記事・レポート

自分らしく輝く

白木夏子、安藤美冬 ーー 多様性の先に見えた新しい起業のカタチ

更新日 : 2013年07月01日 (月)

第3章 キャリアは自分らしく描いていくもの

安藤美冬(株式会社スプリー代表)
安藤美冬(株式会社スプリー代表)

 
「自分メディア」の編集長として

安藤美冬: 「働き方」は本来、多様なものです。企業や団体に所属する。個人で起業する。企業の中でプロジェクトを起こして社内起業する。ピーター・ドラッカーが提唱しているように、並行して複数の仕事を行う「パラレルキャリア」もあります。その中で私は、起業という形を選びました。

私のキャリアは出版社の広告営業から始まり、入社4年目に宣伝部に移り、現在の仕事の核であるPRや出版の仕事を学びました。そして、入社7年目の2010年9月に退社。退社した理由は、仕事を通して自分の可能性を切り拓いていきたかったから。これからは1つの肩書きにも、1つの専門領域にもとらわれず、人との関係性の中から複数の収入源、複数の仕事をつくりだしていく時代だと感じたからです。リストラ、失業、少子高齢化……。私たちを取り巻く「右肩下がり」の状況を、ただ不安を感じてやり過ごすのではなく、手足を動かして、クリエイティブに生き抜く働き方を模索したかったのです。

現在のワークスタイルに行き着いたきっかけのひとつは2010年1月、雑誌でツイッターの特集を見て直感したことです。「これからは“自分メディア”の編集長として、個人が情報を発信し、世の中を大きく動かしていく時代になる」と。

ブログやツイッター、フェイスブックなどソーシャルメディアを通じて社会との接点を持ちながら、自分を「キーワード化」することで強みや独自性、持ち味を打ち出して、仕事をつくり出していく。自分のビジョンや提供できるスキルを社会に投げかけ、クライアントに仕事の領域を決めてもらうという、ある意味では従来の常識をひっくり返したようなキャリアデザインを描いていこうと。そして退社してから3カ月目の2011年1月にスプリー(spree/主体的に楽しむという意)という屋号でフリーランスとして活動をはじめ、半年後には株式会社化しました。

シェアで人生とキャリアを豊かにする

安藤美冬: 起業後は前職の経験から、書籍のPR業務からスタートしました。幸いなことに、コツコツと発信を続けていたtwitterのつぶやきを見ていた(面識のない)編集者さんから、「新刊のPRをお願いしたい」と連絡をいただいたことがきっかけです。それから、大手ディベロッパーが母体の学校から講座の企画運営のお仕事をいただくなど、少しずつ実績が増えていきました。

このように言うと、独立当初から順調だったように感じられるかもしれませんが、実際はまったく逆でした。退職してから約半年間は無収入で、そもそも「何者なのか分からない」「肩書は決めたほうがいい」と色々な人に指摘され、自分で決めたワークスタイルが揺らぐこともしばしば。ほんの2年程前なのですが、あの頃は本当に苦しかったです。

現在は出版やPRという前職の仕事にもとらわれずに、当初の思い通りに様々な案件を任せていただけるようになりました。お仕事カバンなど商品企画をさせていただいたり、スマホ向け放送局の番組のレギュラーMCを務めたり、社会人にセルフブランディングと発信のノウハウを教える私塾を開講したり。1つひとつは小さな仕事かもしれませんが、複数より集まることで1つの仕事や収入に頼りすぎずに働ける。人とのつながりが、思いがけない仕事をつくる。先行きの見えない時代においては複数の収入源や人脈は大きなリスクヘッジになりますし、より自分らしい働き方だと思います。

私が大切にしているのは、自分自身の経験談や失敗談を語ることです。自分の働き方をどのようにデザインし、人生を豊かなものにしていくのか。あくまでひとりの実践者としての視点から語り続けることで、現在の社会に働き方やキャリアデザインの多様性を提供できればと思っています。

もう1つ、「シェア」もキーワードとして発信しています。オフィスなど固定的なものを抱え込まず、常に身軽でシンプルに働く。あるいは、SNSなどを通じて自らの経験をシェアする。それが自分の成長につながり、人生をより豊かにしていくコツだと考えています。