いま改めてサステナビリティを考える6冊
2015年、国連総会で人類が一丸となって取り組むべき課題が採択されました。17のゴールと169の具体的なターゲットからなるそれは、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」と呼ばれ、私たちがこの星で暮らし続けるための大切な指針となっています。
今では、行政や多くの民間企業がSDGsを掲げた取り組みを行い、私たちの生活のいたるところで「持続可能性(サステナビリティ)」という言葉を耳にするようになりました。しかし、実際それがどういったもので、どのような未来に繋がっているのか、いざ考えてみるとよく知らない、という方も多いのではないでしょうか。
私たちはここで一度足を止め、SDGsの意味、目的を改めて見つめなおす時がきているのかもしれません。今月はそのヒントとなる6冊をご紹介いたします。
センス・オブ・ワンダー
環境汚染を社会問題として取り上げ、SDGsの嚆矢ともいえるベストセラーとなった『沈黙の春』。その著者、レイチェル・カーソンの遺作である『センス・オブ・ワンダー』は自然の美しさ、神秘を見つめ、この星で生きることの喜びを綴ったエッセイです。
環境は守るべき、と分かっていても、では「なぜ守る必要があるのか」と問われたとき、私たちはどのように答えるでしょうか。本書が提示するのは、実にシンプルな答えです。すなわち、自然に触れ、生きることこそ幸福だから。この単純で、揺るぎない理由があるからこそ、私たちは自分事として「環境問題」に取り組むことができるのです。
サステナビリティ経営のジレンマ
企業価値向上を阻む5つの障壁
多くの日本企業がSDGsに取り組みながらも、サステナビリティ経営がうまくいかないのはなぜか。その根本には、既存の事業の名前を変えただけ、あるいは宣伝に終始する「ワッペン貼り」がある、と本書は喝破します。
そもそも、SDGsに求められる「社会課題」と、企業として満たすべき「顧客課題」は別のもの。それを一つにするためには、新たな目標、新たな企業価値を見出す必要があるのです。社会的ビジョンだけでなく、経営転換の具体例も提示する本書は、SDGs時代に事業を営むすべての人におすすめの一冊です。
多元世界に向けたデザイン
なぜ人類はSDGsを必要としているのか。それは、こう言うこともできるはずです。なぜ人類は今、存続「不」可能な未来へと向かっているのか。歴史、政治、文明……様々な要因が絡み合ったこの問いを、本書は「デザイン」という視点から考えます。つまり、これまでの人類史を支配していた家父長制資本主義は、一つの失敗したデザインである、と。
デザインとは、単なる様式の話に留まりません。それは思考を決定し、社会を導き、人類の枠組みとなるもの。ゆえに、新たな人類のデザインを生み出すことは、サステナブルな未来を創ることに繋がります。本書が展開するデザイン思考は、きっとSDGsの大きなヒントとなるはずです。
森と算盤
地球と資本主義の未来地図
日本近代資本主義の父、渋沢栄一が切り開いた資本主義は長い年月を経て形を変え、限界を迎えようとしている——。そんな警句から始まる本書では、渋沢栄一の名著『論語と算盤』を、そのひ孫が読み解き、刷新します。キーワードは「里山」。すなわち、日本が昔から守ってきた「存続可能な社会」です。
お金を得ることを原動力に社会は発展し、暮らしは豊かになる。それはもとより「よりよく生きる」ため。しかし、現在の資本主義がもたらす「豊かさ」とは本当に「生きる」ために必要なことなのでしょうか。日本の里山が守ってきた豊かさの節度、そこにはSDGsの先駆けとなる「生き方」があります。
世界がかわるシマ思考
離島に学ぶ、生きるすべ
シマとは人と人とが支え合うコミュニティを指す言葉。それを体現するのは、文字通り「島」に他なりません。分散された小さな世界で自然と共に生きていく、SDGsを達成するための一つの答えをそう表現するとしたら、日本の離島ほど例として適したものはないのです。
本書は日本各地の離島の生活を紹介しつつ、様々な専門家による「シマ」論も収録。人口減少が止められない現代、先細りする公助の中で全ての人を取りこぼすことなく繋ぎ、助け合うシステムとは何かを考えます。本書を手に、いざ離島へ。そこから見えてくる未来があるかもしれません。
大適応の始めかた
気候危機のもうひとつの争点 どれほど国際社会が協調し、規制を行っても、もはや気候問題は止まらない。どうやら、そんな過酷な事実に向き合う時が来ているようです。しかし、本書はこう続けます。ゆえに適応は避けられないが、誤適応は避けられる、と。
つまり、社会は必ず環境の変化に応じた変革を求められますが、その変革のやり方には良し悪しがある。環境の悪化は何も一息に人類を滅ぼすわけではありません。人類はやがて適応しますが、その過程でどれほどの「痛み」を伴うかは、方法次第なのです。鍵となるのは市民の参加。つまり私たち一人一人の意識が、持続可能な社会へ転換する成否を決めることになるのです。
サステナビリティとはもはや他人事ではなく、私たちの未来に直結した喫緊の課題と言えるのではないでしょうか。 ご紹介した6冊は、様々な観点からその課題に取り組む格好の足掛かりとなるはずです。ぜひ、お手に取ってみてはいかがでしょうか。
センス・オブ・ワンダー
レイチェル・カーソン筑摩書房
サステナビリティ経営のジレンマ : 企業価値向上を阻む5つの障壁
川井健史ダイヤモンド社
多元世界に向けたデザイン
アルトゥール・エスコバルBNN新社
森と算盤 地球と資本主義の未来地図
渋沢寿一大和書房
世界がかわるシマ思考——離島に学ぶ、生きるすべ
『世界がかわるシマ思考』制作委員会離島経済新聞社
大適応の始めかた——気候危機のもうひとつの争点
モーガン・フィリップスみすず書房
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