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シリーズ「多様な価値を繋ぐ『日本発のプラットフォーマー』」
第4回 日本の町工場を未来へつなぐ:「CADDi」「浜野製作所」

Business Insider Japan×アカデミーヒルズ

更新日 : 2021年04月20日 (火)

前編:中小の機動力を生かした新事業開発を支える



シリーズ第4回は、日本のモノづくりの技術を未来へつなぐ発注プラットフォーム「CADDi」の加藤勇志郎さんと、スタートアップを技術で支援する「ガレージスミダ」で数多くの起業家を後押しする浜野慶一さんをお迎えしました。
中小のモノづくりの現場でキーパーソンとして注目を集める両氏から見た日本の製造業の現状と課題とは何か?そしてグローバルな市場で日本の町工場はどのような強みと展望があるのか?
ジャーナリスト・浜田敬子さんが、いま日本の製造業で起きていることをお二人にお聞きし、未来に向けた新たな展望を幅広い視点から議論していただきました。


◆ゲストスピーカー
加藤勇志郎(キャディ株式会社 代表取締役)
浜野慶一(株式会社浜野製作所 代表取締役)

◆モデレーター
浜田敬子 (ジャーナリスト/前BUSINESS INSIDER JAPAN 統括編集長)
多品種少量生産の時代に適した受注のプラットフォームを作る
浜田:今回はモノづくりをテーマにお二人をお招きしました。それではまず自己紹介を兼ねて簡単なプレゼンをお願いしたいと思います。加藤さん、よろしくお願いいたします。

加藤:私は元々、マッキンゼーというコンサルティング会社で輸送機器や重工業、色んな製造業の調達支援をしておりました。そこから3年ちょっと前に、製造業という業界の、特に調達における課題に気がつきましてCADDiを創業したという経緯です。

CADDiはモノづくり産業のポテンシャルを解放するというミッションを掲げているのですが、現在業界で支配的なのは「多重下請けのピラミッド構造」です。つまり、サプライヤーが一社とか数社の、非常に限られたお客さんに依存している構造ですね。

これの何が良くないかというと、やはりお客さんから言われたものは何でも従うという形になりやすいので、とにかく幅広くやっていながら、自分たちの強みはあまり分からない、ということになってしまう。

また、ずっと同じ一社と取引しているので、流動性が低く、依存度とリスクが高いわけです。CADDiが目指している構造は「強みに基づくフラット構造」ですが、これは、自分たちの強みをベースに色々な業界、お客さんと幅広く、流動性高く取引をすることで、安定的に経営が出来るというもので、強みをどんどん伸ばしていきながら、よりグローバルで戦える会社を作るサポートになることを目指しています。

なぜ、今、この構造の変化が求められているかというと、大きな出来事が二つ起こっているからです。一つはやはり「コロナ」ですね。一社に依存していたら、相手先が潰れたり、コロナで何か起こった時に、共倒れになってしまいます。

それからもう一点は、少し前から「多品種少量化」という流れが進んでいて、同じ所で同じものを作っていれば良かった時代から、色々なところからあらゆるものを買って作る時代になってきたというところがあります。こういった課題を解決するのがCADDiになりまして、我々がやっていることは一言で言うと「製造業の受発注プラットフォーム」です。フローとしては「発注者」である全国1500社くらいの「装置メーカー」、「プラントメーカー」である多品種少量系のメーカーさんが、装置の部品などを買う時にCADDiに図面データ(PDFやCAD)をお送りいただきます。

すると、CADDi独自開発の原価計算アルゴリズムに則った見積もりシステムを用いて価格を提示します。最適な工場、全国600社ぐらいの工場の強みがデータ化してありますので、受注をCADDiが受けると、どの会社に出せばいいのかということを判別して、案件を出すことが出来るわけです。CADDiは納品品質の責任も全部負っていまして、最後に検品までして、まとめてお届けするということをしております。

浜田敬子 (ジャーナリスト/前BUSINESS INSIDER JAPAN 統括編集長)

浜田:インタビュー記事で拝見したんですけれども、CADDiの特徴として3DCAD自動見積もりシステムというのがありますね。これがすごい技術で、作っていらっしゃるCTOの方をはじめとして、エンジニアが凄いというお話でしたが、まだ創業3年でどうしてそんなに凄い人材が集められたのでしょうか。

加藤:CADDiは私と小橋という2人で創業しているのですが、小橋は正に優秀なエンジニアでトップを務めておりまして、彼の存在が相当大きいと思います。エンジニアの方は優秀な人、面白い人、自分が学べる人がいるから来る、というところがありますので、そういった人がいるからまた次の人が来るという構造になっています。

浜田:最初に優秀な人が来ると、やはりリファラルで「その人と働きたいから」という人が増え、それが一つの集団になっていくわけですね。スタートアップで特にテクノロジー系の会社が成功する一番の要因はそこかもしれませんね。
中小の機動力を生かした新事業開発を支える
浜田:今度は浜野さんに、会社でどのようなことをチャレンジしていらっしゃるのか、お話いただきたいと思います。

浜野:浜野製作所は東京の墨田区に所在地しており、創立44期目になります。現在従業員が52名、業務内容は金属の部品加工*ですね。後はロボット、装置の開発や、原理試作、量産試作など、ものづくり系の新事業創出という方針を掲げております。(*精密板金・金属プレス金型設計製作・金属プレス部品製造・切削加工の部品加工等)

先ほど加藤さんも仰いましたが、町工場は一業種依存度や、一社依存度が高いところが比較的多くあります。浜野製作所も十数年くらい前までは、売り上げの85%を一社に依存していまして、そこから色々な事業構造を改革してきた結果、今の浜野製作所に繋がっております。2014年の4月16日から「Garage Sumida」という「ものづくりイノベーションを支える開発拠点」を立ち上げました。最近世に出ている有名なベンチャー企業とも、共に開発を進めて参りました。

300に近いスタートアップ、大企業さんで新規事業を手掛けたいという方々、大学や研究機関などからご相談が多くあります。開発事例として、小型で遠隔操作もできるEVを、中小企業がそれぞれ技術を持ち寄って4ヶ月で製作したことがあります。弊社は小さな会社なので社内で全てを完結出来る案件ばかりではありません。それぞれの企業の持ち味・強みを発揮し短期間での開発を実現するネットワークを構築してきました。良し悪しは別として大企業では稟議や決済に時間が掛かりますが、中小企業の場合は社長の決済1つでモノが動く・始められると言う良さがあります。
中小だと社長が「よしやろう」というと、グッとプロジェクトが進みます。この特性をうまく活用して、社会課題がどんどん多様化する今の世の中で、試行錯誤を色々積み重ねながら、圧倒的なスピードで、新たな事業を加速していくといったことを手がけています。

浜田:スタートアップが作りたいものとなると、これまでに無いものを作ることが多くなると思うのですが、そのあたりは結構難しいのではないでしょうか。

浜野:以前と比べるとソフトウエァが充実しアイデアを絵柄にするハードルは下がっています。
また素材・材料・特性・構造などについても、ある程度インターネットで調べる事が出来るようになっていますが、一方ではそれによる弊害も多く発生する様になりました。
例えば、試作品はつくることができても、量産になると、素材を調達するにも1トン単位、10トン単位じゃないとできない、ということがあります。

その結果、企画では存在するけれども、流通性が無いという話になります。そこで我々は、「何故この材料にしたの?」「その目的なら、こっちの方が流通性もあるし、コストも安くなるよ」というアドバイスをします。ものづくりの観点から、どの市場に、どのぐらいのコストで何個ぐらいこれを出したいんだ?と。そういうところから探っていくわけです。

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