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六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第10回
そもそも“人”とは何か?

気鋭の研究者が読み解く「ポストヘルス時代」の生き方

更新日 : 2017年07月18日 (火)

第3章 「ゲノム×ものづくり」で世界をリードする

仲木竜(株式会社Rhelixa 代表取締役社長)


エピゲノム解析のRhelixa(レリクサ)

仲木竜: 僕は、生まれ持ったゲノムの活性を変化させる後天的(時間的・環境依存的)な分子相互作用「エピゲノム」の研究を行ってきました。現在は「ゲノム×ものづくり」で世界をリードする、というビジョンの下、大規模データと独自の計算アルゴリズムをベースに、ゲノムやエピゲノムの働きを明らかにする研究開発、そこで得た知見を応用したものづくりなどを行う株式会社Rhelixa(レリクサ)の代表を務めています。

エピゲノムは、あまり馴染みのない言葉だと思います。ゲノムは両親から受け継いだものであり、基本的にその形は一生変わりません。しかし、ゲノムを構成する個々の遺伝子は、後天的にもたらされる様々な影響によって働きがオンになったりオフになったり、発現の仕方が変化します。それを左右しているのがエピゲノムです。

例えば、一卵性双生児は同じゲノムを持って生まれますが、成長するにしたがって身体の特徴や病気のなりやすさは変わっていきます。その理由は、後天的にエピゲノムの状態が変化していくから。ゲノム解析が両親から受け継いだ遺伝情報を調べるものだとすれば、エピゲノム解析は「生まれた後の変化」について調べるものです。

Rhelixaでは、医療の分野で扱われることの多いがんや糖尿病など、致命性のあるものではなく、精神・身体的に負担となる症状である薄毛や不妊、不眠、肥満などをターゲットとし、それらの予防・対処に役立つ検査方法や製品開発など、大きな意味での「ものづくり」を行っています。

いま注力しているのは、「ポータブルDNAシーケンサー」です。スマートフォンのように使える手軽なもので、どこにいてもDNAを読むことができ、分析結果をその場で色々なものに役立てられる。そうした装置の開発とともに、得られたデータを起点とした様々なソリューションの開拓にも取り組んでいます。

「稼げる研究者」の意義
仲木竜: Rhelixaのメンバーは、一人ひとりが「稼げる研究者」になることを目指しています。僕自身、在学中はエピゲノムと病気の関係について研究していましたが、医者でもなく、創薬ができるわけでもないため、社会との距離を感じていました。そこで、新たに生み出した技術や研究成果を、より素早く、直接的に社会に提供したいと思い、会社を立ち上げました。

社会の役に立つためには、「稼ぐ」ことも必要になります。社会に求められる質の高いソリューションを開発し、人に喜ばれながら利益を得ることで、そのお金で研究開発を加速させ、成果を再び社会に還元していく。このサイクルを回すことで、今後は人に限らず、動植物や微生物など様々な分野の課題も解決していきたいと考えています。

丸幸弘: 高橋さんと仲木さんは、ともに最先端の研究を行いながら在学中にベンチャーを興し、ビジネスも軌道に乗せて……。本当にすごいよね。理科離れが進み、大学の研究予算も削られて日本の知の空洞化が進む中で、ビジネスの世界でガンガン攻めていく若い研究者が登場してきたのは、非常に嬉しい話です。

ポータブルDNAシーケンサーも面白い。パソコンやスマホが1人1台の時代になったことで、一気に理解が深まっていったように、ゲノムに関する機器や装置も1人1台の時代になれば、社会的な認知度や理解度も向上していくはず。そうなる時代も、すぐそこまできているわけだ。

該当講座


六本木アートカレッジ 「そもそも“人”とは何か?」
六本木アートカレッジ 「そもそも“人”とは何か?」

丸幸弘(リバネス)×山田拓司(メタジェン)、仲木竜(Rhelixa)、高橋祥子(ジーンクエスト)
10回シリーズの最終回のテーマは「人とは何か?」です。医療分野のテクノロジーの進化により、様々な病気について、治療はもちろん予防も現実的になってきています。その結果、健康に対する考え方、生命観も問われ始めています。今回は、「ポストヘルス時代」における人のあり方を思索する研究所、ヒューマノーム研究所の若手研究者をお招きして、そもそも「人とは何か?」について多様な観点から議論します。


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