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<ビジネス・チャレンジ・シリーズ>テレビ離れした若者をスマホで取り込め!AbemaTVはメディアを変えるか?
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更新日 : 2017年03月14日
(火)
「旬なビジネストレンド」の最前線にいるゲストをお招きし、「iPodの仕掛け人」として知られる前刀禎明氏のファシリテーションで深く掘り下げて議論する“ビジネス・チャレンジ・シリーズ”。第1回は、サイバーエージェントとテレビ朝日が共同で展開する新たな事業、インターネットテレビ局AbemaTVにフォーカスしました。
セミナー開催日:2016年12月5日
ゲストスピーカー:
西村裕明 (株式会社テレビ朝日 総合ビジネス局デジタル事業センター長)
卜部宏樹 (株式会社サイバーエージェント 執行役員/株式会社AbemaTV 取締役)
モデレーター:前刀禎明 (株式会社リアルディア 代表取締役社長)
写真:御厨慎一郎
サイバーエージェントとテレビ朝日が共同事業として手掛け、2016年4月の開局以降、異例のスピードで普及しているインターネット放送局AbemaTV。テレビを見ないといわれる若い世代に人気があるということでも注目されています。
今回のセミナーは、元Apple日本法人社長で「iPodの仕掛け人」として知られる、リアルディア代表の前刀禎明氏がモデレーターを務める新セミナーシリーズの第一弾として開催しました。全く新しいモデルを立ち上げるにあたってどのようなプロセスを経て現在の成功まで導いたのか、さらには、2社の考え方の違いを乗り越え、それぞれのアイディアをどのように活かして相乗効果をあげているのかについてなど、アプリ開発や番組制作の現場、また経営方針に携わる両社のキーパーソンに舞台裏を伺う場となりました。
AbemaTVが目指すのは「マスメディア」
まず、サイバーエージェントの卜部氏から、現在のAbemaTVの状況が共有されました。AbemaTVは開局約半年でアプリのダウンロード数1,000万を達成していますが、このスピードで伸びているのは国内でもLINEなど数えるくらいしかない、といいます。しかし、アプリのダウンロード数だけでメディアの規模ははかれません。では、どれくらいの人が見ているのでしょうか。月に一度以上AbemaTVを見る人は約600万人、週では約300万人、1日では約100万人(2016年12月時点)であり、実際のユーザー数でも過去のサイバーエージェントが手掛けたサービスと比べても類をみないスピードで伸びているとのことでした。
それでも同社は現状に満足しているわけではありません。
「AbemaTVが目指すところですが、“私たちはマスメディアになりたい”と思っています。」と卜部氏。そのためには週一回以上視聴する人をまずは1,000万人以上にしなければならない、と目標を語りました。
インターネット動画配信サービスと一言でいっても、誰でも動画を配信できるYouTubeから月額利用料を払って映画やドラマを視聴するHuluなど多岐に渡ります。AbemaTVの特徴は、「24チャンネル完全編成」+「全てプロによって制作されたコンテンツ」+「無料視聴」です。実際にスマートフォンとFireTVでデモを見せながら、サイバーエージェントの技術力を結集して、既存のテレビとほぼ同様にストレスを感じさせることなく、チャンネルをザッピングして見ることができるようにしたと解説して下さいました。
視聴者の属性は、地上波放送局においては若者離れが進んでいると言われるのに比べ、AbemaTVは10代~30代で半分以上を占めています。番組も若者向けに制作しており、AbemaTVが独自に制作するニュースやバラエティも特別スタジオを設けて放送しており、力を入れている様子が伝わってきました。
開局3日目に発生した熊本地震の際は、ニュースチャンネルをすぐに地震ニュースに切り替え4日間地震の緊急情報を配信したことや、米大統領選のときにCNNの放送を同時通訳で配信して多くの方に視聴されたことに触れ、緊急時や重要なニュースにいつでも対応できるようにしていることが、マスメディアにとっては重要なことだと強調しました。
収益は地上波放送と同じCMモデルということですが、ここにもAbemaTVのマスメディアへのこだわりがありました。「ネット企業なのでターゲティングとか視聴者をセグメント化することも可能ですが、基本は全ての視聴者に同じCMを見せています。そこには“マスメディア”として、テレビと同様に幅広い対象者(マス)に向けて広告をみせていきたいという意識があるからです。」
テレビ局としてのチャレンジ
テレビ朝日の西村氏からは、同社がAbemaTVを手がける意義をお話いただきました。「ここ数年の間にテレビを取り巻く環境が変化し、人々の視聴形態が変わってきていることを背景に、これまでの放送が相対化してしまうのではないかとの危機感がある」と西村氏。「テレビ局としても新たなユーザーと接触機会を拡大する必要性を痛感している」といいます。
そこでテレビ朝日は、地上波、BS、CS放送を中核事業に据えつつも、それ以外にニーズが高まっていると判断した2つの柱-「インターネット」と「メディアシティ」(ライブや夏祭りイベントなどのリアル体験)-を成長事業として位置付けました。その中でAbemaTVは「インターネット」の部分で新たなユーザー獲得とビジネス開拓の狙いがある、と語りました。
「最終的に我々は動画広告を収入源の一つとしたいと考えてAbemaTVをやっています。」
なぜマスメディアを目指すのか?
モデレーターの前刀氏とのディスカッションでは、既存のテレビ放送との違いや、番組やCMを作る上でネットだからこそできることなどを中心に話し合われました。議論からは「ネットの中にマスメディアを作るというのはどういうことなのか?」を考えさせられるものがありました。
特に前刀氏の「インターネットの特徴はアクティブに自分で選ぶ、というところにあるが、なぜ受動的なメディアをそこに作ろうとしているのか?なぜ、そもそもマスメディアを目指すのか?その先にあるものは何か?」という根源的な問いに対する両氏の答えが、AbemaTVのチャレンジの大きさを物語っていました。
卜部氏: 「ビデオ・オンデマンドとの違いは、自分が選ばなくても受け身で見ることができる、というところにあると思っています。(情報過多の時代に)何かを選んで見る、というのは実はかなりハードルの高いものになっていると感じています。また、若者がニュースを見る機会がなくなっていると感じるので、AbemaTVを通して、若者にニュースを見ることを習慣化させたいと思っています。」
西村氏: 「少し前までは、皆さん家に帰ったらとりあえずテレビをつけていました。今は家に帰るとスマホを開いてFacebookなどを見たりしている。そこで、誤解を恐れずに言えば、スマホの中に究極の暇つぶしメディアを作りたい、と私たちは考えています。」
「ネットだからこそできることをやりたいとは思いながらも、マスを目指すということは、言いっぱなしではいけないとも思うのです。マスメディアである以上、信頼性を担保しなくてはならないですし、ネットの中にも信頼できるメディアを作る必要性があると思っています。」
「CMに関して言いますと、ネットだと何かを1回検索しただけで、どのサイトを見ても同じ広告が追いかけてきて疲れちゃいますよね。テレビCMって一方で『文化』だと私たちは考えていて、CMを見ることで気づかされることもありますので、ネット上にそういうCMを提供したいと思っています。」
自分の見たい情報だけを見るネットや、価値観や考え方が近い人がつながるSNSでは、偏った情報しか見ることができなくなる、と警鐘を鳴らす専門家もいます。偽ニュースが話題になる中で、ネットとテレビという全く違うメディアを融合させて、新たな信頼できるネットマスメディアの形を模索しながら、日本人の情報取得、習慣や文化に影響を与えたい、という想いがお二人の話から伝わってきました。
ネットとテレビの融合が生み出す新たな広告のカタチ
CMに関する前刀氏からの「テレビと同じような形態のCMでスキップできないのであれば、チャンネルを変えてしまう人も多いのではないか?」との問いに対して、卜部氏は「意外にCMにチャンネルを変える人は少ない事に驚き、受動的にみている証拠かもしれない」と話しました。地上波とはリーチする年齢の違いが、既存のテレビCMとの差別化につながり、営業活動もテレビ局の営業チームと一緒に動いている事で、ナショナルクライアントが参画しやすい状況になっているというメリットがあるそうです。「将来的には、ネットで取り込める視聴者と、テレビで取り込める視聴者層を、今までにない形でパッケージにしていくような広告商品は模索していきたい」と、既存のテレビやネットの枠ではできない新しいタイプの広告にチャレンジする意欲を語りました。
カルチャーの違う2社のプロジェクトの発展の秘訣
そもそも文化の違う企業同士のプロジェクトをどのようにして、ここまで発展させたのでしょうか?その秘訣は、両社合同の温泉合宿にありました。2つの企業の文化の違いをあえて肌で感じて、それを良し悪しではなく、違いとして互いに尊重し、すり合わせするための合宿であったといいます。「合宿で話しあわれたことは、ほとんど取り入れられていない」と笑いをとった西村氏ですが、それは、そこで何が話し合われたかということよりも、実際に両社のメンバーが腹を割って交流することがキーポイントだったことを物語るエピソードです。
すり合わせ作業は大変ではあったものの、「デジタルな仕事の中にも、人と人のつながりを作っていくことが協業していく上で、とても大事な時間」と、プロジェクト成功の秘訣がとてもアナログな交流にあったことを、両氏とも少し懐かしそうに語っていました。
また、影響を受けた点について、卜部氏は、「過去にも自社の動画サービスで番組の制作をしたことがあるが、テレビ局とはレベルが違うと感じている。限られたテレビ局間での切磋琢磨の中で、番組のクオリティーを高めるために培った技術力はすごい。番組が落ちるなどテレビ局の文化からは考えられないが、ネット(通信)では地上波の放送では起きないようなことが色々起きることもある。そのあたりの緊張感も、サイバーエージェント社内でも共有して、インターネット上の配信でも、地上波と同レベルのクオリティーを実現する努力をしている」と話しました。一方の西村氏は、「とにかくスピード感がものすごく早い。これをやろうと決めると翌日にはモックアップが出来上がっているようなスピード感がすごい」と、両者にとって文化の違いが、サービスの発展につながり組織にとってもよい刺激になっていることが窺えました。
白熱した質疑応答
参加者からのQ&Aでも今後のメディアの動向を探る質問が多数出ました。例えば、「収益性やビジネスの数字目標」についての質問に対しては、卜部氏は「本当に隠しているわけではなく、収益という意味での数字は、現在は追っていない」と明かしました。それよりも大事な指数は視聴者数であり、まずは、週間のユニークユーザー数を1000万人まで伸ばしていくことを追いかけている状況で、そのためには、「視聴の習慣化」をどう実現していくかが現在の課題であるとしました。
また、「画面に視聴者数が出ている理由は?」との質問には、「同じ番組を見ている人がこれだけいる」というゆるいつながりを実感してもらえる仕掛けを取り入れることで、ネット放送局ならではの視聴者同士のつながりを感じてもらいたい、と回答されていました。
最後に、前刀氏から、「既存のメディアとのパイの奪い合いや、現在の視聴者の生活習慣を変えるのではなく、新しいライフスタイルを提案し、生活の一部となるメディアを創っていただきたい」とエールが送られました。
前刀禎明氏がモデレーターを務める新セミナーシリーズ始動!
本レポートでは新しく始まる「ビジネス・チャレンジ・シリーズ」のモデレーターを務める前刀氏のご紹介、そして初回となる12月5日開催のセミナーのポイントをお伝えします。
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