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六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第10回
そもそも“人”とは何か?

気鋭の研究者が読み解く「ポストヘルス時代」の生き方

更新日 : 2017年07月19日 (水)

第6章 我々がどうなりたいか、そこに答えがある



人間は120歳よりも長く生きる?

仲木竜: 織田信長の時代は「人間50年」でしたが、現在はゲノム編集もなしに医療と食事だけで身体的には80~100歳まで生きられます。一方で、「心の豊かさ」で考えれば、織田信長の頃から失われた価値観があり、寿命が延びる中で新たに培われてきた価値観もある。どちらを重視するかは難しいところですが、社会のあり方を過去に戻すことはできませんし、寿命が延びるのは必ずしも悪いことばかりではないようにも思います。

丸幸弘: 「大多数の人が長く生きたいと考えれば、寿命は延びていく」というのが僕の仮説ですが、僕にとって最大のクエスチョンは、「健康なまま長く生きたい」という意思はどこから生まれるのか? 「120歳まで生きたい」と決めているのは脳みそですか?

仲木竜: その前に、僕は「120歳が限界」という前提がずっと気になっていて。我々の考え方が固定化しているだけで、やり方を変えれば、実は120歳が限界ではなく、200歳まで生きられるかもしれない。その可能性があるならば、最初から120歳を基準に議論するもの変ですよね。

丸幸弘: それはすごい話だね。しかし、学術的な論文ベースでは120歳を更新してないという現状もある。

高橋祥子: 一旦立ち止まっているだけ、かもしれません。120という数字が最初からプログラムされたものではなく、人類が誕生してからゆっくり増えてきたのだとすれば……。

仲木竜: 生命の長い時間軸で見た場合、局所的に寿命の延びが止まっているだけで、どこかで再び増え始めるかもしれない。

高橋祥子: その可能性はあると思いますね。

丸幸弘: 現状では、年齢を決めている要因の全貌はまだ分かっていません。ゲノムだけでは分からないことまでは分かり、今後はエピゲノムや腸内細菌など複合的な影響を含めて、大きな視点で考えていかなければならない。しかしながら、現在のサイエンスやテクノロジーは細分化されすぎてしまい、特に末端にある最も新しく、深く、尖った知見をつなげることが難しい。ヒューマノーム研究所はこれらの知見をつなげることで、「人とは何か?」を考えていこうとしています。
それでは最後に、今回のテーマ「そもそも“人”とは何か?」についてひと言ずついただけますか。

山田拓司: そもそも人間とは「人と菌の融合体」である。腸内細菌の研究は10年単位でブレークスルーが起こっており、皆さんが考える「人間」の定義も同じサイクルで劇的に変化していくと思います。

仲木竜: 僕は、従来の「人」の枠組みを変えていきたいと考えています。そのカギは、いかにゲノムを出し抜けるかどうか。現状、ゲノムが仮定している枠組みを打ち破り、良い意味で人間の可能性を広げていく。それを追求していくことが面白いかなと思っています。

高橋祥子: 結局、我々は今後どうなりたいのか、そこに答えがあると思います。ニーチェは「過去が現在に影響を与えるのと同じように、未来は現在に影響を与える」と言っています。皆さんがどのような未来を思い描くかによって、現在の考え方や生き方が変わる。それによって今後、人間がどういうものになっていくのかも定義されていくのだと思います。ぜひ、より良い未来、望ましい未来に向けて前向きな議論をしていきましょう。

丸幸弘: そのために、我々研究者も積極的に情報を発信していきます。今回はゲノムやエピゲノム、腸内細菌という点から議論しましたが、今後は脳科学や心理学、AIなど、より幅広い視点を入れながら議論を深めていきたいと思います。皆さん、ありがとうございました。(了)

該当講座


六本木アートカレッジ 「そもそも“人”とは何か?」
六本木アートカレッジ 「そもそも“人”とは何か?」

丸幸弘(リバネス)×山田拓司(メタジェン)、仲木竜(Rhelixa)、高橋祥子(ジーンクエスト)
10回シリーズの最終回のテーマは「人とは何か?」です。医療分野のテクノロジーの進化により、様々な病気について、治療はもちろん予防も現実的になってきています。その結果、健康に対する考え方、生命観も問われ始めています。今回は、「ポストヘルス時代」における人のあり方を思索する研究所、ヒューマノーム研究所の若手研究者をお招きして、そもそも「人とは何か?」について多様な観点から議論します。


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