記事・レポート
鹿島茂の「近代文学を創り上げた編集力」
~あなたは文学をここまで読み解けますか?
更新日 : 2009年12月10日
(木)
第3章 編集者ジラルダンのアイディアは今でも有効
鹿島茂: 同時代には、自己表現として文学を選ばなかった人間もたくさんいます。その1人に、エミール・ド・ジラルダン(1806~1881)がいます。この人はジャン=ジャック・ルソーを保護したことで知られるジラルダン公爵の非嫡出子です。ゼロからの出発で最初に自分の自伝を書き、それなりに評判になりました。しかしジラルダンは自分の才能を見限るのが非常に早く、「才能のあるやつに書かせて、俺はその編集者に回ろう」と考えました。
『新聞王ジラルダン』という本に書きましたが、彼がまず考えたことは「資本金ゼロから新聞や雑誌を立ち上げよう」ということです。「新聞をこれから出すので、予約購読者を募ります。年間購読料の全額、あるいは半額を払い込んでください」というシステムですが、これはほとんど株式会社です。
そして立ち上げたのが『Le Voleur』という新聞です。それまでの新聞はすべて政治新聞で、各党派の主張がそれぞれあって、雑報というのは添え物でした。ところがジラルダンは分析して、主義主張よりも雑報の方が読まれていると気づき、「ならば雑報だけの新聞をつくってしまえ」と考えたのです。しかも頭がいいことに、当時はコピーライトという考え方はありませんから、全部の新聞から雑報を選んでつくったのです。それが『Le Voleur』、すなわち“泥棒”というタイトルの新聞です。
これがばか売れすると、今度はファッション新聞『Mode』をつくります。読者を上流階級の女性に限定したような新聞をつくったのですが、これもばか売れしました。そうしてまたノウハウを鍛えて、いまに続く革命的な仕組みを考えました。政治新聞は高くても買う人がいますが、値段を半分に下げた政治色のない新聞をつくったのです。彼が天才だったのは、最後の面を全部広告にしたのです。
インターネットの時代に続くさまざまなシステムはジラルダンが考えたのです。ジラルダンは、さまざまなアイディアを「1日1アイディア」といって残していますが、驚くべき予見性で、ほとんどが実現されています。
そのジラルダンが拠った考え方というのが「サン=シモン主義」といって、サン=シモン伯爵(1760~1825)が考え出した経済思想です。
サン=シモンはマルクスが空想社会主義者と呼んだために誤解されているのですが、僕なりに解釈するならば、サン=シモン主義は外部注入型の高度資本主義です。つまり、全く地盤がないところに、いきなり上からシステム的に資本主義をつくってしまおうという考え方です。この世のすべてはサーキュレーションで、モノ・人・金が動くことによってしか富は生み出されない、動いていれば富は出てくる。ならば動くようなシステムをつくってしまえと考えて、彼が最初に言及したのが銀行です。
それまでのロスチャイルド型の銀行というのは、金持ちからお金を預かって外国の債券に投資するという今日のファンドで、金持ちの金をより増やすというものでした。サン=シモン主義は、完全なベンチャーキャピタルです。有望な産業を育成するためにお金を投資する、そのためにまず銀行をつくり、それから直接金融として株式会社をつくるわけです。個人が持っていた小さなお金、死んでいたお金が株式会社という形で集まって大きくなり、それが投資されることによってフローに入って行く。株式会社こそ、世界を動かす原理です。
もう1つ重要なのは、鉄道です。消費地点と生産地点が結ばれなければ消費は生まれません。モノは動かなければ富を生まないのです。しかし、モノを買ってもらうには幻影が必要です。そこで彼が考えたのが、万国博覧会というシステムでした。万国博覧会というのはモノを見せるのですが、どういうわけか人は見せられた商品に、まるで絵画や美術品を見たときのように、1つの物神性、フェティッシュを感じます。そこにさらにコンペティションという概念を導入して、付加価値を加えたのです。
五輪のメダルというのは、実は万国博覧会のまねをしたものです。メダルがあると一所懸命頑張りますし、メダルを得たら宣伝に使えるということで世界中から商品が集まってくるわけです。万国博覧会というのは商品の五輪だったのです。
『新聞王ジラルダン』という本に書きましたが、彼がまず考えたことは「資本金ゼロから新聞や雑誌を立ち上げよう」ということです。「新聞をこれから出すので、予約購読者を募ります。年間購読料の全額、あるいは半額を払い込んでください」というシステムですが、これはほとんど株式会社です。
そして立ち上げたのが『Le Voleur』という新聞です。それまでの新聞はすべて政治新聞で、各党派の主張がそれぞれあって、雑報というのは添え物でした。ところがジラルダンは分析して、主義主張よりも雑報の方が読まれていると気づき、「ならば雑報だけの新聞をつくってしまえ」と考えたのです。しかも頭がいいことに、当時はコピーライトという考え方はありませんから、全部の新聞から雑報を選んでつくったのです。それが『Le Voleur』、すなわち“泥棒”というタイトルの新聞です。
これがばか売れすると、今度はファッション新聞『Mode』をつくります。読者を上流階級の女性に限定したような新聞をつくったのですが、これもばか売れしました。そうしてまたノウハウを鍛えて、いまに続く革命的な仕組みを考えました。政治新聞は高くても買う人がいますが、値段を半分に下げた政治色のない新聞をつくったのです。彼が天才だったのは、最後の面を全部広告にしたのです。
インターネットの時代に続くさまざまなシステムはジラルダンが考えたのです。ジラルダンは、さまざまなアイディアを「1日1アイディア」といって残していますが、驚くべき予見性で、ほとんどが実現されています。
そのジラルダンが拠った考え方というのが「サン=シモン主義」といって、サン=シモン伯爵(1760~1825)が考え出した経済思想です。
サン=シモンはマルクスが空想社会主義者と呼んだために誤解されているのですが、僕なりに解釈するならば、サン=シモン主義は外部注入型の高度資本主義です。つまり、全く地盤がないところに、いきなり上からシステム的に資本主義をつくってしまおうという考え方です。この世のすべてはサーキュレーションで、モノ・人・金が動くことによってしか富は生み出されない、動いていれば富は出てくる。ならば動くようなシステムをつくってしまえと考えて、彼が最初に言及したのが銀行です。
それまでのロスチャイルド型の銀行というのは、金持ちからお金を預かって外国の債券に投資するという今日のファンドで、金持ちの金をより増やすというものでした。サン=シモン主義は、完全なベンチャーキャピタルです。有望な産業を育成するためにお金を投資する、そのためにまず銀行をつくり、それから直接金融として株式会社をつくるわけです。個人が持っていた小さなお金、死んでいたお金が株式会社という形で集まって大きくなり、それが投資されることによってフローに入って行く。株式会社こそ、世界を動かす原理です。
もう1つ重要なのは、鉄道です。消費地点と生産地点が結ばれなければ消費は生まれません。モノは動かなければ富を生まないのです。しかし、モノを買ってもらうには幻影が必要です。そこで彼が考えたのが、万国博覧会というシステムでした。万国博覧会というのはモノを見せるのですが、どういうわけか人は見せられた商品に、まるで絵画や美術品を見たときのように、1つの物神性、フェティッシュを感じます。そこにさらにコンペティションという概念を導入して、付加価値を加えたのです。
五輪のメダルというのは、実は万国博覧会のまねをしたものです。メダルがあると一所懸命頑張りますし、メダルを得たら宣伝に使えるということで世界中から商品が集まってくるわけです。万国博覧会というのは商品の五輪だったのです。
関連書籍
パリの王様たち—ユゴー・デュマ・バルザック三大文豪大物くらべ
鹿島 茂文芸春秋
新聞王ジラルダン
鹿島 茂筑摩書房
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2009年11月18日 (水)
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第3章 編集者ジラルダンのアイディアは今でも有効
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