六本木ヒルズライブラリー

【ライブラリーイベント】開催レポート
エントランスショーケース展示連動企画 
不思議の国のアリスを描き続ける

ライブラリーイベント

日時:2017年7月12日(水)19:15~20:45@カンファレンスルーム7

コアエントランスのショーケースで、5月26日より開催された『TENNIEL vs JAPANESE ARTISTS ~日本の画家が描いた「不思議の国」のアリス』の展示企画と連動して、タイトルにもなっているアリスを描いた「JAPANESE ARTISTS」のお一人、不思議の国のアリスを描き続ける半那裕子さんにお越しいただき、半那さんが捉えたアリスをご紹介いただきました。

アリスと半那さんの出会い



芸術の中でもファインアートを学んできた半那さんは、アリスを描く以前は、超現実主義と言われるシュルレアリズムの手法で作品を描いていたそうです。
このシュルレアリズムの代表で、皆さんが良くご存知なのはサルバドール・ダリですが、ダリも不思議の国のアリスを描いていて、大変貴重な作品になっているのだそうです。このシュルレアリズムという技法は、「現実的だけど変だぞ」と思わせるような見ているほうに錯視をさせなければいけないので、遠近法とか現実的なことを交えるなどの技法を習得しないと、ギクシャクした気持ちの悪いものになってしまうのだとか。
 
シュルレアリズムの作品は一般的に不気味な絵が多く、「この作家は頭がおかしいのか?」とか「夢の世界を書いているのか?」などの印象をもたれる事が多く、見てくれる人にもっと現実憾を持ってほしいと思い、現実と絵の世界の橋渡しの役割として、絵の中に女の子を入れるようになります。
 
アメリカのイエール大学で美術館学を勉強していた半那さんは、Yale Center for British Artのミュージアムショップで不思議の国のアリスの作者、ルイス・キャロルが撮った7歳のアリス・リデルの写真が掲載されている本を見つけ、これがアリスとの出会いになりました。

ジョン・テニュエルのアリス


アリスからその日のお話を本にしてと依頼されたキャロルは、なんと2年もの歳月をかけ、37枚の挿絵を書いて、12歳のアリスのクリスマスプレゼントとして贈りました。その後、その「地下の国のアリス」をもとに「不思議の国のアリス」となって出版された本の挿絵は、ジョン・テニュエルによるものだそうです。テニュエルの絵は現在のわれわれが見てるキャラクターと違い、笑っていない、不機嫌で、時には怒っているという特徴があり、現代のキャラクターに慣れている私たちからすると親しみにくいかもしれませんが、絵画的手腕は非常に優れていて、150年たった今でも飽きのこないとてもクオリティの高い作品です。
 
不思議の国のアリスが、150年も愛され続けてきた要因のひとつは、テニュエルの素晴らしい挿絵と言えます。日本ではディスニーのアニメが描くアリス像、金髪の水色のワンピースに白いエプロンをしているアリスを思い浮かべ人がほとんどだと思いますが、ディズニーは、元来のアリスの少し暗い部分や不気味な部分をすべて排除してしまい、鏡の国のキャラクターまで不思議の国のアリスに入れてキャラクターとして楽しむ物語に作り替えてしまっていて、イギリスでは、このディスに—のアリスをを拒絶する人も結構いるのだそうです。
 
暑い暑い夏の日、ボートにゆられてせがまれては少し話し、せがまれてはまた少し話すと言った調子で語られたお話のため、内容的には支離滅裂で、夢の中のお話という設定だから許される物語ではるものの、当時の文学の中でもこれだけ時空を超えた”ぶっとんだ”ものは存在しなかったそうです。これ以前の児童文学は倫理的で教育的なものであるべきという概念がありましたが、子供の夢物語という形でなんとなく文学界に入ってしまい、結果的に受け入れられましたが、この後の文学界や芸術など、あらゆる文化に結果的に多大な影響を及ぼす物語になりました。当時のアリスもキャロルもまさかそんなことになるとは思ってもいなかったでしょう。

半那さんの描いたアリス


写真の中の神秘的な7歳のアリス・リデルに触発されて、アリスを主役に絵を書きたいと直観的に思ったそうです。ちょうど半那さんも子供に絵を教えていた頃で、7歳くらいまでは本当に奔放に楽しい訳のわからない絵を描くことを知っていました。7歳以降になると特に女の子は人の目からみたらどうだろうということを意識して、指は4本ではおかしいとか、鼻はこんなに大きく書くとまずいなど、価値観や概念が変化してくるのだそう。7歳から10歳あたりが少女と女性のはざかい期で、女性の一生の中でほんの一瞬、中性的で神秘的な存在の少女期の最後の時期があると半那さんは言います。それはとても複雑な存在で、無邪気さと女性的な魅力をたたえた両方をもった時期で、この時期のアリスを描きたいと強烈に思ったそうです。
 
毎年7月4日には、物語の発祥の地であるオックスフォードでアリス・デーというイベントが開催されていますが、2015年のアリス・デーは「不思議の国のアリス」出版150周年にあたり、例年に増して盛大なお祭りとなりました。そして、その年、日本人画家として初めて、半那さんのアリスもこの会場で展示されました。絵巻物風に26枚のアリスを時系列で描いたもので、水墨画を意識してほとんど無彩色で描いた神秘的なアリスを再現した作品です。
 
「アリスは自由な心を持って冒険をした女の子ですが、決して特別な女の子ではなく男女を問わず皆さんの心の中にもアリスがいるのではないでしょうか?それゆえ、150年語り継がれ、愛されてきた稀な文学として生き残ったのではないかと思っています。少しでも多く、長く、この物語の素晴らしさを人々に伝えるために今後も不思議のアリスを描き続けたい。」と、最後にアリスへの思いを語っていただきました。
 


【スピーカー】半那 裕子(画家)


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