさんいましたが、いつの頃からか保守的な人が増えてきた。それが働き方の多様性の少なさや、起業する人の少なさにも影響しているのではないでしょうか。