六本木ヒルズライブラリー
【ライブラリーイベント】開催レポート
『ヒットを育てる!食品の機能性マーケティング』出版記念セミナー ヘルスケア・健康食品のヒットの秘密
ライブラリーイベント
日時:2017年5月31日(水)19:15~20:45@スカイスタジオ

ヒットを育てる! 食品の機能性マーケティングの出版を記念して、著者の株式会社インテグレート 代表取締役CEO藤田康人氏と日経ヘルス 元編集長で日経BP社マーケティング戦略研究所にて、ヘルスケア領域の研究を担当する西沢邦浩氏をお迎えしました。
ヒットの法則 消費者の物語をつくる!

まず藤田氏から「機能性マーケティングでヒットを産むための方程式」と題して、「健康」や「美」の領域におけるマーケティングのキーポイントについてお話しいただきました。
味の素で、甘味料「パルスイート」のマーケティングを担当されていた藤田さんは、味の素を退職したあと、フィンランド生まれの天然甘味料「キシリトール」を扱う原材料メーカーに移り、それまでの「ガムは歯に悪い」から、「虫歯予防にはキシリトールガム」という常識につくりかえ、0だった日本のキシリトール市場を2000億円にまで成長させることに成功しました。この事例は、機能性マーケティングのさきがけでもあり、統合型ヘルスケアマーケティングをクライアントに提供する株式会社インテグレートのサービスの原点でもあるようです。
キシリトール製品の中には長い年月と費用をかけて、特定保健用食品という厚生労働省からの認可を取得しました製品もありましたが、取得のハードルが高いので、現在では平成27年からスタートした「機能性表示食品」制度が比較的取り組みやすく、食品関連企業の関心を集めているそうです。
ココナッツオイルやエゴマオイル、チアシード、さらに藤田さんが最近仕掛けた「スーパー大麦」などの多くのヒット商品にはヒットを生み出す法則があるそうです。それは、商品そのものではなく、機能性素材と言う観点からみたマーケティングアプローチで、素材の研究・調査を行い、その効果をエビデンスとしてまとめるほか、医師や専門家を巻き込みメディアを使ったPRを展開し市場を創造するBtoBtoC戦略がヒット商品を生み出す法則だと言います。
また、メディアを使った訴求には、社会性のあるコンテンツであることが重要だと言います。例えば明治のR-1は、含まれているラクトフェリンがインフルエンザ予防に効果があるという実験結果をインフルエンザが流行る直前の冬前にメディアに持込んだため、大きなインパクトがあり、その結果、ヒット商品となったそうです。
いっぽう、アルファリポ酸のようにマルチファンクションの商品の機能を絞らずにリリースしてしまい、ターゲットがぶれて上手く訴求できなかった例もご紹介いただきました。アルファリポ酸は、確かにいろいろな効果が期待できる素材ですが、それを全部訴求するのではなく、効果を絞って出していくことで、メディアにも取り上げられやすく、消費者にとっても理解しやすく購入につながると言います。
消費者の本当の気持ちをマーケターがストーリーに反映し、期待値をコントロールしながら効果を伝えていくことが必要だと藤田さんは訴えます。分かりやすいエビデンスを用意し、想定しやすい物語を作りながらメディアや研究者、ブロガーなどを巻き込んでいくことが大事だと締めくくりました。
機能性食品のブームをつくる - メディアの役割

続いて日経BP総研マーケティング戦略研究所 主席研究員 西沢邦浩氏からメディアの立場から見たヘルスケア・機能性食品のヒットの秘密をお話しいただきました。
西沢さんは、健康雑誌を出版している立場として、読者の皆さまが毎日食べる食事で、出来るだけ美味しく食べて、さらに健康になってもらいたいと言う思いを持っているのだそう。そして、何をどうやって取り上げるかと言う事に関しては、編集者がどこまで想像力を広げてエビデンスを探していけるかが、強いストーリーのエンジンになるのと言います。
このことについて、「納豆」の記事の事例で解説していただきました。最初に、骨折の発生の全国調査をもとに、その要因を探ります。住む地域、マグネシウム、ビタミンD、K、カルシウムの摂取量など。そして、その中でも骨折と強く相関した「ビタミンK」の摂取量に注目しました。そこから、ビタミンKを多く含む食材を探し、納豆に行きつきます。さらに調査を進めたところ、納豆の消費量が少ない地域で骨折率が高いことを特定しましたところで、この情報をもとに記事をどう展開するかを考えます。そこで、「骨粗しょう症のリスクを軽減する効果が期待できる」ことと「閉経後の最初の2年で関節の劣化が進行する」ことにを理由に、「40歳を過ぎた納豆を食べよう」という組み立てにし、さらに、ひきわり納豆は総面積が大きくビタミンKの生成量が多くなるため、最終的には、「40歳を過ぎたらひきわり納豆を食べよう」とひきわり納豆を紹介することになりました。藤田さんのお話とも重なりますが、「エビデンスとストーリーをどう伝え、売上につなげるかには、消費者に対して、「これはあなたに必要なものだ」という堀を埋めて道路を造成していく必要があると言います。
最近ブームになっているキーワードとして、2016年の日経ヘルストのレンド番付によると、東の横綱は「低糖質商品」、東の横綱は「大麦入り食品」で、東洋経済の2017年のトレンド予測でも同様の結果がでています。この両横綱には実は共通項があり、いずれも糖質の摂取に関連します。この糖質摂取に関連するムーブメントを生み出すためにマーケティング的な観点で必要なのは、アジア地域で糖尿病患者が急増しているという事実と日本人は非肥満型の糖尿病が多いこと、糖尿病の放置は大きなリスクがあると言う事だと西沢さんは言います。
東アジア人のインスリンは黒人の1/5、白人の1/2で、太る前に糖尿病になる傾向にあるのだそうです。過食を受け付けない民族だからこそ、食べ過ぎない食生活が体質に合っていて、そのことを上手く伝えるために「ベジタブルファースト」という言葉を開発したのだそうです。皆さんも一度は聞いたことありますよね?食事の際には血糖値の上昇を緩やかにするために野菜などの食物繊維を最初に食べようというこの食事方法を「食べ順ダイエット」などの表現をしていたメディアもあったそうですが、結局「ベジタブルファースト」、「ベジファースト」という言葉と食事法が定着し、女性同士の会話でもたびたび聞かれるようになりました。この例からわかるように、消費者に何かを訴求する際は、説明が不要で解りやすく、伝えやすい事を考慮することが大切だとお話しいただきました。
メーカー、メディア、消費者の三方良し
両氏は、マーケティング・コンサルタントとメディアというそれぞれの立場から、機能性食品の効果効能を訴求する上でのエッセンスをお話しいただきました。企業のマーケティング戦略・戦術がより複雑化高度化する中で、PRやメディアとの連動、第三者機関の巻き込みといった重層的な視点でヒットの秘訣を考えるアプローチは、サービスや商品を問わずマーケティング活動に携わる方への考えるヒントとなったのではないでしょうか。
また、メディアがメーカーなどからの情報をそのまま採用することなく、信頼のおけるエビデンスを取得して独自の検証をした上で取り上げることで、メーカー、メディア、消費者が三方良しとなるのだと思いました。
また、メディアがメーカーなどからの情報をそのまま採用することなく、信頼のおけるエビデンスを取得して独自の検証をした上で取り上げることで、メーカー、メディア、消費者が三方良しとなるのだと思いました。

【スピーカー】藤田 康人(株式会社インテグレート代表取締役CEO)
西沢 邦浩(日経BP総研マーケティング戦略研究所 主席研究員)
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